日本政策金融公庫|交渉のカギ
独立開業資金の調達先として日本政策金融公庫(別称:公庫、国庫、国金)からの融資を検討されている方は非常に多いことかと思います。
公庫は政府が100%出資している政府系金融機関で創業者や個人事業主、中小企業へ向けたサポートに注力しているため、比較的低金利で創業融資の審査にも通りやすいといった特徴があります。
とはいえ、他の金融機関よりは通りやすいというだけで実際に融資のおりる割合はせいぜい30~50%くらいともいわれています。つまり、申請者の2~3人に1人は審査に落ちてしまっているということで、これから申し込みを考えている人にとってはやや狭き門のように感じられるかもしれません。
ただ、無事に融資を受けることのできた80%近くのお店が5年以上存続できているというデータもあり、見方を変えれば融資担当者の成功を見抜く目はかなり確かなものであるともいえそうです。
公庫との本格的な交渉は物件の仮契約や内外装工事業者の見積もりなども一通り終えた後から始まることになりますので審査を受けるタイミングとしては、もはや物件への着工を目前とした最終段階です。
そんな状況で、あてにしていた融資の獲得に失敗してしまったら大打撃どころの話ではありません。最悪の場合、創業の計画が一旦白紙に戻ってしまう可能性すらあります。
そこで今回は一発で日本政策金融公庫の審査を突破し、希望通りの満額融資を確実に受けるためのポイントや融資担当者と交渉する際のカギについてご紹介していきたいと思います。
① 申請から融資決定までの流れ
1. 最寄りの支店で相談
2. 融資の申し込み
3. 面談と審査
4. 融資の決定
1. 出店場所の最寄りの支店で相談
まずは以下の資料で事業を始めようとしている場所を管轄する支店を検索するところから始めましょう。
▶ 日本政策金融公庫 業務区域一覧
担当支店が分かったら電話をかけ『飲食店の開業を考えているので融資について質問や相談をさせていただきたいのですが…』と伝えます。
アポが取れたら指定された日時に支店の窓口へ足を運び、自身にはどの融資制度の利用が適しているのか、具体的な手続きの進め方、準備しておくべき資料などについて分からないことや気になることを気軽に相談してみてください。意外にフレンドリーに接してくれるはずですので特に怖がらなくても大丈夫です。
ただ何度も繰り返しアポをとって足を運ぶのは手間ですので相談は一度で済むよう、予め日本政策金融公庫の公式ホームページなどを見て可能な範囲で予習し、聞きたいことや相談したい内容については事前に整理しておきましょう。
2. 融資の申し込み
創業計画書や借入申込書などの必要書類一式を用意して窓口で融資の申し込みを行います(担保を付ける場合は登記簿謄本なども必要となります)。
創業計画書とは開業の動機やその事業に関する自らの経験、具体的な商品やサービスの内容、事業の見通しなどをまとめた資料で、その内容からあなたが開業しようとしているお店の『もうける能力』が判断されるという重要な書類です。
なお、融資に強い創業計画書の書き方についてはまた別記事で詳しく紹介したいと思います。
▶ 創業計画書のフォーマット
3. 面談と審査
申し込み資料一式を提出した後日、創業計画書の内容をもとに面談がおこなわれます。この際に創業計画書の内容を補完するような資料一式を持参できるように準備しておきましょう。
面談では事業内容の詳細について口頭で確認されたり、計画書に記載された数字の根拠などについて厳しい指摘や思わず返答に詰まってしまうような鋭い質問を受けることもあるかもしれません。
ですが、おどおどしたりせず誠実に自信をもって質問に答えていれば大丈夫です。相手はその道のプロですので理解していないことをごまかしながら話しても全てお見通しです。分からないことについては分かりませんと正直に言いましょう。
担当者はさまざまな質問をしてきますが時にはその回答内容ではなく、あなたが信頼できるタイプの人間なのかや理論立てて説明ができるのかなど経営者としての資質や人間性について見定めていることもあります。
面談当日は身だしなみにも気をつけ、約束の時間にも遅れたりしないよう就職面接に行くくらいのつもりで気を引き締めて挑みましょう。
4. 融資の決定
無事、融資の審査に通ると契約に必要な書類一式が送られてきますので借用証書に記入押印したり、印鑑証明書や借用金額に応じた額の収入印紙、送金先口座の預金通帳コピーなどを添えて返送します。
時には追加資料の提出が融資条件に含まれている場合もありますので、あわてずに届いた書類には隅々までしっかり目を通し、追加で必要な資料があれば用意しましょう。
全ての書類に不備がなければ書類の返送から1週間前後で指定の口座に数百円の送金手数料を差し引かれた金額が入金されます(※最初の申し込み時から面談や審査を経て、融資を受け取れるまでの期間はおおよそ1ヶ月くらいが目安です)。
ちなみに融資を受け取る口座は日常生活で使っているものではなく、新しく作っておいた事業専用の口座にすべきです。そして、お店を始めた後の光熱費など仕事関係の引き落としや公庫への月々の自動引落し返済なども全てその口座にまとめるようにし、プラベートと事業のお金は完全に区別する必要がありますので覚えておきましょう。
② 担当者はあなた側の味方
誤解されがちな盲点として日本政策金融公庫に申し込みをした際、あなたの提出した書類や創業計画書をチェックし、面談する担当者が決まりますが、実はその担当者自身があなたへの融資の可否を決定する権限を握っているわけではありません。
あちこちで情報公開されているので機密事項でも何でもありませんが公庫内部の融資審査の仕組みとしましては、まず担当になった人があなたの持参した資料や面談から得た情報を元に書類を作成し、それを上司である課長と支店長に提出します。そして、この2人の上司が書類をチェックした上でゴーサインを出せば晴れて融資が確定するといった流れになります。
つまり担当者はあなたの事業計画について評価するために書類をチェックしたり面談で厳しく追求してくるわけではなく、どちらかと言えばあなたの希望する融資をどうにか実現するために上司のチェックを通過できるような書類作りをしようと、突っ込まれそうな疑問点について予め確認してくれているだけなのです。
つまり『何とかお願いしますよ!』と担当者の人に土下座をしたって相手を困らせるだけで何の効果もありません。
ただ、担当者もロボットではなく、血の通った生身の人間です。
自分に対して横柄な態度をとったり、やる気の感じられない姿勢で接したり、曖昧でいい加減な資料の提出しかなければ、あなたへの融資を積極的にプレゼンする気を失くすのは当然であり、良い結果を得られることはまずありえないでしょう。
逆に真面目で誠実な人間性や事業にかける熱い思い、一生懸命な気迫やこれまでの努力が感じられるような人であれば多少資料の根拠などが稚拙であったり、説明が苦手で口ベタであっても『この人への融資を何とか成功させてあげたい!』と親身に協力してくれるに違いありません。
できる限り根拠のある正確な資料を準備し、自身の事業計画や強みについてしっかりと理解してもらうことで担当者の方も上司に対して、より自信を持った有効なプレゼンがしやすくなります。
言わば担当者は基本的なスタンスとしてはあなた側の味方なのです。ムダに怖がったり抗ったりせず、誠意と熱意を持って接しましょう。
③ 融資審査の最重要ポイント
さて、それでは決定権を持つ公庫の課長や支店長が最終的に融資の可否を振り分けているポイントとは何なのでしょうか。
それはズバリ、あなたの『返済能力』。この一点に尽きます。
あなたに貸したお金がちゃんと利息付きで戻ってくる見込みがあるのか。彼らは審査でその信憑性を量っているのです。むしろそれだけしか融資可否の判断基準はないといっても過言ではありません。
とはいえ、融資を申請してきている相手は初めての創業であり、過去の取引き実績もなく、お店自体もこれからオープンするため、あくまで提出された資料などから返済能力を予測で判断するしかありません。
そこで、その予測のために彼らがもっとも重視するのが資料の中に提示されている『売上見込みの合理的な説明』です。
公庫側としても貸したお金をきちんと返してさえくれるのであれば誰にでも喜んで貸したいというのが本音です。
売上が計画通りに立つのであれば借入金の返済はできるわけですから、そのためにも計画上の売上見込みが本当に実現できるのかどうかについて、その根拠を深く追求してくることになるわけです。
計画書では自身の希望や期待も入り混じって、つい利益を大きく見せたくなりがちですが、シビアに見積もっている方がしっかりと考えている印象を与えられ信頼感を持たれます。
売上見込みは開業当初と軌道にのってからの大きく2つの時期に分け、さらに良い時、平常時、悪い時の3パターンくらいに細分化して、それぞれ現実的でシビアな数字を店舗前の交通量や商圏に住んでいるターゲット層の数、客席数、回転数、客単価などから計算機をたたいて導き出し、なぜその売上見込みになったのかという明確な根拠(計算式)までを準備しておく必要があります。
『多分1日に20万円くらいは売れると思う』
『最低でも8万円以上は売れるはず』
などといった根拠のないイメージだけで融資を受けることはできません。
また数字的な根拠の他に『誰に買ってもらえるのか』ということを理解できており、あなたの店の商品が売れるためのマーケットがその出店場所にちゃんとあるのかという点についての根拠も必要となります。
その際、周辺の競合店の数や商業施設、駅や役所や大きな会社などが近くにあるかといった情報についても詳しく調べて資料に併載しておくべきです。
飲食店の場合、狙っているターゲット層が周辺にたくさんいさえすれば集客を見込める可能性は高いと見なされやすいため、そういった周辺情報も数字を実現できる根拠として大きく影響します。
担当者に対し、これらを自信を持って説明できれば希望通りの融資を受けられる可能性は極めて高くなるといえるでしょう。
④ 要点まとめ
・ まずは最寄りの支店で融資について相談。
・ 創業計画書などの書類を揃えて申し込み。
・ 担当者との面談を経て審査が実施される。
・ 融資決定の通知が届けば借用証書を送付。
・ 1週間ほどで指定の事業用口座に入金。
・ 担当者の基本スタンスはあなた側の味方。
・ 審査における最重要ポイントは返済能力。
・ 売上見込みの合理的な説明で判断される。
・ 明確な根拠を提示できるかどうかがカギ。
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