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#8【サンフレッチェ広島レジーナvs大宮アルディージャVENTUS|試合レビュー】相手の配置と可変を攻略した攻撃の形|2024-25年WEリーグカップ第4節


スタメン!ミックス!!

WEリーグ杯では、前節のベレーザ戦で敗れたため、これ以上の敗戦は許されない状態で臨む第4節大宮戦。スタメンはこれまでの主力組と控え組のミックスした陣容だ。

そして、U-20W杯帰りの早間選手が今季初先発。クオリティのある左足で先制点を演出し、自身のスペシャリティを示した。

試合全体を通しては、保持では相手の守備構造を見極めた攻撃を展開し、非保持では規律あるプレッシングで大宮の攻撃を封殺した。大宮のシュートを3本に抑え、1−0ではあるものの内容としては完勝と言えるだろう。


大宮の守備構造を攻略するボール保持を展開

保持の局面では大宮の配置や可変の特徴を踏まえたプレーが展開されており、可変を隙間を狙うカウンターや、マンマークを外すローテーショーンなど、準備されたと思えるプレーが随所に見られた。

アンカーを消すトップ下には中盤のローテーションで対応

初期配置では「広島4141」に対して、「大宮4231」という構図になっており、中盤の配置がちょうど噛み合うようになっていた。

昨季の対戦では、アンカーの小川選手が大宮のトップ下に消されて保持が機能しなかったため、中盤の噛み合わせへの対策は必須だ。

広島が講じた対策は「中盤のローテーション」だった。アンカーの笠原選手が横にずれ、空いたスペースにIHの柳瀬選手が降りて2ボランチ化することで、大宮のトップ下に対して数的優位を作る。

渡邊選手が降りるパターンもあり、中盤がスムーズにローテーションすることで、ビルドアップの安定化に繋がった。さらに、中盤での数的優位を作り、それによってボランチが引き出された場合は、周囲にできたスペースを前線の選手が使う意識も見せていた。

自陣では5バック化を厭わない大宮に対してライン間を狙う

大宮の守備は、中嶋選手を警戒してか左SHが後ろ重心で5バックになることも厭わないやり方であった。そのため、大宮左サイドのボランチ脇のスペースが大きく空く形となり、渡邊選手への効果的な縦パスが通っていた。

【渡邊選手と髙橋選手のワンツーでポケットに侵入】

ライン間で縦パスを受けた渡邊選手は、少し運んで目の前の左SBを固定し、髙橋選手とのワンツーを使ってポケットへ侵入。シーズン初得点の小川選手→藤生選手が見せたようなマイナスクロスでチャンスを演出した。

5バック化する大宮に対して、ボランチの脇でボールを引き出す渡邊選手
渡邊選手は少し運んで目の前の左SBを固定し、ワンツーで抜け出す
縦突破から相手をゴール方向に戻らせて、逆を突くマイナスクロス

ポケットへの侵入からのマイナスクロスは、チームとしても頻繁に狙っている形である。このシーンでは渡邊選手の相手を見ながら駆け引きできる能力が現れたチャンスシーンであった。

右肩上がりの可変システムの隙を突くカウンター

前半20分の先制点は中盤でのトランジションから始まったカウンターであった。早間選手のクオリティと中嶋選手のシュート技術の高さが光っていたが、このシーンには大宮DFの構造的な弱点も潜んでいた。

【先制点のシーン。中盤でのトランジションから早間選手のクロス】

まず大宮の保持の形から。保持では右SBが高い位置を取ることで、4231から325への可変を行う。先制点でボールを奪った場面も3バック化した右CBからシャドー化したトップ下への対角フィードを笠原選手が奪った所からだった。

大宮の保持は右肩上がりの4231→325可変

右肩上がりの可変の弱点として、「トランジション時にSBの裏が空く」ことだ。可変には移動が伴うため、瞬間的なトランジションではポジションによって空いた穴が埋められない。

先制点の場面では、トランジションから早間選手が大宮の右SBの裏のスペースを突いたのがポイントだった。

右SBの裏を突く早間選手

さらに、右肩上がりの4231→325可変で空きやすいのが「左SBの奥のスペース」だ。DFラインは3バック化して左SBは絞るため、その奥の大外のスペースは疎かになってしまう。

その空いた左SBの奥のスペースでは中嶋選手が待機。渡邊選手がニアに走って左SBを釣ってドフリーの状態にしたのもナイスプレーだった。そして、早間選手のクロスは絶品で、あの「飛距離」「精度」「スピード」のボールが蹴れるのは希少価値の高い強みである。

渡邊選手のランでSBを釣って中嶋選手がフリー

こうして生まれた先制点だったが、ここまで明確に「高い位置を取る右SBの裏が空く」「3バック化で絞る左SBの奥が空く」という大宮の構造的な弱点を突いたカウンターが決まったのには驚いた。

これが吉田監督による仕込みだとすれば、スカウティングの精度とチーム内での共有の仕方が優秀なのだと思う。

後半に両SBを上げる大宮に対してSB裏を狙う広島

後半からは渡邊選手と柳瀬選手を入れ替え、配置も4231に変更する修正を行った。意図としては「トップ下の選手を広範囲に動かしたい」「SBの裏のスペースを積極的に突きたい」の2点が考えられる。

修正の効果はすぐに表れ、51分のシーンでは、低い位置の中嶋選手でSBを釣り出し、その裏に柳瀬選手を走らせることでチャンスを構築した。

【渡邊選手のフィードで柳瀬選手を裏に走らせる】

さらに、52分には中盤でのトランジションから早間選手が大宮SBの裏を取り、逆サイドへの展開によって島袋選手のシュートに繋げた。(早間選手が2人、渡邊選手が3人、中嶋選手が2人引きつけて、島袋選手を完全にフリーにする完璧な崩し)

【ボール奪取からSBの裏に出る早間選手】

この他にも、中嶋選手がSBの裏を突いたり、ドリブルで突破したりなど、しつこくSBの裏を狙う姿勢を見せていた。

規律を保ったプレッシングで大宮の攻撃を封殺

保持の時間が長かった広島だったが、非保持においても規律ある守備で大宮の攻撃を封殺した。ここでは、広島のプレスを支えていた3人の選手を紹介しよう。

渡邊選手の柔軟性でプレスを成立させる

多くの時間で広島がボールを保持する展開となったが、大宮の保持に対してはチームで連動したプレスによって主導権を明け渡さなかった。その中心にいたのが渡邊選手だ。

渡邊選手は前半トップ下の位置でプレーしたが、守備時は1stDFとして相手のビルドアップを的確に制限し、後方からの連動を促していた。

【渡邊選手の1stDFから連動したプレスでボール奪取】

このシーンでは、渡邊選手の追い込み方によって、相手の選択肢を「低い位置のSB」に限定した。追い込むコースと相手との駆け引きで、相手の選択肢をより多く削るのは渡邊選手の強みだ。

左CBの選択肢は主に3つある状態
渡邊選手は弧を描くプレスで「SBの手前のスペースのパスコース」を消す
ホルダーに対してサイドステップで内側に移動し「中盤のパスコース」も消す
結果的に選択肢が「低い位置のSB」のみに限定される

プレッシングには主に「追い込み役」「奪い役」の2つがあると思う。「追い込み役」が連動して相手の選択肢を削り、狭いスペースに誘導した上で「奪い役」が高い強度で相手に襲いかかるのが肝だ。

渡邊選手は1stDFとして「追い込み役」としてのスキルが非常に高い。チーム内でプレッシングが上手いのは、瀧澤選手と上野選手だが、追い込む技術の高さに関しては、この2人にも負けていないだろう。

さらに、大宮戦では442のプレッシングから自陣では451への可変守備を行った。その際には、渡邊選手が中盤のラインまで降りて、笠原選手と中嶋選手の間を埋めていた。

442↔︎451の可変守備では、前後に移動するMFの選手の柔軟性が重要になるが、渡邊選手はこのタスクを的確に遂行していた。

呉屋選手による積極的なライン統率でコンパクトを維持

大宮の攻撃を封殺したレジーナの守備を牽引していたのがCBの呉屋選手である。

決定的なピンチが少なかったため、目立ったシーンはほぼないが、細かいラインコントロールで守備組織をコンパクトにまとめ上げ、ライン間のスペースを減らすことでプレッシングの機能性を高めていた。

さらに、ボールの状態に応じてDFラインを細かく修正しながら、集中度の高いパフォーマンスを見せていた。

【ラインコントロールをする呉屋選手】

呉屋選手のプレーを見ていると「自分は控えなんだから、監督から言われた細かい約束事は全部サボらずやる」という気概を感じる。(中村選手にも感じる)

こういった意識の高さを持っているからこそ、どのような場面でも信頼して起用されているのだと思う。保持面が仕上がってくれば左山選手のポジションを脅かす存在にもなるため、今後さらに成長した姿に期待したい。

笠原選手を中心とした中盤の強度

中盤の守備を成り立たせていたのはやはり笠原選手だった。広い守備範囲に的確なポジショニング、対人能力の高さによって、守備の安定をもたらせる能力は、チーム内でも替えが効かないレベルだ。

先制点の場面もきっかけも笠原選手のボール奪取からであった。

【先制点に繋がった笠原選手の守備】

おそらく笠原選手抜きに今のレジーナの守備組織は成立しないだろう。ボール保持でもローテーションを通じてタイミングよくボールを受け、スムーズな展開から循環性を高めていた。

シーズン全体を考えると、今のうちに笠原選手が疲労で試合に出られない時の対策を検討した方がいいのかもしれない。

気になった選手をピックアップ

完勝といえる内容で大宮戦を勝利したレジーナだったが、この試合で目立っていた選手をピックアップしていく。

攻守に渡り理解度の高さを示した渡邊選手

前半はトップ下、後半はボランチと複数のポジションをこなした渡邊選手は、攻守に渡り戦術理解度の高さを示した。

守備に関しては「1stDFの質の高さ」を示し、駆け引きを交えた的確なプレッシングで大宮の保持の選択肢を削った。

【渡邊選手の1stDFと連動するプレッシング】

このシーンで渡邊選手は左CBに対してプレスをかけるのだが、ホルダーの選択肢を「低い位置のSB」に限定するプレスをかけることで、中嶋選手・島袋選手の連動性を高めた。

渡邊としては②、③を消して①に誘導したい
弧を描くようにプレスをかけて外側にいるボランチを消す
SBに出されたら中嶋が縦スライドでプレス、渡邊・笠原は中のコースを消す
選択肢が左SHに絞られたので島袋は思い切りアタック。インターセプトに成功

この試合では、プレスが綺麗に決まったシーンが数度あったが、そのほとんどが渡邊選手の1stDFによるものだった。

「守備における戦術理解度の高さ」「コース切りの的確さ」「駆け引きを交えながら複数の選択肢を消す技術」など、守備技術の高さはチーム内でも随一だろう。

さらに、攻撃においても効果的なポジショニングと、タイミングの良い抜け出しで相手の危険なエリアに侵入していた。

【サイドへのサポートからポケット侵入】

スピードで無理やりこじ開けるのではなく、タイミングと相手との駆け引きで攻め手を作れるのは、渡邊選手の強みの1つだ。

タスクを遂行し成長を示した島袋選手

昨季はSBでレギュラーの座を掴んだ島袋選手だったが、今季は戦術理解の部分で苦戦しており、控えに甘んじていたものの、大宮戦ではチームのタスクをキチンと理解して、90分間遂行し続けた。

プレッシングの場面でも、奪い所を理解した上で連動しながら、適切な箇所でパワーを出せるようになっている。

【前線の選手の限定に反応してインターセプトに成功する島袋選手】

実は島袋選手はinside動画にて「(ピッチの)外から見て感じること、(ピッチの)中にいてわからないことが多くて…」と、戦術理解に対する不安を漏らしていた。

大宮戦は、ピッチ外から眺めた景色をしっかりと理解した上で、ピッチ内で表現できた試合だったのではないだろうか。

次節に向けた雑感

試合終盤はややバタついた展開になったものの、結果的には無失点で試合を終え、打たれたシュートは3本に抑えた。やはり誰が出ても同程度の守備強度が保てるのは、吉田体制の明確な強みと言えるだろう。

攻撃においても大宮の配置を見極めたローテーションや、空きやすいスペースの共有など、チームで連動した保持ができていた。しかし、前半は中盤が降りてプレーしていた分、サイドに展開された際のサポートが足りずやや停滞する場面も目立ったのは課題と言える。

これでWEリーグ杯は4試合終わって、2勝1分1敗で勝ち点7。ベレーザが長野に引き分けたため、グループ1位との勝ち点差は1に縮まった。このまま次の長野戦に勝利すれば、ベレーザとの直接対決によってグループ突破が決められる。

強固な地盤を持つ戦術と誰が出ても同じように戦える層の厚さを武器に、このまま勢いに乗っていきたいものだ。

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