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#16【サンフレッチェ広島レジーナvs日テレ・東京ヴェルディベレーザ|試合レビュー】やるべきことの徹底を|2024-25年WEリーグ第11節


1ヶ月間勝利から遠ざかっている状況で迎えるWEリーグ第11節・日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦。

今季はカップ戦で2試合を戦い1分1敗と負け越しているが、メンバーを入れ替えた上での善戦を繰り広げたため、悪いイメージはないため、前回の対戦のように規律を保った守備から相手の隙を突くカウンターに勝機を見出したい所だ。

スタメンでは、怪我で離脱していた市瀬選手が2試合ぶりに復帰した他、笠原選手・渡邊選手がベンチ外となった。松本選手はリーグ戦今季初先発。


リスク管理を意識したベレーザの保持

今節でのベレーザの保持は、前回対戦とは異なり、リスク管理の意識を高く持っていた。焦って前に突っ込むのではなく、後ろからじっくりと確実に繋ぎつつ、詰まった時にはリスクの低い選択肢を用意するなど、戦い方を見直してきた印象だ。

3CB+DHを残してカウンターを封じる

ベレーザは3142の配置を選択しており、ビルドアップは3CBとDHが中心となって行いながら、IHやWBが適宜降りてサポートをする形が中心であった。

前回とやや異なるのが、左右のCBをあまり高い位置の上げずに、後ろには常に3CB+DHの4人が中央のスペースを埋めるような意識が見られた。

可変は最小限で3CB+DHを維持した保持

前回対戦では、左右のCBが高い位置を取り、空いたスペースにDHが降りるなどのローテーションを多用していたが、可変によってできた隙を突かれてカウンターから失点したため、リスク管理として可変の範囲を抑える選択をしたと考えられる。

【前回対戦のカウンター】

さらに、今節アンカーに入った菅野選手の守備意識の高さが目立っていた。ボールを奪われた瞬間に素早い切り替えでカウンターに対処しながら、危険なスペースを察知して埋めるなど、ピンチの芽を確実に摘んでいた。

FWのポストプレーを保険にメリハリのある判断

前回対戦ともう1つ異なるのが、FWに入った土方選手と樋渡選手の2人だ。得点能力が高く、ポストプレーもこなす2人の万能FWがいることで、「繋ぎながらも前線へのロングボールを交えて揺さぶる」という意思統一がなされていた。

【ロングボールで裏に走るべレーザ・樋渡選手】

広島としては相手のビルドアップを引っ掛けてカウンターを狙いたい所だが、ロングボールを蹴られてしまうため、プレスが空転してしまう。

広島のDF陣は積極的なラインコントロールで、コンパクトな陣形の維持を意識していたが、FWへのロングボールへの対応に苦心したため、間延びさせられるシーンも目立った。

【ラインを上げたい市瀬】

【ロングボールで間延びした2失点目】

ボランチは前から人を捕まえようとするがロングボールでDFラインが下げられ前後が分断してしまった

曖昧になったプレッシング

ベレーザの保持に苦しめられる試合となった今節だが、目立っていたのが「プレッシングの曖昧さ」だ。

組織で相手を誘導しながら、狭い場所で奪い切るのではなく、「何となくプレスをかけて限定できない」「スライドが遅れて対応が後手に回る」などのシーンが多かった。

1stプレスの精度とアンカーの管理

まずプレッシングで問題を抱えていたのが、FWによる「1stプレスの精度」だ。特に、FWに入った中嶋選手のプレスが甘く、アンカーの菅野選手を上手く管理できないシーンが目立っていた。

基本的には中嶋選手はアンカーへのパスコースを切りながら、CBに対してプレスをかけるタスクを負っているが、「パスコースを切ってるつもりで切れていない」「パスが出た後のプレスバックを怠る」など、機能しているとは言い難かった。

例えば、9分のシーンでは、CBの身体の向きのフェイントに騙されて、アンカーのパスコースを空けてしまっている。(ベレーザのCBの技術もレベルが高い)

42分のシーンでは、中嶋選手がプレスで深追いしすぎてアンカーの管理に失敗している。

1stプレスの精度が低いと限定ができないため、中盤の選手のプレスにも迷いが生じる。サイドに誘導するつもりが、選択肢を奪い切れずに中(アンカー)を使われるシーンは、この試合で何度もあった。

中嶋選手はサイドプレイヤーなので、FWでのプレスに不慣れなのは理解できるが、組織でのプレスを成立させるには、1stプレスの精度は欠かせない。

アバウトに中を切ってフラフラ走るのではなく、敵味方の位置やボールホルダーの身体の向きやボールの置き所を考えながら、細かくプレスの角度を調整する繊細さが必要だ。

中盤のスライドと追い込み方

中盤(主にボランチ)の選手のスライドや追い込み方にも問題が生じていた。この試合のボランチは柳瀬選手と小川選手だったが、フィルターとしての機能性には物足りなさを感じた。

例えば、1失点目の直前のシーンでは、5-2-3※のプレスで中央を閉じ、サイドに誘導したにも関わらず、外から中央に差し込んでくるパスに対して、柳瀬選手は反応が遅れている。(※直前で3バックに変更していた)

シャドーの上野選手が中へのパスコースを閉じており、選択肢が限定されているのに加えて、マークの選手も足りている状況にもかかわらず、パスへの反応が遅れてしまうとプレスの前提が崩れてしまう。

結果的にサイドに閉じ込めることができず、逆サイドに展開されてしまい、手薄なボランチ脇のスペースから失点に繋がるクロスを上げられてしまった。

直前の442から523への変更によって、SHがボランチの脇をカバーできなくなったのも失点の要因ではあるが、本来であれば1つ手前で止めなければならないシーンだ。

笠原選手不在の影響を感じる失点シーン

2失点目は右サイドからのロングボールを収められて、逆サイドへの展開からWGの北村選手の個人技で奪われたシーンだが、これもボランチの守備意識によって未然に防ぎたかったシーンだ。(※塩田選手も1on1で縦を捨ててでも中を確実に切らなければならない場面)

広いスペースで能力の高いWGに仕掛けられると失点のリスクは非常に高まるため、サイドチェンジ自体を防ぎたかったのだが、フィルターになるべきボランチは後ろに戻っていなかった。

片方の柳瀬選手に関しては、アンカーの選手をマークするために前に出ていたのは理解できるが、ロングボールが出た時点でプレスバックをして中央を埋める意識を持ってほしい。

小川選手に関しては、ボールが左サイドに出た時点でもっと中央にスライドしなければならない。柳瀬選手の斜め後ろを基準にスライドをしていれば、ロングボールを拾った松永選手への対応も可能だったかもしれない。

この辺は笠原選手であれば、即座に危機を察知してギリギリで対処できていたような気もする。なぜ今シーズン笠原選手がアンカーでレギュラーの座を奪ったのか、その理由を感じるかのような失点シーンであった。

吉田監督は就任以降、守備組織全体でのスライドを強く求めているが、スライドを怠れば次の展開に間に合わず、対応できなくなる可能性が高い。

ベレーザにボールを持たれて、ロングボールも交えながら縦横に走らされたことによる疲労もあるが、守備の規律を90分間保てなければ、強豪相手に失点を防ぐのは難しいだろう。

瀧澤選手と上野選手の意識で作った決定機

前半には広島がゴールを脅かすシーンが数回あり、互角と言えなくもない展開は作れていた。その要因となっていたのは、瀧澤選手と上野選手が持つ”意識”だと考えられる。

22分に塩田選手が松本選手にクロスを送ったシーンでは、裏に抜けた瀧澤選手による時間を作るプレーが効いていた。

このシーンでは、瀧澤選手がパスを受けてから3秒ほどキープしたことで、SBの塩田選手がオーバーラップする時間が得られている。さらに、ドリブルで相手を引きつけたことで、塩田選手がフリーになったのも大きい。

これだけの余裕ができれば、塩田選手のキック能力によって質の高いクロスが供給できる。質の高いチャンスクリエイトには”余裕”が必須だが、瀧澤選手のワンプレーはまさに味方に”余裕”を供給するものであった。

次に、28分のシーンでは、ゴール前の上野選手がキープによって相手を引きつけたことで、瀧澤選手がフリーでパスを受けている。

「瀧澤選手もっと何かやってよ」と思わなくもないが、上野選手のキープによってベレーザの選手は完全にボールウォッチャーになっており、決定機を生み出してもおかしくないシーンを作り出せた。

瀧澤選手や上野選手に共通するのは、「時間を作る意識を持ち、相手を引きつけ味方をフリーにしている」ことだ。個人的に最近の広島の攻撃に不足していると感じる部分でもあり、逆にこういった意識を増やせれば、可能性を感じるチャンスも増えてくるのではないだろうか。

インナーラップを意識しすぎて周りが見えていない?

瀧澤選手と上野選手のプレーに関連して少し気になったのが、アタッキングサードに入った時に、インナーラップでポケットを狙うのを意識しすぎて、「周りが見えていないのでは?」と思われる点だ。

例えば、後半46分のシーン、サイドでボールを奪った柳瀬選手が中嶋選手へスルーパスを送るが、ポケットを狙う中嶋選手を選ぶよりも、中央の小川選手へ繋いでいた方が良かったのではないかと思う。

ベレーザのアンカー・菅野選手は、DFラインのギャップを埋める意識が高く、バイタルエリアが空くシーンが目立っていた。そのため、インナーラップで裏に抜ける選手を使うよりも、空いたバイタルエリアを使ってミドルシュートや逆サイドへの展開を狙う方が効果的だったかもしれない。

ポケットへのインナーラップは吉田監督になってから増えたプレーではあるが、当然相手もそれを理解してスペースを埋めてくる。チームとしてのやり方を意識するのは理解できるが、戦術を”選択肢”として活用して、相手の出方に応じたプレーを求めたい。

気になった選手をピックアップ

この試合で気になった選手をピックアップしていく。

中嶋選手は武器の使い方を上達させてほしい

ここ数試合、中嶋選手の判断の悪さが目立っている。サイドから中央にポジションを移している影響もあるだろうが、もう少し自分の武器を理解した上で、周囲を活かすようなプレーを求めたい。

端的に言えば、瀧澤選手のような意識が必要だ。ドリブルで相手を抜き去るだけではなく、ドリブルによって「相手を動かす」「相手を引きつける」「時間を作る」ことで、フリーにした味方を効果的に使う意識を持てば、中嶋選手の武器はより活きるはずだ。

例えば、31分のシーン。塩田選手のスルーパスを受けた中嶋選手はドリブルで縦に仕掛けるがDFに阻まれてしまう。状況を見ると、中嶋選手に対してカバーの選手も含めて2人で対応しているため、縦に仕掛けて抜くのは無謀な選択だ。

それよりもベレーザのアンカー(菅野選手)がDFラインまでカバーに入り、バイタルエリアが空いたことを察知して、真横に入ってくる選手を待った方が良かったのではないだろうか。

中嶋選手的には「横に人がいないから縦に仕掛けるしかない」と思うかもしれないが、突っ込むのを我慢して時間を作っていれば、瀧澤選手がバイタルに顔を出せたかもしれない。

中嶋選手のドリブルは広島にとって替えが効かない武器だ。しかし、武器の活かし方を上達させなければ、さらに上のレベルに行くのは難しいかもしれない。去年までは「自分のドリブルで何とかせねば...!」という意識が強かったかもしれないが、ドリブルを使って味方を活かすことを意識してほしいと思う。

次節に向けた雑感

完敗と言えるゲーム内容かもしれない。前半は互角に近い戦いを繰り広げ、ゴール前を脅かすようなシーンを作れたものの、後半は完全に相手のペースとなってしまい、シュートを打つことさえほぼできなかった。

しかし、敗戦の原因に関しては「実力不足」というだけでなく、「やるべきことができていない」という印象の方が強い。1stDFの限定や中盤の選手のスライド、パスが出た後のプレスバックなど、チームとしてやるべきことができていなかった。

吉田体制以降、このチームの生命線は守備の規律だ。ピッチ内の全員が意思を統一して、守備で相手をコントロールする意識を持たなければ、戦術を成立させるのは難しい。

もちろんベレーザの選手が上手かったのは確かで、頭と身体の両方が疲弊していたかもしれない。ただ、それでも我慢強くやるべきことを貫けなければ、強豪クラブは一瞬の隙を突いてくる。

ここ数試合、点が取れていないだけでなく、隙を突かれての失点が目立っている。「原点に立ち戻る」という陳腐な言葉はあまり使いたくないが、今季の広島が何を強みにしてきたのかを思い出す必要があるのではないだろうか。

チームとしての流れは非常に悪いが、来週にはカップ戦準決勝の浦和戦が控えている。精神的な切り替えはもちろんだが、限りある時間の中で優先順位を決めて課題に取り組んでほしいと思う。

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