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#6【サンフレッチェ広島レジーナvsちふれASエルフェン埼玉|試合レビュー】安定した保持と積極的な修正でゲームを掌握|2024-25年WEリーグ第3節


スタメン!

今季初黒星となったベレーザ戦から嫌な流れを引きずりたくない中で、リーグ戦第3節の相手は昨季2連敗を喫した「ちふれASエルフェン埼玉」です

タイトなマンツーマンDFに加えて、強固な5バックのブロック、そして昨季レジーナを苦しめた鋭いカウンターを武器にするチームでもあり、今季の取り組みの成果が試される試合と言えますね。

試合の流れとしては、レジーナがボールを保持して主導権を握る展開が続きましたが、埼玉の堅い守備を打ち破ることが中々できませんでした。

その中でも、細かい配置変更を繰り返しながら、ボールを握り続けて相手を消耗させたことで完全にゲームを支配。後ひと押しといった所まで優位に進めた中で、小川選手がラストワンプレーで劇的な決勝ゴールを決めました。

では、この試合のポイントになった箇所を振り返っていきましょう。


主導権を握るも膠着した前半

前半は埼玉のタイトなディフェンスに苦戦するも、ボール保持で主導権を握る展開になりました。ただ、アタッキングサード以降の崩しの局面で詰まるところも多く、膠着した時間が多くありました。

5-3-2の外側を起点に斜めの楔を使う

5-3-2を採用した埼玉に対してシステムの噛み合わせ上、SBの位置が空きやすくなっているため、広島はSBの藤生選手・近賀選手を起点に攻撃を仕掛けます。

頻出したのは「サイドからの斜めの楔」を活用したコンビネーションです。CFの髙橋選手がタイミング良くライン間のスペースに降りて楔のパスを引き出し、髙橋選手が引きつけたDFの裏のスペースを瀧澤選手が使う展開を何度も狙っていました。

さらに、中央でのコンビネーションに固執するのではなく、斜めの楔や中盤の笠原選手を経由したサイドチェンジを使うことで、圧縮からスペースを奪う埼玉ディフェンスから逃れようとしていました。

この他にも、サイドの中嶋選手や立花選手が埼玉のWBを引き出して、その裏を瀧澤選手や小川選手が使うなど、人の動きとスペースの使い方が共有されている印象でした。

中央を閉じながら中盤をマンツーマンで捕まえる埼玉

埼玉は広島に対してタイトなマンツーマンDFを敷いてきます。基本形の532に始まり、広島のビルドアップに対しては中盤を完全に捕まえる5212を採用

ミドルゾーンでは541を見せるなど、中央を封鎖しながら外に誘導し、強く圧縮する守備を披露しました。

広島は空きやすいサイドを起点に攻めており、攻撃の形も見せているのですが、埼玉に誘導されている部分もあったため、やや膠着した展開が続きました。

素早いトランジションでカウンターの目を摘む

この試合で目立っていたのはボール保持だけでなく、集中したネガティブトランジション(攻から守の切り替え)です。各選手がボールを失った瞬間に素早くボール奪取に向けて反応し、相手にカウンターチャンスを与えませんでした。

カウンターが得意な埼玉相手に対して、集中したトランジションで相手の得意技を封殺できたのは大きな成果と言えます。

さらに、相手のカウンターの芽を摘むための仕組みとして、トランジションの際にSBの藤生選手が中に絞って、アンカーの笠原選手の脇をカバーしていたのが印象的でした。

サイドバックが絞ると中盤の厚みが増すため、クリアボールなどをより確実に拾える仕組みになっています。

守備範囲の広さと精度の高いポジショニングを武器とする笠原選手が、1人で広大なスペースを守るのではなく、SBの片方が中盤に絞るという仕組みを設けたことで、トランジションの安定化に成功したのは今後にも繋がりますね。

前回のベレーザ戦では、ボランチの片方が持ち場を放棄した中で発生したトランジションで、中盤1人で晒されてゴール前まで運ばれてしまうシーンがあったため、それを受けての修正だったかもしれません。


ベレーザ戦inside動画」より|カウンターへの対応策を見せてくれましたね。

攻→守に切り替わったタイミングで、アンカーの笠原選手の脇を藤生選手が埋める形が定型化できれば、より安定感を増した試合運びができるはずです。

積極的なローテーションを使って押し込む

前半に多用していたのが左サイドのローテーションです。中嶋選手が絞り、藤生選手がサイドの高い位置、瀧澤選手が降りてボランチのような位置でプレーします。

アンカーの笠原選手が相手のマンツーマンに苦労して思うようなボール循環ができない中で、瀧澤選手がフォローする意図があったと思います。

しかし、高い位置で強みを出す瀧澤選手がボランチの位置でプレーを続けるのは、前線の迫力を削いでしまい停滞の要因にも繋がったかもしれません。

また、中嶋選手をトップ下、瀧澤選手をSHにポジションチェンジする時間帯もあり、ローテーションを使って押し込む意図は分かるのですが、ややゴチャついた展開を招きました。

中盤の修正によってゲームを支配した後半

後半のレジーナは盤面を明確に修正して、完全にゲームを支配しました。前半からボール保持で相手を走らせて疲労を蓄積させていたのもありますが、後半の修正によって自分たちのペースで試合を進められたのは、評価できるポイントですね。

小川選手を下げて2ボランチを強調

後半に手を加えたのは中盤を明確に2ボランチにしたことです。前半では、アンカー笠原選手にIH小川選手・瀧澤選手の「▽」の中盤だったのですが、後半は小川選手が降りて2ボランチを形成し、瀧澤選手がトップ下に移る「△」の形に変更しました。

中盤の修正に合わせて、両SBを高い位置に押し上げ、SHは中に絞る動きも加わりました。これらの変化により、「広島のSHに対してWBとCBのどちらが見るのか?」など、マークの基準をズラすことに成功しました。

さらに、埼玉の2FWは2ボランチへのパスコースを気にするため、CBがフリーで持てるようになったのもボール保持の安定に繋がりしたし、埼玉のIHが広島のボランチとSBを両方気にしなければならず、中盤の3枚が大きくスライドしなければならない状況を作り出せています。

加えて、埼玉のアンカーの選手が広島のボランチを気にするため、その裏に位置取るトップ下の瀧澤選手が自由に動けたことで、縦パスから前向きのサポートを作る形も増えています。

上記のような配置修正を後半から行ったことで、盤面上での大きな優位性を得ることに成功しました。

また、ボランチが2人になったことで、中盤のトランジションが安定し、ボール奪取からの鋭いカウンターも可能になっています。

3バック気味の保持への修正で押し込む

60分から右SHに渡邊選手、右SBに塩田選手を投入。左SBの藤生選手を前に押し上げ、後方で3バックを形成する325への修正を行いました。

後方での数的優位を活かしながら左右のCBの積極的な持ち運びに加え、2ボランチの安定したボール循環。左右のCBが相手のIHを釣り出し、中盤の3枚を大きく動かすことで、相手の圧縮を逆手に取ったサイドチェンジを繰り返して攻略を図ります。

前半は図の笠原選手の位置にあまり人を配置できておらず、中盤を経由したサイドチェンジやビルドアップのやり直しが少ない印象でしたが、この修正でピッチを広く使った攻撃も可能になっています。

さらに、試合全体を通じてボールを握って相手を走らせ続けたことで、守備ブロックに隙ができ始めたのも追い風となり、70分〜85分までの時間帯ではゲームを完全に支配しました。

最終的には、呉屋選手の素晴らしいランニングから小川選手がゴールを決めて勝利を収めるのですが、ボール保持やトランジションで高い集中度を保ちながらゲームを作ったご褒美だったのかもしれません。


試合で目立った活躍を見せた選手をピックアップ

ギリギリでの勝利ではありますが、内容的にはかなりポジティブな試合でもあった埼玉戦ですが、この試合で目立った選手を見ていきましょう。

瀧澤選手のワンプレーが気になった

瀧澤選手に関しては、この試合もスーパーな活躍だったのですが、前半11分のワンプレーが少し気になりました。

左サイドからドリブルで抜け出した瀧澤選手が、髙橋選手にスルーパスを出すという流れだったのですが、ドリブルのコース取りでゴールへの可能性を削ってしまったかと思います。

フリーで抜け出した瀧澤選手はそのままドリブルで運んでいきます。相手も後退していたので、グイグイ進んでいきます。

ターニングポイントになったのがこの部分で、直前まで中に向かってドリブルしていたのが縦方向に角度を変えています。中嶋選手へのパスを意識したのか、右後ろから来たDFが気になったのかは不明です。

ドリブルの角度を変えたことで、瀧澤選手のドリブルで釣り出したDFの裏に髙橋選手が抜け出します。しかし、髙橋選手はDFにマークされており、パスを出してもゴールを奪うのは難しい状況でした。

案の定ブロックされるのですが、このシーンで以下のような選択をすれば、よりゴールの確率を上げられたかもしれません。

ドリブルの角度を変えず、そのまま中央に向かって突き進み、髙橋選手をマークしているDFを引きつければ、髙橋選手はDFの背中側から有利な状態で裏に抜けられたでしょう。裏に抜けた後の髙橋選手もゴール正面でより確率の高いシュートが打てたはずです。

ドリブルからのスルーパスを狙う際には「受け手をマークしているDFに向かってドリブルをして引きつける」(以下の参照動画)テクニックを瀧澤選手が使いこなせれば、アシストを量産できると思いました。

虎視眈々の呉屋選手

69分に市瀬選手のトラブルによって出場した呉屋選手。昨年までなら「市瀬代わるの?詰んだぁ」という感覚があったのですが、今年は安心して見ていられます。

DFの動きも的確で相手のカウンターをパスカットで防いだり、力強い相手のアタッカーを激しい守備で防いだりなど、市瀬選手と遜色ない守備を披露します。

ボール保持でも落ち着いたプレーを見せており、相手が来なければゆっくりと運んで受け手の選択肢を作るなど、見応えのあるプレーが光りました。

そして、何といっても得点シーンに繋がったランニングですよね。「途中出場からでもやってやる!」という強い気持ちが見えた1プレーでした。

安心して任せられる塩田選手

60分から近賀選手に代わって入った塩田選手ですが、安定したパフォーマンスを見せていましたね。徐々にプレイ時間を延ばしてしますし、監督からの信頼感も増しているようです。

ボール保持も安定していますし、DFも力強く当たり負けしません。2年前のプレーを見ると今の姿は全く想像できませんね。

近賀選手が通年で試合に出るのが難しい以上、塩田選手の出場機会も次第に増えていくはずです。

次節に向けた雑感

スコアを中心に見れば試合終了間際のゴールでギリギリ勝ったような印象を受けるものの、試合全体の主導権は広島が握り続けていました。

安定したボール保持で試合を支配し、相手を走らせることで、試合が進むごとに体力面で有利に立つ流れも作れましたし、集中したトランジションで相手にカウンターチャンスを与えませんでした。

試合の中でローテーションや配置変更を繰り返した中でも、選手たちが混乱せずにプレーできたのも良かったですね。後半に交代で入ってきた選手たちもスタメンと同等以上のクオリティを見せてくれました。

ここまではプレッシングを中心に主導権を握ってきたレジーナですが、埼玉戦のように保持で主導権が握れるようになれば、さらに高いレベルで戦えるようになるでしょう!

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