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#18【サンフレッチェ広島レジーナvs大宮アルディージャVENTUS|試合レビュー】当たり前の基準で差をつける|2024-25年WEリーグ第9節


WEリーグ第9節の大宮アルディージャVENTUS戦は、台風の影響で延期となった一戦だ。年末に皇后杯とWEリーグ杯・決勝を控える中で、過密日程ではあるものの、勝利を収めて勢いをつけたいところである。

スタメンでは、中嶋がベンチ外となったが(おそらく温存)、左山が2試合ぶりのベンチ入り、皇后杯では出場がなかった柳瀬・小川がスタメンに復帰となった。


優位に立つための守備とトランジションの設計

試合全体のキーポイントになっていたのが、コンパクトな守備組織とトランジションの設計だ。今季取り組み続けている組織的な守備に加えて、攻守が切り替わった瞬間の強度で大宮を圧倒し続けた。

両SHが絞ってライン間への縦パスを封鎖

セットした守備では「中を締めて外に誘導する」を徹底した。前線の上野・小川はボランチへのパスコースを制限しながらサイドに誘導していく。

その先では、SHが絞りDHがスライドすることで前方へのパスコースを封鎖する。確実にサイドに追い込んだら狭いスペースでボールを奪うというプランだ。

この試合において両SH松本・立花の絞る意識は非常に高く、「絞った状態で我慢しながらサイドにパスが出されてからプレスをかける」というのを徹底していた。SHが楽をしようとせず、チームのために必要なプレーを徹底してくれた点が、組織守備を成功させた要因となっただろう。

特に、シーズン序盤の松本はSHの守備がほとんどできていなかったが、この試合では的確に守備をこなしていた。上野がSHがやるほど守備で計算できる人材が不足していた中で、立花・松本のように組織守備に順応してきた選手が増えてきたのは良い兆候だろう。

コンパクトな守備組織と切り替えの強度で上回る

横幅と縦幅をコンパクトに維持した守備組織は相手の攻撃を防ぐだけでなく、トランジションの瞬間にも役に立つ。ボールを基準に守備組織を圧縮しているため、切り替えの局面が発生した際には、ボールの周辺により多く人を配置できる。

さらに、組織を維持しながら守るため、配置が乱れておらず、トランジションが発生した瞬間にも迷いなくボールに向かえている。切り替えの意識も高く、局面ごとのデュエルも勝っていたため、トランジションではほぼ全ての局面で広島が圧倒していた。

ボールを奪った後も配置が揃っているため、適切な位置にサポートがいる。この試合では、奪取後に逆サイドの広いスペースに展開をして、クロス攻撃でゴールを目指す形が目立っていた。

【1点目のシーン:ボール奪取から繋いで藤生に展開】

藤生の縦方向へのドリブルで相手のDFラインを下げた上でマイナス気味のクロスを出したのは良い判断だったと思う。

大宮DHの守備意識の低さが目に付くが、藤生が相手の逆を突いて上野に余裕を与えたからこそ、相手が引きつけて松本に落とすという判断に繋がったのかもしれない。

保持で詰まっても奪い返して繋ぐ

ボール保持においても明確なトライが伺えたものの、ビルドアップに関しては詰まっていた印象だ。ただ、保持で詰まってボールを失いそうになっても、ポジションバランスを維持していたため、素早くボールを回収して攻撃の継続に成功していた。

ここでもトランジションでの意識の高さが目立っている。例えば、2点目に繋がったシーンでは、市瀬の縦パスによって発生したデュエルの周辺で、ボールの近くにポジションを取っているのは広島の選手であった。

【2点目のシーン:こぼれ球を上野がシュート】

得点の直前で立花が競り合っている間、上野は足を止めずにポジションを取り続けているのが印象的だ。対照的に大宮の中盤は足が止まってしまい、こぼれ球への反応が完全に遅れている。

こういった1つ1つの意識の差がスコアの差に繋がっていったのだろう。

SHとSB+小川の多彩なローテーション

保持ではさまざまな組み合わせで行われるローテーションを用いた前進の形が多く見られた。SHが絞ってSBが幅を取る流れを基本としながらも、小川の多様なポジショニングが加わることで、相手に的を絞らせない攻撃を形にしている。

大宮の守備が人に食いつく傾向が強かったため、ローテーションによってスペースやパスコースが空くシーンが非常に目立っており、相手を動かしてできたスペースに的確に入るといった効果的な動きもあった。

小川と立花のレーン交換でSB周辺を狙う

前半何度か見られたのがサイドに流れる小川と絞った立花によるレーン交換だ。トランジションで空きやすいSBの裏のスペースに小川が流れて陣取り、小川の動きに呼応して立花が内側に入る動きが多く見られた。

【前半14分:小川がサイドに流れて立花が内側に入る】

ボールを奪った直後に前線の選手がサイドの裏のスペースに走るのは、パスを引き出して陣地を回復する狙いがある。前半では小川がサイドに流れてパスを引き出していたが、そこに内側に絞った立花の効果的な動きが加わることで、相手の脅威になる攻撃ができていた。

【2節仙台戦:奪ったらサイドの裏に走る】

降りる笠原・柳瀬とライン間に入る小川

前半の小川はサイドに流れるだけでなく的確なタイミングでライン間に降りる動きも交えていた。

特に、前半20分頃から中盤の笠原・柳瀬がやや低い位置に降りてのプレーが多くなっていたが、大宮の中盤が降りた笠原・柳瀬に食いついてライン間のスペースが空いた瞬間、的確なタイミングで小川がパスを引き出していた。

IH化してボランチを釣る松本とトップ下化する小川

後半の小川は中央のトップ下に近いポジションでプレーする時間が長かった。意図としては絞ったSH+柳瀬・笠原・小川で中盤に◇を形成し、大宮のボランチに対して迷いを生じさせる意図があったはずだ。

3点目の起点となった市瀬の縦パスは、大宮のボランチの1人が絞った松本に釣られ、もう1人が逆サイドの柳瀬を気にしたためにパスコースが空いたため、小川がフリーになり、笠原の前向きでのサポートが可能になった。

大宮の守備は人に食いつきやすい上にスライドもあまりしないため、ちょっとしたローテーションを加えるだけで、守備組織がバラバラになり大きなスペースができる。

広島としては相手の守備の欠陥を利用した形で得点に奪えたのはポジティブな内容と言えるだろう。

気になった選手をピックアップ

この試合で気になった選手をピックアップしていく。

適応力の高さを示したサイド職人・立花

献身性と賢さを備えたサイド職人・立花が本領を発揮し始めた。今季の広島はSHに対して中に絞ってのプレーを要求していたため、大外でのプレーに慣れている立花は苦戦していた印象だ。

しかし、この試合では中に絞ってのプレーにも適応しており、味方との連携もスムーズに行っていた。守備に関しても中を絞って外に誘導するポジショニングを徹底しており、さすがの適応力を示している。

そして、3点目をアシストしたクロスは彼女の技術と意識が詰まった1プレーであった。

ポイントは「時間を作るプレー」「相手の逆を突くクロス選択」だ。

まず上野からパスを受けた段階で、立花は無理に仕掛けることなく、相手と向き合って時間を作る。立花のドリブルで4秒ほどの時間を作ったことで、ボックス内に5人の選手を送り込めた。

もし立花がパスを受けた段階ですぐに仕掛けていたら、クロスを上げてもボックス内には小川1人しか入れていないだろう。

次に「相手の逆を突くクロス選択」だが、パスを受けた立花はゴール方向へのドリブルで相手を押し下げている。このタイミングでマイナス方向でフリーになった上野にクロスを届ける選択も有効であった。

だが立花は後ろ方向に切り返して、DFラインの足を止めた直後に、揺さぶりをかけるようにDFとGKの間にクロスを送り込んでいる。

この相手を動かして逆を突くプレーこそゴールを生み出す源である。もちろん立花のクロス精度も素晴らしいが、精度だけでなく得点の可能性を高めるための工夫が盛り込まれている。

例えば、得点の確率を上げる要素が「人数」「スペース」「精度」の3つである場合、立花の時間を作るプレーはゴール前の「人数」を増やし、逆を突くクロスは「スペース」を生み出している。クロスの精度も申し分ないが、人数を送り込んでスペースを作っていれば多少クロスがズレてもゴールに至る可能性はあるはずだ。

ゴール前の駆け引きや余裕が足りず、得点不足に悩む時期もあったが、「今のチームに足りないのはコレだよ」と立花が示してくれたのは、今後のことを考えても大きな1プレーになるかもしれない。

ちなみにカットインから左足でのクロス&ラストパスは、昨年身につけた立花の得意技だ。加入当初はスピードで縦に振り切るタイプの印象が強かったが、中嶋のように個で打開する能力が不足している分、生き残り続けるために今のプレースタイルを身につけたのだろう。

献身性や賢さだけでなく、自分を見つめて不足を補うために技を磨き続ける姿勢を持った中堅選手は得難い存在だ。

【第45回皇后杯 vsC大阪:立花のクロス→中嶋のゴール】

【23−24年WEリーグ vsINAC神戸:立花のカットインとスルーパス】

次節に向けた雑感

規律を保ったコンパクトな守備と高い意識を持ったトランジションで試合の流れを掴み、相手を圧倒した試合となった。ただ、大宮は過密日程で控え主体のスタメンを組んでいたため、差し引いて評価する必要はあるだろう。

大量得点に至ったのも相手の守備組織の緩さやボックス内での強度不足が主要因なため、手放しで喜ぶのは早計だ。それでも下位に沈むチーム相手に自分達らしい内容で盤石の試合ができたのは成長している証だろう。

年内は皇后杯とWEリーグ杯決勝の残り2試合。広島以上に組織的な守備を強みとするINAC神戸との試合は我慢比べの展開になる可能性が高い。強い相手ではあるが規律を徹底しながら隙を与えない戦いをしてほしいと思う。

後、髙橋は途中出場でハットトリックできるチャンスがあったのに、1点しか取れないってどないやねん。

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