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#15【サンフレッチェ広島レジーナvsAC長野パルセイロレディース|試合レビュー】変えるべきは攻撃の”意識”|2024-25年WEリーグ第10節

直近3試合で2分1敗と悪くないゲーム内容ながら勝利から遠ざかっている中で迎えるWEリーグ第10節。今節の相手はカップ戦も含めて今季3度目の対戦となるAC長野パルセイロレディースだ。

カップ戦では2戦2勝と快勝したものの、長野も直近では公式戦3連勝中と広島とは対照的に勢いに乗っている。広島としては長野のコンパクトな守備を掻い潜りながら、ピッチを広く使った攻撃を仕掛けたい。

スタメンでは、怪我で離脱中の市瀬選手に代わって2試合連続で呉屋選手がCBに入り、次節以降のベレーザ・浦和の2連戦に備えた温存策(おそらく)で笠原選手のポジションに渡邉選手が入った。SHで出場した古賀選手は、今季初スタメン。


タイトなプレスを中心とした長野の広島対策

長野はカップ戦の2試合とは異なり、守備面での広島対策を敷いていた印象だ。「配置によって人を捕まえた状態からのプレスによる誘導」が整理されており、前に重心をかけながらも後ろは屈強なDFラインが跳ね返す堅い守備を披露した。

SHの外切りプレスと中盤を消すマンツーマン

プレッシングの基本配置は4231で、広島の中盤と配置を噛み合わせて消しながら、SHが広島のCBに対して外を切るプレスをかけ、ビルドアップの選択肢を奪っていた。

中盤は噛み合った状態でSHがCBに対して外切りプレス

この形のプレスだと広島のSBが空くのだが、長野のSHが外を切っているためフリーでも低い位置でしかパスが受けられない状況になっていた。さらに、 SBにパスが出た際には、広島から見て右サイドはSBが縦スライドでプレスをかけ、左サイドはSHのプレスバックを行う左右非対称の対応を見せた。

右SBに対してはSBがジャンプ、左SBはSHがプレスバック

前から人を捕まえて強気でプレスをかける姿勢は、前回対戦とは全く異なっている。前回はミドルゾーンにブロックを構える色が強かったため、ズレを作って前進する形も作れたが、前から来る長野に対して保持で苦戦してしまった。

【前回対戦での長野の守備と広島の保持】

上野選手へのポストプレーはCBが徹底マーク

長野は前から人を捕まえる意識が強く、特に長野のボランチが広島のIH(瀧澤・小川)に対して食いつく傾向があったため、広島としてはライン間のスペースを効果的に使いたかったはずだ。

具体的には、FWの上野選手に対する楔なのだが、ポストプレーに対しては長野のCBが徹底マークで自由を奪っていたため、前半は特にFWに当ててからの展開が制限されていた。

ライン間の上野への楔に対してはCBが徹底マーク

並のDFであれば上野選手なら背負って時間を作れるのだが、長野のCB岩下選手はデュエル成功率No1、坂井選手は空中戦勝率No1と、リーグでも屈指のCBコンビだったため、荒れたピッチへの適応も含めて苦戦していた印象だ。

スペースは共有しているが繋がらない広島

長野の広島対策に苦しんだ序盤であったが、どこにスペースができるのかは共有できていていたようだ。しかし、スペースを共有し、中盤でオープンな状況を作るものの、効果的な攻撃は少なかった。

構造上空きやすい左SBから前進したいが…

まずキーポイントになったのが、広島のCBに対してプレスをかける「長野のSHの後ろのスペース」だ。ここでSBが空くことが多く、特に長野の左右非対称なプレスから左SBの藤生選手がフリーになるシーンが目立った。

しかし、フリーな状況にも関わらず、藤生選手はそこまで運ばずマークに付かれた前線の選手にパスを出してしまったため、効果的な前進ができていなかった。

できればもっと前に運んで、相手のDFラインをギリギリまで引きつけた上で、味方の裏抜けをアシストしたり、運んでポジションを上げた自分がワンツーで裏に抜けたりなどのプレーを求めたい。

フリーで受けられた藤生は運んでほしかった

中盤のローテーションでズレを作りたいが…

前半に何回かトライしていたのが中盤のローテーションだ。配置で噛み合った状態からズレを作る意図が見られ、小川選手と渡邉選手のポジションチェンジなども試みたが、広島の中盤に対しては長野がどこまでも付いていく姿勢を見せたため、マークから逃れるのに苦戦していた。

小川・渡邊のポジションチェンジでズレを作りたい

中盤の動きからパスコースを開けて、絞った中嶋選手やFWの上野選手への楔を狙う意図も見えたが、荒れたピッチとタイトなマークによってポストプレーも制限されていた。

攻撃で足りないものは?

前半19分に長野のクロスに対して、GK木稲選手の軽率なミスから先制点を許し、後半からはポジションチェンジや選手交代を通じて勢いを持った攻撃を仕掛けた広島だったが、最終的にゴールを奪うことはできなった。

もちろんチャンスが皆無だったわけではなく、57分のカウンターで上野選手のトラップが決まっていれば1点ものであったし、ラストパスが合えば…というシーンもあったため、得点の雰囲気がなかったわけではない。

しかし、今シーズン一貫して攻撃面では同様の課題が続いていると感じるため、ここでは、この試合の具体的なシーンから今の広島の課題を指摘したいと思う。

攻撃をやり直す判断が必要か

以前から「勢い任せで突っ込みすぎな点」や「相手を見て駆け引きができない点」を指摘してきたが、攻撃をやり直す意識が希薄なのは明確な課題だ。まるで「動き出しをした選手に対して必ずパスを出す」という縛りがあるかのようにも感じる。

アタッキングサードに入っても、攻撃をやり直す判断ができないため、攻撃が詰まった時でも無理やりスペースに突っ込んでしまう。時にはバックパスを選んで攻撃をやり直すべきだし、サイドで詰まった際にはアンカーの渡邊選手に折り返して、横方向に相手を動かしながらスペースを使う判断が必要だ。

【46分のシーン(中嶋選手のシュート)】

左サイドからのクロスを小川選手が収めて中嶋選手へバックパスを送るシーンだ。パスを受けた中嶋選手はダイレクトでシュートを打つのだが、位置的に可能性の低いシュートとなってしまった。

このシーンでは、シュートを打つよりも「横にいる渡邊選手や瀧澤選手に預けてシュート」「中央にいる塩田選手まで展開してクロス/シュート」の方が期待値が高い攻撃ができそうだ。
※DFの背後を取った上野選手へのクロスなら理解できるが、それでも確率は低そう

【51分のシーン(サイドで受けた塩田選手)】

上野選手のスルーパスに左サイドの古賀選手が抜け出し、ドリブル運んでから逆サイドで高い位置を取った塩田選手へのパスが通ったシーンだ。塩田選手は縦へのドリブルを選択するがタッチが大きくなり、ゴールラインを割ってしまう。

ドリブルで縦に仕掛ける姿勢は構わないが、WGではない選手が無理に仕掛けるよりも、相手を引きつけた上で斜め後ろでサポートに入った渡邊選手に折り返せば、さまざまな選択肢が得られた。(①ワンツーで塩田選手がポケット取る②ダイレクトでクロス/シュート③中央の瀧澤選手に繋いでシュートetc…

【83分のシーン】
CKからの流れで右サイドの奥を取ったが、詰まったのでやり直して中央の渡邊選手に繋ぎ左サイドに展開、ボールウォッチャーになった長野DFに対して、空いた大外へクロスを送ったシーンだ。

やり直しをしない場合は、小川選手の落としを受けた瀧澤選手がダイレクトでクロスを上げ、跳ね返される期待値の低い攻撃にしかならないだろう。

中央の渡邊選手に折り返して逆サイドまで展開したことで、長野DFの視野を変え、隙のできた大外のスペースにクロスを送る「得点の可能性を感じられる攻撃」ができた。(クロスの質はさておき…)

この試合ではほとんどなかった攻撃をやり直すプレーから作ったチャンスだ。状況を見ながら攻撃をやり直すことも含めて、常に「より良い選択をする意識」があれば、前半から質の高い攻撃ができたのではないだろうか。

もちろんやり直すことが全て正解ではないし、それがゴールに繋がる保証はない(当然、消極的になるのも良くない)。だが今の広島はあまりに前に突っ込みすぎで質の低い攻撃に終始しているため、攻撃をやり直す意識を持ち「より可能性の高い選択肢を見極める」プレーが求められる。

ちなみにサイドに展開後、無理に突っ込まずやり直しを選んだことで、質の高いチャンスシーンを作った試合もあるため、意識のバランスを調整しながら改善を図りたい所である。

時間を作るプレーが欲しい

やり直しの意識に加えて、時間を作るプレーも求めたい。縦に速くゴールに向かう姿勢は耳触りがいいものの、前に突っ込みすぎると上手くスペースを使えない上に、相手との駆け引きもできない。

時間を作るプレーは、相手を引きつけ味方をフリーにするだけではなく、味方がポジションを上げる/調整する時間を稼ぐ効果があるため、ボールをスムーズに繋ぎながらチャンスを構築する上では必須だ。

例えば、79分のシーンでは、中嶋選手が内側から裏に抜けてカットインからシュートを打つが、相手の配置的に逆サイドのファーがガラ空きなのを意識できていない。中嶋選手が相手をドリブルで押し込みながら時間を作り、左WBの藤生選手がファーに入るのを待てていれば、より可能性の高いシュートが打てた可能性がある。

中嶋選手はパスを受けた時や裏に抜けた時、時間を作る意識をもっと持たなければならない。時間を作れている時には、質の高いパスを提供できるのだから、ドリブルの使い方に幅を持たせたプレーを心掛けてほしい。

【中嶋のキープで小川が裏に抜ける時間を稼いだシーン(vsC大阪戦)】


C大阪戦の2点目のシーン①
C大阪戦の2点目のシーン②

加えて、フリーで裏に抜け出した時には、上野選手ぐらいスピードを落として、相手との駆け引きを楽しむ余裕を持ってほしい。

【上野選手の仙台戦での得点シーン】

また、試合終盤に右WBでプレーした瀧澤選手は、「サイドで時間を作る」「相手と駆け引きをする」意識を持っており、広島の攻撃を活性化させていた。

前に突っ込むだけでなく、サイドでパスを受けたらスピードを上げ過ぎずにドリブルで相手を押し込み、シンプルに裏に抜けた選手を使ったり、カットインで中央に侵入して中央の選手に繋いだりなど、中嶋選手に求めたいプレーを繰り返していた。

【81分のシーン】

気になった選手をピックアップ

この試合で気になった選手をピックアップしていく。

藤生選手はもっと運んでほしい

長野のプレスの構造上、前半は左SBの藤生選手がフリーで受けやすい状況が生まれており、ボールを持った時に何ができるかが重要であった。

しかし、藤生選手はフリーで持ってもほとんど運ばず、「マークに付かれた上野選手への楔を入れる」「サイドの古賀選手に対して、距離が長くて質の低いスルーパスを送る」など、効果的なプレーは少なかった。

個人的にはフリーで受けたならもっと前に運んでほしいと思っている。例えば、以下のようなシーンなら、できるだけ前に運んで2対1の状況を作ったり、DFを引きつけて前線の選手を裏に送り出したりなどの意識が必要だ。

【8分のシーン】

【22分のシーン】

藤生が運んでいればDFを引き付けて古賀・上野を裏に送り出せた

藤生選手はSBとしての完成度が高く、タイミングの良い攻め上がりやポジショニングに特徴がある選手だ。ドリブルでも持ち運べる能力もあるため、フリーの時には積極的に持ち運んで、受け手が楽になるプレーを心掛けてほしい。

次節に向けた雑感

首位争いに食い込む上では痛い敗戦となった上に、来週にはベレーザ戦、再来週にはカップ戦準決勝の浦和戦を控えているため、課題の解決は急務と言える。「時間を作るプレーを意識する」「ダメなら攻撃をやり直す」「相手を見て駆け引きをする」といった意識を持たなければ、攻撃面での改善は難しいだろう。

ただし、決して悲観するような試合ではない。長野のシュートは3本で、ほぼ全て自分たちのミスに起因しており、相手に崩された訳ではない。荒れたピッチと強いプレッシャーで自滅をした形となったが、試合全体を通じて守備自体は機能していた。

さらに、攻撃を急ぎすぎて点が入らないのも、筆者からすればいつもの光景である。守備に明確な欠陥のあるチームや、強度が著しく低いチームに対して、大量得点で勝つ試合はあったが、現時点での広島は0−0で推移する試合をギリギリで1−0に持っていくのが特徴のチームだ。そういったチームが下振れを起こせば、今節のような試合も全然あり得る。

大事なのは目の前の試合にアレコレ言うことではなく、継続的な課題に対してどのように向き合うかだ。この辺は各選手の意識を少し変えるだけでも、十分な改善が可能だと思うし、良い意識でプレーできている選手はピッチ内に既にいる(左山・渡邊・瀧澤・上野あたり)

ただし、「デメリットも受け入れた上でこういうやり方を採用している」という監督の方針であれば、見る側は現状の課題に対しては受け入れながら見守るしかないとは思う。リスクとリターンの兼ね合いで”やらない”選択をしているならば、それもしょうがないのかもしれない(例えば、サイドから中央に折り返すとカットされてカウンターを受けるリスクがある、とかね)。

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