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#4【サンフレッチェ広島レジーナvsマイナビ仙台レディース|試合レビュー】DF裏への意識とコンビネーション|2024-25年WEリーグ第2節

今季3試合を戦って1勝2分と「負けないソリッドさ」と「勝ちきれない物足りなさ」が同居する中で迎えたWEリーグのホーム開幕戦。

レジーナは試合開始から保持・非保持の両面でゲームを支配し、前半16分には小川選手のスルーパスに抜け出した瀧澤選手のラストパスから髙橋選手のゴールで先制します。

その後も、国内300試合出場を達成した近賀選手が自身を祝うメモリアルゴールを決めると、後半にも華麗な崩しから追加点を奪い、上野選手の圧倒的なスキルでトドメを刺しました。

相手の時間帯もありましたが、素早く対応して主導権を渡さなかった試合運びも評価できます。

また、今節では前節までにはなかった「DFラインの裏を積極的に狙う姿勢」「3人目の動き出しを狙う意識」が見られており、チームとしてのオプションが増えつつあるのも感じました。

立花選手が今季初出場!前節同点ゴールの髙橋選手がスタメン!

DFラインの背後を狙う意識の強化

仙台戦で目立っていたのは、積極的にDFラインの裏を狙う意識が強化されていた点です。

前節までは前線の選手が降りてサポートをしながら、レイオフを使って前進するシーンが多く見られましたが、降りてばかりだと相手も前に出て対応を行います。そのため、背後への意識を強めて深さを作り、相手を押し下げる作業が必要でした。

仙台戦では、WGの中嶋選手・立花選手、FWの髙橋選手・瀧澤選手(交代で入った上野選手も)など、ビルドアップの段階から積極的に裏へのランニングを繰り返すことで、相手のDFラインを押し下げることに成功していたと思います。

昨シーズンも数多く見られた市瀬選手から中嶋選手へのロングフィードも何度か見られましたね。

さらに、SB藤生選手がボールを持った際も、FW瀧澤選手が相手のSB-CB間へのランニングを欠かさず行っていました。

今節はこの「背後への意識」がキーポイントになっていたと思います。相手の脅威となるパスを供給できていた上に、深さを作ることでDFラインの手前のスペースを有効活用できていました。

自陣でボールを奪った際にはFWが相手SB裏のスペースに斜めに走るというのも徹底されていました。(4点目の上野選手の得点はこの流れから)

インナーラップで相手の背中から飛び出した1点目

1点目のシーンは積極的な背後への意識とDFラインの手前のスペースを上手に使い分けた結果生まれたゴールと言えるでしょう。サイドへの展開から小川選手が真横でサポート、5バックを釣り出した中で瀧澤選手が相手の背中から飛び出すという流れでした。

小川選手のパスも見事ですし、瀧澤選手の「相手の背中から飛び出して裏を狙う」は、吉田体制でのテーマの1つでもあり、チームとして目指す形で奪ったゴールとも言えるでしょう。

↓相手の背中から飛び出す瀧澤選手(カップ戦1節長野戦)↓

「積極的な背後への意識」「DFライン裏と手前の使い分け」「相手の背中から飛び出すラインブレイク」。これらの要素が絡んだ素晴らしいゴールだと思います。

「DFラインの裏」と「ライン間」の使い分けと揺さぶり

後半は仙台が4バックに切り替えて前重心になったのですが、レジーナが裏を積極的に狙うためDFラインが押し下げられ、陣形を間延びさせることに成功しています。

背後へのランニングを繰り返してDFラインの手前のスペースが空く中で、吉田体制で取り組んでいる「レイオフを使った前進」も見られるようになりました。

「DFラインから瀧澤選手への縦パスが入り、笠原選手が前向きのフォローで受け取る」という、開幕からトライしている形を余裕のある状態で表現できました。

試合全体を通してDFラインの背後への意識を高め、裏と手前のスペースを上手に使い分けることで、吉田監督が目指す形を表現しやすくなったと評価できます。

レイオフから3人目を意識した崩し

攻撃のオプションとして新たに加わったのは「3人目を意識した動き出し」です。これまでは「サイドに展開してワンツーで抜け出す」「サイドが持ったらポケットに動き出す」など、2人の関係で成り立っていた攻撃がメインでした。

今節では、3人目を意識した崩しが意識されており、これまでのレイオフを使った前進と組み合わせた効果的な攻撃ができていました。

そして、3点目の中嶋選手の得点も3人目の動きによる崩しでしたね。

「細かいサポートによる連携」「インナーラップによる裏抜け」を中心に開幕から少しずつ攻撃の形を作っていましたが、今節では「3人目の動き」も加わり、多彩な攻撃パターンを表現できています。

対3バック相手のハイプレスの成果

守備面での注目ポイントとしては、今シーズン初となる3バックを採用するチームとの対戦です。

4バックのレジーナにとって、対3バックのプレスは枚数合わせで苦労する可能性もある中で、どのようなプレスの形をデザインしたのでしょうか。

連動して相手を誘い込む左サイド

対3バックのプレスの成果としては「初戦としては上々」という評価です。特にサイドに追い込んでから、中のスペースを狩場にするデザインは何度も成功していたと思います。

SHの中嶋選手がCBに対してプレスをかけるだけでなく、3バックへのプレスはFWに任せて、中嶋選手はWBを見るパターンもあり、状況に応じて使い分けていた中でもボールの奪い所は共有されていました。

「①左右のCBに対しては中を切って外に誘導する」「②WBに対しては縦を切って中に誘導する」「③中に誘導したらボランチが刈り取る」。こういった手順でのプレス設計で対3バックに臨んでいましたが、一定の成果を収めていたと思います。

SHは「WB」と「CB」のどちらを見る?

ただプレスに関して課題は残っており、所々スライドが間に合わずフリーの選手を作ってしまうシーンが見られました。左右のCBに対して「FWのスライドが間に合わない」+「SHが相手のWBを意識して下がってしまう」、これらが組み合わさるとフリーの選手ができてしまい、相手に運ばれてしまいます。

もちろんDFラインはコンパクトに守れているので、自陣で大きな問題は起きていないのですが、相手の配置によってプレスがかけられない瞬間ができるのは課題かなと思います。

本来であれば以下の2パターンでプレスを継続したいものですね。

後半4バックに変更した相手に対して中央を開けるシーンが目立つ

後半から4バックに切り替えた仙台に対して、ややプレスに問題が出ており、中央のスペースが大きく空くシーンが目立ちました。

原因としては、DFラインに降りたボランチに対して、笠原選手が深追いしてしまい、他の選手のスライドが間に合わなかったことが挙げられます。

スライドが間に合う物理的な速度には限界があるため、人に食いつき過ぎてスペースを開けてしまうのは解決が必要だと思います。ただ、後方で数的優位を作られた際にボランチが前に出ないと、そのままフリーで運ばれてしまう問題も発生します。

「相手に合わせてマークをする」「味方と連動して動く」「相手の攻撃を制限して追い込む」「コンパクトな陣形でスペースを奪う」。この辺りのブラッシュアップは今後の課題ですね。

ただ、この問題に関しては「FWに柳瀬選手を入れてDFラインへのプレスを強める」「ボランチがプレスに出たら中盤は絞ってスペースを空けない」という修正ができていたため、試合中に修正できた監督及び選手を評価すべきでしょう。

また、自陣深くまで押し込まれても、ボールを奪ったらFW(髙橋選手/上野選手)が相手SBの裏のスペースに走ってパスを引き出し、時間を作ることで陣地を回復するのは試合全体を通して徹底されていました。

試合で目立った活躍を見せた選手をピックアップ

仙台戦で目立っていた選手を何人かピックアップしました。スキルフルな活躍を見せたエースや新ポジションに慣れてきた選手など、今節も見どころが数多くありましたね。

抜群のスキルを披露した上野選手

後半から交代で入った上野選手は圧巻のパフォーマンスを示しました。持ち前のキープ力を活かして中盤で時間を作り、細かい連携では柔やかなボールタッチで中嶋選手の得点をアシスト。

極め付けは上野選手のスキルが詰まったかのようなゴールシーン。元々スキルフルな選手ではありますが、今節のパフォーマンスは際立ってしましたね。

得点したシーンで注目すべきは裏に抜け出した後の上野選手のプレー判断です。裏に抜け出すとスピードを上げてDFを振り切りたくなるものですが、実はそれを選択してしまうと、DFに追いつかれる上に、シュートコースも厳しくなりがちです。

上野選手はスピードアップを選択せず、逆に減速を選び、DFとの駆け引きを選択しました。自分に有利な間合いで相手に飛び込ませず、ジワジワと相手を押し下げチャンスを伺っています。

さらに、減速していたため周囲の状況も確認できており、ドリブルの方向も左右どちらも選べる状況でした。(本当はサポートが欲しかったのかもしれませんが、ここでは誰もいませんでした。)

シュートエリアに入ったら落ち着いてシュートを決めるだけです。ちょうどDFがブラインド気味になっているため、GKも反応がしづらかったのではないでしょうか。

このゴールの一連の流れや詰め込まれたテクニックは、湘南戦での大橋選手のゴールを思い出しますね。裏に抜け出した後にスピードに頼って振り切ろうとしないののは上手い選手の証ですね。

(9月23日追記)横浜FM戦でのトルガイ・アルスラン選手のゴールも同しスキルですね。上手い選手は皆んな持ってるヤツ。


高い位置でのプレーに慣れてきた小川選手

今季の小川選手はアンカーではなくIHでの出場が多く、昨季よりも高い位置でのプレーが多くなっています。サイドに対するサポートの質やターン/スルーパスの上手さを期待されているのですが、前節まではやや慣れるのに苦労していた印象です。

ですが仙台戦ではやっと高い位置プレーに慣れてきた印象です。1点目の瀧澤選手へのスルーパスは、小川選手が持つパスセンスを高い位置で活かした初めてのシーンかもしれません。

小川選手はIHとしてプレーしつつも、後ろに降りてボランチ気味でプレーする時間もあります。今節は前線の選手が積極的にDFラインの裏を狙っていたため、低い位置からのスルーパスでも、小川選手の武器が活かされていました。

これに加えてIHとして前線へのランニングも繰り返しており、新しいポジションでの自分の活かし方が分かってきたのかもしれません。

守備的MFとしての存在感を高める笠原選手

吉田体制の守備的MFとして定着している笠原選手は、今節の引き続き高いパフォーマンスを示していました。

ロングボールに対するプレスバックでDFと共同でボールを奪う意識の高さ、守備範囲の広さを活かしたカバーリング、こぼれ球への反応の速さとポジショニングの的確さなど、吉田監督からも絶対的な信頼を得ていると思います。

さらに、今節では保持の部分でも存在感を示しており、笠原選手が持つ「サポートの上手さ」を活かした前進の形も作れていました。

このシーンに続いてフリーで運んだ笠原選手は、タイミングを見計らって中嶋選手へのスルーパスを通します。

ここまでの課題として挙げていた「前線へのパス供給」の部分でも成長を見せており、1年通してどのような姿に成長を遂げるのかワクワクさせてくれます。

雑感-オプションを増やしながら成長を続ける-

WEリーグカップの初戦から見せてきた規律ある守備と保持の形に加えて、今節では攻守においてオプションが増えた試合といえます。

保持においてはDFラインの裏を積極的に狙い深さを作りながら、DFラインの手前を使う前後の揺さぶりができましたし、インナーラップを使った崩しに3人目の動き出しの要素が加わりました。

非保持においても初の対3バック相手のプレスを成立させ、組織としての完成度と柔軟性を示しました。もちろんプレスの形に関しては課題もあり、自分たちの想定とは異なるシチュエーションになった際の対応の仕方は整理したいところです。

個々の選手に関しても、新しいポジションに慣れてきた小川選手と笠原選手は、与えられたポジションで自身の能力を開花させていますし、中嶋選手のコンディションも上がってきました。上野選手のオールマイティぶりも化け物じみてきましたね。

そして、何より近賀選手が初めてエディオンピースウイング広島のピッチに立ったこと、国内300試合出場のメモリアルゲームを自身のゴールで祝ったことは、チーム・サポーター共に記憶に残る試合になったと思います。

次の対戦相手は強豪のベレーザです。ベレーザ相手に攻守で積み上げたものが通用すれば、レジーナの強さは本物と言えるでしょう。

近さん300試合おめでとう!我らの誇り!!!だいすき❤️

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