#13【サンフレッチェ広島レジーナvs三菱重工浦和レッズレディース|試合レビュー】その差は実力か、ディテールか。|2024-25年WEリーグ第8節
WEリーグ第8節・三菱重工浦和レッズレディース戦は前半戦の正念場だ。中2日で迎える試合ではあるが、首位争いに食らいつくためにも負けられない。
さらに、前年のリーグ王者でもある浦和L相手に、今季積み上げてきたサッカーがどれだけ通用するかを確認する上でも重要な試合である。
スタメンは左SHに早間選手が入った以外はいつものメンバーだ。浦和LはCBの高橋選手がFWで出場していた。(ビルドアップが下手な高橋選手がCBであればボールを押し付けて嵌める選択ができたけど当てが外れた。チクショウ)
今までの相手とは異なる強度とスピード
まず印象的だったのが、浦和Lのフィジカル強度とスピードだ。シンプルなフィジカルコンタクトでも跳ね返され、こぼれ球への反応も一歩早い、特に対人守備に強みを持つ笠原選手に余裕がなくなっていたのが、これまでの相手とはレベルが違うのを表していたと思う。
【セカンドボール争いに負け決定機を作られたシーン】
ただ、フィジカル的に劣勢でも、広島は積み上げてきたコンパクトな組織守備で対抗できており、プレッシングで相手をサイドに誘い込みながら、ボールを奪うシーンを何度も作れていた。
「浦和L相手にチームとして対抗できている」。そんな印象を受けた序盤の戦いであった。
中央を執拗に叩き続ける浦和
ボールを保持する時間が長かった浦和Lの攻撃は、とにかく中央をしつこく叩き続けるというものだった。
CFの高橋選手が広範囲に動いてロングボールを収め、前線の起点を作ったら、トップ下の塩越選手と中に絞ったSH高塚選手、伊藤選手、ボランチの角田選手が絡んでコンビネーションからシュートまで持っていく。
詰まったら幅をとるSBにボールを預けることもあるが、基本的には中央を叩き続ける攻撃でゴールに迫っていた。対して広島はコンパクトな守備を維持し、チャレンジ&カバーの徹底や素早い攻守の切り替えで、相手の攻撃を受け止めることに成功していた。
狙いを定めた保持とトランジション
相手に押し込まれる展開が続いたものの、ボールを奪った直後のカウンターや保持での狙い所は整理されており、中2日と準備期間が短い中で、精度の高い対策ができていた。
保持では人に食いつくSBの周辺を使う
保持では主に浦和Lの「人に食いつきやすいDFの習性」を活用して、スペースの攻略を図っていた。浦和LのDFはボールホルダーに対して強く当たる割には、CBの2人はあまり中央から動きたがらない(スライドしない)ため、SBが孤立した状態でスペースができていた。
ビルドアップでは、IHの小川選手や瀧澤選手が主にこのスペースを活用する。SHの中嶋選手も少し低いポジションを取ってSBを釣り出すなど、スペースメイクに貢献している。
さらに、SBが食いつきスペースができた所を、中嶋選手が直接裏を取って決定機に繋げるシーンも作れていた。この決定機で先制点を奪えていたら、また違った展開になっていたはずだ。
【中嶋選手食い付いたSBの裏を取るシーン】
カウンターではスペースが空いたボランチの周辺を狙う
自陣でボールを奪った直後のカウンター局面では、浦和Lの保持の形によって空く「ボランチ周辺のスペース」に狙いを定めた。ボランチ周辺のスペースをカウンターの起点に設定するのは、前回のベレーザ戦と同様のやり方だ。
浦和Lは両SBが高い位置を取り、ボランチの片方も積極的に前線に絡むため、後方はCB2枚+DH1枚の3人しか残っていないシーンも多く、カウンターで狙うには絶好のスペースが空いていた。
さらに、浦和Lが中央の狭いスペースに突っ込む攻撃に執着していたため、コンパクトな守備からパスをカットし、カウンターへと繋げるシーンも見られた。前回のベレーザ戦と同様に、狙いを持った攻撃を披露できたのは評価したい。
配置を変えた相手の保持にも対応した後半
後半から浦和は藤崎選手を右SHに投入し、伊藤選手がボランチに回る。広島は柳瀬選手を左SH、上野選手をCFに入れる交代を行った。
浦和の中盤の構成が変わったことで保持の形が少々変わり、ボランチの1枚がCBの脇に降りて◇を作るビルドアップを行ったが、広島は冷静に対処しており、柳瀬選手のプレスを中心に組織で連動して対応できていた。
守備は全員が警戒を保たなければならない
後半の入りは決して悪くなかった。変化した相手の保持にも対応してプレスを嵌めていたし、コンビネーションで右サイドを崩すなど、攻撃の形も作れていた。
しかし、60分に塩越選手のループシュートが決まり先制を許してしまう。「一瞬の隙」と片付ければ簡単ではあるが、守備の警戒度が明らかに欠けていた箇所があったのが残念だ。
【失点シーン】
失点直前の左サイドから斜めのパスが入った瞬間、左SHの柳瀬選手が足を止めており、全く警戒できていない。結果的にパスは流れ、柳瀬選手の方に転がってくるのだが、足を止めていたため反応が遅れ、ワンツーを許してしまう。
もっと言うと、柳瀬選手が警戒度を高め、藤崎選手をマークしながらスライドをして絞っていれば、笠原選手は塩越選手の対応に集中できたかもしれない。(直後に負傷交代した市瀬選手が前に出るというのはさすがに酷だ)
アオアシ的に言えば、笠原選手は柳瀬選手を信頼していなかったから、「自分が対応しなければ…!」と思ったのかもしれない。
人数が揃っていても警戒を緩め足を止めていれば、守れるものも守れないし、そういった隙を付くだけのクオリティを持っているのが浦和Lの選手たちだ。
柳瀬選手は特にボールとは関係のない場所で足を止めることが多く、守備時のポジショニングにも課題がある。この課題を乗り越えられなければ、オープンな展開になった時しか使えないピーキーな選手から脱せないだろう。
せっかく攻撃的な選手として目立った活躍を見せているのだから、こういった所で信頼を失うようなプレーはしてはならない。
「前線の起点を増やす浦和」と「強気で斬り合いを挑む広島」
浦和に先制を許した直後、両チームに動きがあり、浦和はフィジカルの強い島田選手を投入し、前線の起点を2枚に増やした。対して広島は呉屋選手を投入し、3バックに変更したのに加えて、市瀬選手の負傷に伴い渡邊選手を送り出す。
中央を厚く攻める浦和は、前線のフィジカルを活かして起点を作りながらサイドから絞った藤崎選手の機動力や塩越選手のテクニックを用いて、相手を自陣に押し込みプレッシャーを強める。そんな中で与えてしまったCKで2失点目を許してしまった。
2点を追いかける広島は撃ち合い覚悟で前への圧力を強める。ボールが行ったり来たりする展開の中で、局地的なフィジカルバトルに強い渡邊選手が中央でバランスを取っていたのも広島の追い風になったかもしれない。
1点を返した後も、渡邊選手のロングカウンターから呉屋選手のクロスや、小川選手のポケットからのクロスなど、厚みのある攻撃を見せた。浦和Lも試合を閉じる意識が皆無なのもあり、試合終盤まで怖さを見せた広島だったが、同点に追いつくことは叶わなかった。
サイドチェンジの意識をもう少し早く持てれば…
試合全体を通じて感じたのが「効果的なサイドチェンジ」が少なかった点だ。得点シーンでは、渡邊選手がセカンドボールを拾った所から右サイドで起点を作り、柳瀬選手が左サイドに展開した中で生まれている。
試合終了間際にもサイドチェンジからチャンスシーンを作れていた。一方で前半は縦志向の攻撃がメインで、サイドチェンジの意識は希薄であった。
サイドチェンジが必要な理由はシンプルに「浦和Lがコンパクトに守っているから」だ。狭くタイトに守るチームに対して、サイドチェンジを使いながらピッチを広く使うのは定石だ。
特に、浦和Lは狭く守る上に人に食いつきやすいため、サイドを替えるだけでもスペースが生まれやすい。守備の粗をフィジカルで補うチームだからこそ、穴を効果的に狙える状況をもう少し作りたかったところだ。
ボールを保持する余裕が少ない試合だったかもしれないが、リーグ戦第5節の長野戦のようにピッチを広く使った攻撃が展開できれば、優位な状況も作れていたかも入れない。
もちろんゲームプランや保持によるリスク×リターンの計算は必須なため、ボールを持てばいいというわけではない。しかし、強豪クラブと渡り歩くためには、自分達が試合をコントロールする時間も必要なのではないだろうか。
気になった選手をピックアップ
悔しい敗戦ではあったが光るプレーも随所に見えていたので、この試合でも気になった選手を紹介していく。
上野選手の完璧な動き出し
1点を返した上野選手の得点は、彼女が持つFWとしてのスキルが存分に表れていた。まずは動画で得点シーンを見てほしい。
【得点シーン】
塩田選手のラストパスの直前、上野選手はマークされていたCBの石川選手がボールホルダーに釘付けになった瞬間を見逃さず、膨らむ動きでDFから離れ、パスを受けるためのスペースを作っている。
パスを受けた瞬間、石川選手は背中を取られた状態であり、対応も遅れたため、余裕のある状態でシュートを打つことができた。
この「DFがボールホルダーに食い付いた瞬間に視野外へ離れる動き」は、FWにとってスペースの少ないゴール前でフリーになるために必要なスキルだ。攻守においてクオリティと戦術理解度の高さを示す上野選手だが、当然のようにFWとしての動きも完璧なのである。
試合後のコメントで得点シーンを正確に言語化できているのも素晴らしい。(ストライカーとして動きすぎずゴール前で待つ判断もgood)
塩田満彩は空間を上手に使えるようになりました
上野選手の得点をアシストした塩田選手は、「キック範囲の広さ」という武器をパサーとして活かせるようになっている。前半42分には、SBの裏を取る中嶋選手へスペースに走らせる絶妙なパスを供給した。
【中嶋選手へのスルーパス】
このキック範囲の広さは、女子サッカーでは希少性の高いスキルだ。キック力を活かすために顔を上げて視野を確保し、奥のスペースをキチンと捉えているのも素晴らしい。
上野選手へのアシストも、思い切った攻め上がりを見せる中で、ヘッドダウンせず前の状況を確認し、狭い空間でフリーになった上野選手を見つけ正確なパスを通している。
【上野選手へのアシスト】
そういえば相模原戦のアシストもDF裏のスペースに走る上野選手を見ていたからこそ通ったパスである。
【相模原戦でのアシスト】
前の長野戦でもロングボールで決定機を2回演出している。
【長野戦での決定機演出①】
【長野戦での決定機演出②】
元々、ドリブルでの持ち上がりやスルーパスには光るものがあったが、今季の塩田選手は成長を続ける中で、自分の武器を安定して発揮できるようになったと言える。
【元々運びながらのスルーパスにはセンスがあった】
今季は控えSBとしてスタートした塩田選手だが、近賀選手の怪我によって今後レギュラーとして試合に出続ける可能性が高い。大きな成長を遂げた彼女が今後、”キック力”という武器をどのように使いこなすのか楽しみだ。
次節に向けた雑感
試合後、至る所で「浦和さん強かった」「まだまだ差があるな」などの感想が見られたたが果たしてそうだろうか。もちろん浦和Lの選手の質は高いし、戦術に対する目の揃い方や隙を見逃さない強かさは王者そのものだ。
しかし、広島の狙い通りの試合ができていたのも事実だ。コンパクトで連動した組織守備で相手の攻撃を受け止め、空くスペースに狙いを定めたカウンターやボール保持も見せていた。
「前半の決定機を瀧澤が決めて入れば…」「終盤の小川のクロスが呉屋に通っていれば…」など、たらればを言うのはよくないが、この試合に関しては全く逆のシナリオでもおかしくなかったはずだ。
だからこそ、あの失点が惜しい。気が緩んだ一瞬の隙を突かれて、勝利のチャンスを手放してしまった。吉田監督のコメントのように、あの失点さえなければ、カウンターから得点を奪い試合を優位に進められていたかもしれない。
この試合はレジーナにとっても良い教訓になったはずだ。カップ戦の準決勝の前に大切な教訓を得たことをポジティブに考え、次の試合に切り替えてほしいと思う。
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