#11【サンフレッチェ広島レジーナvsAC長野パルセイロレディース|試合レビュー】コンパクトな守備は広げて攻めろ|2024-25年WEリーグカップ第5節
公式戦10試合を終えて7勝2分1敗と上々のスタートを切っているサンフレッチェ広島レジーナ。11試合目となるWEリーグカップ第5節・AC長野パルセイロレディース戦は、カップ戦の連覇を狙う上で負けられない戦いだ。
長野は今季の初戦で快勝した相手ではあるものの、コンパクトで粘り強い守備は簡単には崩せない。広島としては冷静にボールを動かしながら相手の守備を攻略したいところだ。
スタメンは前節から大幅に変更しており、ほぼターンオーバーといった陣容である。次の週には中3日・中2日の3連戦も控えている中、マネジメントも含めた人選と言えるだろう。
狙い通りのCKで早々に先制
試合開始直後、広島は最初のCKで先制点を奪った。このCKには細かいネタが仕込まれていたので、振り返っていこうと思う。
【先制点に繋がったCK】
広島は「ゴール前中央のスペースを空ける」を目的とし、マンツーマンで守る相手に対して、以下のような動きを行った。
藤生選手/中村選手:ニアに走り込んむ
渡邊選手:ゴール前から離れてスペースを空ける
呉屋選手/髙橋選手/古賀選手:空けた中央〜ファーに飛び込む
これらの仕込みがあった中、チームとして空けたスペースに正確に落とした森選手のキック技術も素晴らしい。また、髙橋選手と古賀選手は、スクリーンをかけて中央で呉屋選手を1対1にする狙いだったかもしれない。
ちなみ試合後の吉田監督のコメントは以下の通りだ。
ピッチを広く使ってパスを繋ぎたい広島
広島の保持のコンセプトは「相手のコンパクトな守備に対してピッチを広く使う」であった。前節のような中盤のローテーションを使うのではなく、各選手がポジションを守りながら、前進を試みるシーンが多かった印象だ。
鍵になったのはIHの方向転換
コンパクトな守備に対してピッチを広く使うには、相手を片方のサイドに寄せてからサイドチェンジを使うのが効果的だ。また、ただサイドを替えるだけでなく、中盤の選手を経由すると、より有効にスペースが使える。
そういった意味で前半の保持の鍵になったのは、「IH(渡邊選手・瀧澤選手)の方向転換」だ。DFからパスを受けて、相手を片方に寄せた上で逆サイドに展開すれば、広いスペースからサイド攻撃が仕掛けられる。
前半で明確な答えを出せたのは、25分の瀧澤選手である。このシーンでは、降りてきた瀧澤選手が中村選手から縦パスを受け、相手を寄せた上で逆サイドの呉屋選手に展開。高い位置を取った島袋選手に繋ぎ、広いスペースがある中で立花選手が裏に抜け、結果的にシュートにまで至っている。
ちなみに渡邊選手も方向転換を試みていたが、ファールに遭うなど苦戦していた印象だ。
ワイドな保持を前フリにした同サイド攻撃もセット
もちろんサイドチェンジありきで保持をするわけではない。ワイドな攻撃を前フリにしながら、同サイドでの攻撃もセットで用意されている。
主な形は左右で異なっており、左サイドは古賀選手が低い位置で相手を引き出しながら、瀧澤選手や髙橋選手がサイドの裏のスペースに飛び出す回数が多かった。
右サイドは立花選手をシンプルに活かす形が多く、渡邊選手が時間を作りながら立花選手を背後に走らせる意図を持っており、選手のキャラクターに合った設計が見られている。
【左サイドは瀧澤選手・髙橋選手が裏に飛び出す】
【右サイドは立花選手をシンプルに走らせる】
勇敢なハイラインと規制できないプレス
守備ではCBを中心とした勇敢なハイラインが印象的であった。しかし、長野の保持に対してプレスがハマらないシーンが多く、苦戦する部分も多かった。
呉屋選手と中村選手が積極的にラインを上げる
前半に目立っていたのは、CBの呉屋選手・中村選手による細かいラインコントロールだ。相手がボールを少しでも下げれば即座にDFラインを押し上げ、オフサイドを誘うことにも成功していた。
【バックパスに対してDFラインを上げオフサイドを誘う】
【相手が下がったらできるだけDFラインを上げる】
市瀬選手・左山選手の組み合わせと比較して、呉屋選手・中村選手はラインコントロールを積極的に行うのが特徴だ。(レギュラー組の藤生選手が少し出遅れているのが興味深い)
【DFラインを上げる呉屋選手・中村選手と出遅れる藤生選手】
DFラインを押し上げ、勇気を持って前に出ることで、守備陣形をコンパクトに維持できていたため、ボールを持たれても自陣に押し込まれる展開にはならなかった。
1stDFの質にやや問題あり?
結果的に2点を奪ってリードをした前半ではあったが、相手の保持に対してプレスがハマらないシーンが目立っていた。
具体的には、長野のボランチが左サイド側に流れる傾向にあり、FWのプレスでボランチへのパスコースを制限できていなかったため、長野の保持に対してやや苦戦していた印象だ。
【サイドに流れるボランチへの規制ができない1stDF】
もちろん森選手のインターセプトや呉屋選手・中村選手の準備と予測、藤生選手の前に出る守備など、後ろの選手の働きによって大事には至っていない。コンパクトな守備組織を維持する意識も高かったため、パスの出所を潰すことには成功していた。
また、長野は「SHとSBのポジションチェンジ」や「ボランチがサイドに流れる」など、能動的な動きで保持を展開したが、マークの受け渡しやどこまで前に出るかの判断など、冷静な対応できていたと思う。
【絞って降りるSHに対して藤生選手が対応】
【絞って降りるSHに対して森選手がスライドして対応(藤生選手はステイ)】
相手に対応しながら攻撃への厚みを増す後半
後半からは柳瀬選手と李選手を投入。戦い方は前半と同様だが、交代選手によってこの試合での狙いをより強調する意図があったと考えられる。後半開始直後は長野の保持にやや苦しめられたが、時間の経過と共に流れを取り戻すことに成功した。
ワイド攻撃と中央突破の使い分け
前半に引き続き、保持ではピッチを広く使ったワイド攻撃を中心に組み立てを行いつつ、中央攻撃との使い分けを効果的に狙っていた。
違いとしては、アンカーが森選手から渡邊選手に代わって、中盤の底を起点にした展開が可能になったのと、柳瀬選手が入って広範囲に動くことで中盤での細かいサポートが可能になったことが挙げられる。
IHの瀧澤選手への縦パスを出発点に逆サイドまで展開する形も前半と同様だ。
【瀧澤選手への縦パスから逆サイドに展開】
ピッチを広く使うワイド攻撃を前フリにした中央攻撃では、サイドからパスを受けた渡邊選手が積極的にゴール前中央のスペースを狙っていた。
【中央で運んだ渡邊選手から古賀選手へのスルーパス】
交代選手でオプションを追加
70分以降、相手の疲労と交代選手の活躍により、広島は勢いを取り戻す。特に目立っていたのはSB塩田選手とSH松本選手で、それぞれの特徴を活かして、チームの攻撃にオプションを加えていた。
まず塩田選手は持ち前のキック技術を活かして、前線に質の高いボールを供給。ロングパスだけで2回の決定機を演出している。
【塩田選手→古賀選手の決定機】
【塩田選手→松本選手→李選手の決定機】
松本選手もスピードと推進力を活かして、右サイドを活性化させていく。呉屋選手や塩田選手が前を向いた瞬間に裏を狙ってパスを引き出す姿も目立っていた。
【左サイドで作って右の松本選手でアイソレーション】
3バック化とボランチ脇をカバーする藤生選手
85分に左山選手を投入し、3バックに変更することで逃げ切りを図る広島だったが、ここでは左WBの藤生選手がボランチの脇のスペースを絞ってカバーしていたのが目立った。
本来であればボランチの2人が守るべきスペースだが、うち1人の柳瀬選手が前に出てスペースを空けており、渡邊選手が広大なスペースを守る必要があったため、藤生選手がカバーする設計だったのだろう。
【ボランチの脇をカバーする藤生選手①】
【ボランチの脇をカバーする藤生選手②】
実は、カップ戦第3節のベレーザ戦では、ボランチの1人が前に出てスペースが大きく空いた結果、カウンターを受けて失点するシーンがあった。
【カップ戦第3節のベレーザ戦の失点シーン】
もしあの時、WBの塩田選手が絞ってボランチ脇を埋めていれば防げた失点かもしれない。「藤生選手が中に絞って守る」というのは、前の試合の反省を活かしながら、前に出る柳瀬選手の特徴を考慮設計なのかもしれない。
気になった選手をピックアップ
ターンオーバーをした中で見事な勝利を飾った試合で気になった選手をピックアップアップしていく。
信頼を積み重ねる呉屋選手
先制となるゴールを決めた呉屋選手だが、試合を重ねる度に信頼を積み重ねている。この試合では、特に積極的なラインコントロールが目立っていた。
相手のバックパスや味方のクリアに即座に反応して、DFラインをこまめに押し上げており、相手のオフサイドを何度も誘っていた。呉屋選手のラインコントロールがあったからこそ、守備組織をコンパクトに保つことができ、相手のチャンスの芽を摘めたのだろう。
【積極的にDFラインを上げる呉屋選手】
以前に呉屋選手に対して、このような感想を持ったことがある。
チームの約束事を愚直にやり続けている選手が控え選手にもいるのは非常に心強い。その上で得点という結果が付いたのは、チームとしても良い影響を及ぼすはずだ。
積み重ねた成果が結果に繋がった森選手
勝利が必須の試合でアンカーを任された森選手。大胆な起用だと思った方も多いだろうが、キチンと積み重ねてきたプレーを披露してくれた。
特筆すべきは、2点目の髙橋選手のゴールにも繋がったインターセプトだ。守備時に首を振りながら周囲を確認し、次のパスを予測する意識の高さがアシストに繋がったのだろう。
【2点目に繋がった森選手のインターセプト】
同様のプレーは前回出場したベレーザ戦でも見せており、練習からの意識の高さが伺える。吉田監督の指導に対して前向きにトライし続ける姿は非常に好印象だ。
古賀選手の裏抜け
改善ポイントとして気になったのは、60分の古賀選手がスルーパスを受けたシーンだ。渡邊選手がドリブルでDFを3人引きつけて空けたスペースに古賀選手が飛び込むのだが、残念ながらオフサイドになってしまう。
【渡邊選手→古賀選手へのスルーパス】
このシーンに関して、古賀選手の裏抜けの仕方は改善が必要である。サイドからゴール前に飛び出す際、直線的に抜け出すのではなく、DFラインに沿うように走ってタイミングを合わせていれば、オフサイドにはかかりにくかったはずだ。
古賀選手は今季なかなか出場機会を掴めず苦しいシーズンを過ごしている。FWとして結果を示して序列を上げるなら、ゴールに至るまでのディティールを突き詰めなければならない。
次節に向けた雑感
結果としては2−1と接戦での勝利ではあるが、シュートの本数は「広島14本」「長野4本」と内容では圧倒しており、後半の決定機も含めると、もう2、3点入っていてもおかしくはなかった試合である。
内容としても相手のコンパクトな守備を攻略するための、ピッチを広く使った保持ができており、サイドと中央を織り交ぜた多彩な攻撃を披露した。これは前節の縦志向の強い保持とは異なる形でもあり、相手の特徴に応じて使える引き出しが増えているのを感じる。
さらに、控えに甘んじている選手たちの成長も著しい。森選手はCKとインターセプトから2つのアシストを記録し、呉屋選手は果敢なラインコントロールでチームを統率した。
「誰が出ても同じサッカーをする」というのは、口で言うほど簡単なものではないが、選手1人1人の高い意識と質の高い競争が行われているからこそ、試合に出た選手たちは自信を持ってプレイできているのだろう。
さて、来週からは大宮(リーグ)/東京(カップ)/浦和(リーグ)と過酷な3連戦が始まる。リーグ戦・カップ戦共に重要な試合となるが、総合力を高めた今季の広島が人選含めてどのように戦うのか注目だ。
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