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#9【サンフレッチェ広島レジーナvsアルビレックス新潟レディース|試合レビュー】相手への対応と的確な修正|2024-25年WEリーグ第5節


万能上野がSH

3勝1分の負けなしで臨むWEリーグ第5節。相手は昨年WEリーグ杯決勝で死闘を繰り広げたアルビレックス新潟レディースだ。

新潟は橋川監督就任後、男子チームと似通った価値観で丁寧なボール保持を展開するチームに生まれ変わっており、一筋縄ではいかない厄介な相手でもある。

広島としては今季積み上げている守備戦術を中心に流れを掴みながら、相手の保持の隙を突くカウンターで得点を狙いたい所だ。

スタメンでは、SHが立花選手ではなく上野選手は入っている。立花選手のパフォーマンスが上がっていないのと、上野選手ほど器用にSHとして振る舞える選手がいないのが理由だろうか。


誘導する広島と掻い潜る新潟

前半は「ボールを握りスペースを作り出す新潟」「プレスで誘導して奪取からのカウンターを狙う広島」という構図であった。

新潟はこれまでの相手と異なりボール保持の質が高く、各選手のポジショニングやサポートのタイミングなど、チームとしての戦い方が共有されていた印象だ。

一人一人のボールスキルも高く、広島としては奪えそうで奪えないもどかしい戦いを余儀なくされた。

相手を引き出しスペースを創出する新潟

コンパクトに守りたい広島に対して、新潟は相手の守備組織を広げるような保持を展開する。

CB2人はワイドに開きながらFWのプレスをしっかりと引きつけ、1列目と2列目の間を空けることでボランチがプレーしやすいスペースを作り出す。さらに、ボランチに対して広島の中盤が食いつけば、中盤の裏側のスペースにFWが降りて起点を作っていた。

17'02"~のシーン

新潟の保持は、相手のプレスを引き出しながらスペースを創出し、相手の出方に応じて連動したサポートを的確に行なっている。そこにSBとSHのローテーションも加えるなどで、広島の守備に混乱を与えていた。

上野選手を中心に狭いスペースに誘導する広島

新潟の保持に苦戦するも広島はこれまでと同様のコンセプトでプレスをかけていく。プレスの中心にいたのは左SHで出場した上野選手で、的確に中央のパスコースを管理していた。

10'45"のシーン

上野選手のポジショニングや相手との駆け引きによって、新潟の保持をサイドに誘導。狭いスペースに追い込んだら、笠原選手や藤生選手も加勢してボール奪取に成功していた。

さらに、上野選手は敵味方の位置を見ながら細かくポジショニングを修正し、ボール保持者の状況から次の展開を予測してパスカットを狙うといった、ハイレベルな守備も見せている。

上野選手のパスカットからカウンターに繋がるシーンも何度かあり、前半の広島を攻守に渡って牽引していた。

サポートが途絶えない新潟とカウンターで跳ね返す広島

広島はプレスによって流れを掴みたいが、新潟もサポートが途絶えない上に、中盤の石田選手やCBの白沢選手など、ビルドアップ能力の高い選手もいたため、良い形で奪える回数は少なかった。

「狭いスペースに誘導しても、やり直して逆サイドに展開される」「パスコースを切っても剥がして繋いでくる」など、広島の守備対応に負荷をかける保持も展開しており、これまでの相手とは異なる難しさも感じていたかもしれない。

そんな中でも、粘り強くプレスでサイドに誘導しつつ、新潟のFWへの楔に対しては、CBが積極的に前に出るなど、徐々に対応できており、決定的な場面はほぼ作らせなかった。

そして、ボールを奪えばカウンターでゴールに迫り、新潟を自陣に押し下げていく。特に、新潟は保持時にSBを高い位置に上げることが多かったため、SBの裏のスペースをカウンターの狙い所と定めていたように感じる。

13'26"~のシーン

強気な姿勢で流れを呼び寄せる後半

前半は狙いを持って繋ぐ新潟相手に迷いながらも対応しつつ、カウンターで跳ね返す展開を作れたが、自分たちがボールを持った際には、前後が分断したり、サポートが絶たれたりするシーンも目立っていた。

そのため、後半からはサイドに展開された際のサポートの意識が高められ、開始直後には髙橋選手がサイドにサポートに出て、上野選手がワンツーで抜け出すというシーンも作られた。

48'20"〜のシーン

さらに、守備面においても、相手の繋ぎ方に対する対応を明確にすることで、ゲームの流れを掴むことに成功した。

FWへの楔に対する対策を強める広島

前半の新潟の繋ぎに対して、後半の広島は対応を明確にして迷いなくプレーできるような修正を行なった。

主な修正としては、斜めに降りてくるFWへの楔の対応で、1つ目の対応策は「ボランチのスライドとプレスバックで挟む」だ。2列目の横幅をコンパクトに保つ意識を高め、FWに入ってくるパスに狙いを定めて奪い切る守備を見せた。

46'05"〜のシーン

さらに、小川選手が新潟のボランチに対応して、後ろのスペースが空いた際は、CBが前に出て対応、他のDFはカバーリングで絞るのが徹底されていた。

47'45"~のシーン

前半も同様の対応はしていたものの、やや迷いながらやっていた印象があったが、後半は迷いなく奪い所を定めて、新潟の繋ぎを寸断することに成功していた。

裏返されるリスクを考慮して3バックへ変更

FWへの楔をCBが思い切り前に出て潰す形を明確にしたことで、ゲームの流れを掴んだ一方で、CBの迎撃が失敗した際のリスクも表面化した。

62分の新潟の決定機では、市瀬選手がFWへの楔を潰すのを失敗し、セカンドボールを滝川選手に拾われ、川澄選手へのスルーパスが通った所から始まっている。

60'40"~のシーン

CBが積極的に前に出て縦横をコンパクトに守るのは重要だが、裏返されるリスクも当然伴う。さらに、新潟は爆発的なスピードと推進力のあるドリブルを持つ田中選手をFWに投入したため、リスク管理がよりシビアになった。

そのため、広島は直後に呉屋選手を投入して3バックに切り替える。5-2-3の守備で中央を塞ぎ、サイドからFWに入って来る楔は左右のCBが前に出て潰す。

これならCBが前に出ても、後ろにはCB2枚とWB2枚の計4枚が残っているため、裏返された場合のリスクもケアできる。

おそらく新潟のジョーカー的存在でもある田中選手を警戒していた中で、事前に決められていたゲームプランだったかもしれない。どちらにせよ3バックへの変更で、強気の戦い方の中で生じるリスクに対して、迅速な修正ができた。

前線のポイントを増やしながら背後へのアクションも増やす

3−4−2−1への変更の効果は、守備だけでなく攻撃でも表れており、シャドー2枚がより近い位置でプレーすることで、前線でのサポートを細かく作れるようになった。

67分の決定機は、シャドーの瀧澤選手がサイドでボールを引き出した中で、もう片方のシャドーの中嶋選手がSBの裏に飛び出す形で生まれたものだ。

72分には、FWに李選手、シャドーに柳瀬選手、ボランチに渡邊選手を投入し攻勢を強める。最前線の李選手が積極的に背後を狙い深さを作りながら、ライン間では柳瀬選手と中嶋選手が近い距離でプレー。

さらに、ボランチの小川選手が前線に絡みながらポケットを取るなど、セットプレーも含めてシュートの回数が増えていく。渡邊選手も後方でバランスを取りながら、インターセプトやセカンドボールを狙っていき、相手に流れを引き渡さないプレーを見せた。

そんな展開の中、何度も狙いを見せていた小川選手のニアへの鋭いクロスと、李選手の完璧な動き出しによって、美しい決勝ゴールが生まれた。

得点の直前に関しても、中嶋選手や柳瀬選手が中央で細かく繋ぎ、相手を中に集めてからサイドに出た小川選手に展開した所から始まっており、3バックへの修正に対して、ピッチ上の選手たちが意図を理解した中で生まれた得点と言えるだろう。

気になった選手をピックアップ

拮抗した試合を展開しながら、終了間際の劇的なゴールを勝利を収めた広島だったが、この試合で目立った選手をピックアップしていく。

守備の個人戦術が際立つ上野選手

上野選手は今シーズンSHでの起用が増えているが、その理由の1つが「守備の個人戦術」にある。

この試合でも、新潟のビルドアップに対して中央へのパスコースを管理してサイドへ誘導しながら、相手との駆け引きからパスカットを狙うなど、細やかな守備テクニックを見せていた。

さらに、ホルダーの身体の向きや利き足、ボールの置き所などから次の展開を予測していたのも驚きだ。守備時の身体の向きやステップワークなどの基本も備わっており、瞬発的なスピードで間合いを詰めることもできる。

【前半10分上野選手のインターセプト】

ここまで守備の個人戦術が備わった選手は広島にはいないため、吉田監督が上野選手をSHに起用するのは理解できる。願わくば上野選手自身が他の選手に自分のスキルを伝えてほしいものである。

ロジカル×パッションな決勝点の李誠雅選手

決勝ゴールに繋がった一連のプレーには、李選手のFWとしての技術と勇敢さが伴っていた。

まずクロスに対する入り方に関して、最初のタイミングで小川選手のパスが引っかかった直後に後ろに下がって動き直し、走り込むスペースを確保している。さらに、DFの背中側(視野外)にポジションを取り、DFにとってボールとマークの同一視野が難しい状況も作っていた。

このようなFWとして基本に忠実な準備をする中で、クロスが入る瞬間には躊躇なく身体を投げ出している。点を取るための技術と勇敢さが伴ったプレーに、質の高いピンポイントクロスが合えば、ゴールが生まれるのは必然だと言えるだろう。

もし最初のタイミングで動き直しをしていなければ、ニアに飛び込もうとしてもシュートコースが狭く、ボールに触れたとしてもゴールに入る可能性は低かったはずだ。

FWとしてロジカルにプレーをしながらも、躊躇なく身体を投げ出せる勇敢さを持った李選手のようなFWは、相手の疲労がピークに達し、集中力も落ちる試合終盤には劇的に効くはずだ。

次節に向けた雑感

今節の勝利によって公式戦4連勝を達成し、スコアは全て1−0と手堅くも勝負強い試合が続いている。

吉田監督が植え付けた守備戦術によって、どの相手に対しても0−0以上の内容で試合を作れる手堅さに加えて、90分間強度を保つフィジカル・走力のベースが備わっているからこその強さと言えるだろう。

さらに、交代で入ってくる選手たちも役割を理解しており、試合の強度を保ちながらギアを上げられるため、試合終盤での勝負強さに繋がっている。

一方で、新潟は保持のクオリティは高かったものの、前進にリソースを割きすぎて「最終的に誰が点を取るの?」状態になっていたのが課題かもしれない。

明確な保持の形や安定した守備組織はあるものの、ゴール前での怖さに欠けるため、拮抗した展開では勝ち点を落とす試合が多くなる可能性があるだろう。

広島としてはボール保持でクオリティを持った相手に対して、プレッシングと守備ブロックが機能したのは今季の積み上げの成果を感じる。

今後も戦術的な積み上げをしながら、誰が交代で出てもパフォーマンスを落とさない戦い方ができれば、今節のような勝負強い勝ち方ができるだろう。


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