#14【サンフレッチェ広島レジーナvsジェフユナイテッド市原・千葉レディース|試合レビュー】進歩と停滞のスコアレスドロー|2024-25年WEリーグ第9節
ベレーザ・浦和と続いた2試合で1分1敗と、快調だった開幕後と比較すると、流れが良くない中で迎えるWEリーグ第9節・ジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦。前節の悔しい敗戦を払拭するためにも、是が非でも勝利が欲しい一戦である。
対する千葉はスペイン人指導者のイスマエル監督来日2年目のシーズンでもあり、攻守においてコレクティブをサッカーを志向している難敵だ。
スタメンは前節で怪我をした市瀬選手に代わり呉屋選手が左CBに入り、柳瀬選手がスタメン復帰となった。
中央を封鎖しながら人を捕まえる千葉の守備
千葉の守備の並びは5-2-1-2で、中央を封鎖してサイドに誘導しながらスペースを消す意図を見せた。配置の噛み合わせで広島の中盤を消しつつ、サイドに誘導したら、守備組織全体をスライドさせて広島のスペースを奪っていく。
守備の連動も素晴らしく、守備陣形をキープしながらスペースを消す部分と人を捕まえてタイトに当たる部分の使い分けも整理されていた印象だ。
また、ボール保持では、3CB+2DHでゆっくりと繋ぎながら、「相手が来ないなら運ぶ」「詰まったらやり直しを行う」「適切なポジショニングを取る」など丁寧なプレーを心がけていた。
加えて、FWの城和選手・鴨川選手が積極的にサイドの裏へのランニングを繰り返しており、繋ぎながらゲームをマネジメントしつつも、エリアを奪いながら試合を優位に進める意図が見られた。その結果、前半には7本ものCKを獲得している。
ズレを作って前進を図る広島
広島は前半15分頃から、配置が噛み合った相手に対して「ローテーションでズレを作る」という定番化したやり方で解決を図る。
まずはアンカーの笠原選手の所がマンマークで消されていたため、小川選手が降りて2ボランチ化し、ビルドアップの部分で数的優位を形成する狙いを見せた。
さらに、SHの中嶋選手が中に絞ってプレイする回数を増やし、中嶋/柳瀬/小川/笠原の4選手で千葉中盤に対して数的優位を作りながら、ローテーションによって千葉の中盤を撹乱した。
中嶋/柳瀬/小川/笠原の4選手のローテーションはスムーズで、例えば、中嶋選手が中央寄りに移動してボランチを釣ったら、空いた脇のスペースに小川選手が上がるなど、「誰がどこに動いたら、他の選手がどう動くか」が共有されている印象を受けた。
サイドを替えて広いスペースでローテーション
千葉の5-2-1-2の守備陣系は、中盤から前線にかけて極端に中を閉じた形であるため、”2-1-2”の部分の脇が空きやすい。そのため、サイドを替えながら長い距離のスライドを強いたり、ブロックの中に刺してDFを集めたりすれば、効果的に中盤の脇のスペースを狙える。
前半22分の藤生選手のクロスから上野選手のシュートに繋がったシーンでは、右サイドから左サイドへの展開から、柳瀬・藤生・早間の3選手によるローテーションでズレを作り、DFラインの背後を取ることに成功した。
中央に刺して脇を使う
前半34分には、左山選手の縦パスから千葉の中盤を中央に集めて、脇にできたスペースに小川選手が駆け上がり、ミドルシュートへと繋げた。
これも「ピッチを広く使いながら、ブロックの中と外を使い分けと配置のズレを使って前進する」というコンセプトが活用したシーンと言えるだろう。
前々から指摘していた「吉田監督は相手の守備の形やルールをスカウティングした上で攻撃の形をデザインする」というのが、この試合でも表現できた前半であった。
ちなみに吉田監督になってから相手のスカウティングが細かく行われていることに関しては、選手からの言質も取れているので多分間違っていないと思う。
誰が深さを作るのか?問題による停滞と修正
相手の守備組織をズラしながら効果的な前進を見せた広島だったが、ゴールに迫れたのは上野選手のヘディングシュートぐらいで、印象としては停滞した内容であった。
理由を1つ挙げるとしたら「深さを作る選手が不在」だったことだ。「いつ」「誰が」「どのように」裏を取るのかが不明確だったため、中盤でオープンな選手を作って運んでも攻撃が停滞してしまった。
【小川選手がフリーで運んだ時、誰がどう動き出す?】
髙橋選手や瀧澤選手が前線にいる時は、積極的に裏を狙う動きが繰り返される。裏を狙ってパスを引き出したり、DFラインを押し下げてライン間のスペースを空けたりなど、機能的な動きが見られるのだが、この試合の前半に関しては、そういった意識が希薄であった。
後半からはSHの裏抜けが増える
後半開始早々には、塩田選手のロングパスから右SHの早間選手が裏に抜ける動きを見せた。さらに、左サイドでは内側にポジションを取る左SB藤生選手が相手を困らせながら、左SHの中嶋選手の裏抜けをアシストするなど、ハーフタイムでの修正の跡が見られた。
さらには、小川選手がインナーラップでポケットを取るような動きも見え始め、前線の選手に積極的な動きが増えてきた。
瀧澤選手のWB起用と3バック化
60分には瀧澤選手・渡邊選手を投入して3バックへスイッチし、右WBに瀧澤選手が入った。
瀧澤選手がサイドに入ったことで、「サイドで時間を作れる」「カットインからスルーパスor逆サイドへ展開が可能」「シャドーに入った中嶋選手とのコンビネーションも使える」など、相手を脅かすような攻撃が可能になった。
また、3バックになってからは、SHが裏を取る形からサイドを経由してシャドーが裏を取る形が増えている。シャドーの選手による細かいサポートが可能になり、後半から強調された裏に抜ける意識が加わることで、攻撃の機能性が高まった印象だ。
相手を見てプレーできているか
後半から攻勢を強めた広島だが、ゴールは奪えずスコアレスドローに終わった。ハーフタイムの修正から試合の流れを掴んだ点は評価できるが、試合全体を通じて感じたのが「相手を見てプレーできているのか?」という点だ。
前進の形は作るもののゴール付近でのチャンスメイクでは勢い任せな所も多く、相手の逆を取ったり、ドリブルで相手を動かして出来たスペースを突いたりするような意識は薄かった。
さらに、不用意にプレースピードを上げて正確性に欠けるシーンも目立っていたし、相手を見る余裕がないため、ゴール付近でも「より良い選択肢があるのに見えていない」といった状況も多々あった。(例:押し込んだ状態でバイタルが空いているのにマイナスのクロスが出ないetc…)
テンポ良く繋いで配置のズレで作ったスペースが使えるのは「アタッキングサードまで」だ。ゴール前ではボールを動かすのではなく、相手を動かす意識がなければ、質の高いチャンスを作るのは難しいだろう。
ちなみにチーム内で最も相手を見てプレーできる上野選手の試合後コメントは以下の通りだ。
ピッチ内のより多くの選手が、上野選手のように相手を見ながらプレーできれば、より質の高いチャンスを作れるはずだ。(代表的なのは前節の浦和L戦の得点)
【相手を見てプレーできている上野選手】
【渡邊選手もハマった時には守備組織を動かすプレーが可能】
※ちなみに相手を見てプレーできていない点に関しては、以下の試合レビューも含めて何度も指摘している。
気になった選手をピックアップ
この試合で気になった選手をピックアップしていく。
中嶋選手の裏抜けの方向
前半34分の小川選手がミドルシュートを放った一連のシーンの中で、中嶋選手の動き出しが気になった。中盤で繋いで小川選手がフリーで持ち運ぶのだが、中嶋選手は効果の薄い動きをしており、結果的に小川選手は「しょうがなくシュートを打った」ような印象を受けた。
【中嶋選手のスペースに逃げるような効果の薄い動き出し】
このシーンでは、ドリブルで運ぶ小川選手に対して、「離れながら膨らんでマークの視野外に入る動き出し」を選択するのが望ましい。
中嶋選手をマークするDFにとっても、「運ぶ小川選手」と「背中を走る中嶋選手」の同一視が困難になり、対応にも迷いが出るはずだ。パスを受ける場所もゴールに近い場所で、得点に直結しやすいだろう。
しかし、中嶋選手はサイドの奥のスペースに直線的に抜け出してしまう。たとえパスが出たとしても、DFの視野内かつ身体の向きも外側でパスを受けるため、対応しやすく止められる可能性が高い。
このように中嶋選手はスペースに対して直線的に走り込む傾向が強い。サイドの選手なので仕方ないが、今季はトップ下寄りのプレーも求められているため、ゴールに直結するような動き出しは習得しなければならない。
ちなみにゴール付近での動き出しに関しては、上野選手という最高のお手本がいる。攻撃も守備も大抵の事は上野選手の真似をしておけばOKなのだ。
【上野選手は相手から離れ視野外かつゴール前に動き出せる】
次節に向けた雑感
評価の難しいスコアレスドローとなったが、今シーズンの取り組みを考えれば、「決定的なシーンを作らせず、無失点で試合を終えた」のは評価できる。
終盤に前掛かりになりすぎて、数度ほどカウンターを受けたのは課題だが、守備で隙を見せない安定感のある戦いが続けられているのは、去年にはなかったチームの武器と言えるだろう。
攻撃に関しても、相手の守備陣形を攻略するような前進方法も見せた上に、後半からは裏への意識が高まることで、相手の脅威となるシーンも作れていた。しかし、ゴール前でのクオリティには相変わらず課題があり、勢い任せなプレーでスピードの調整ができず、精度の低いフィニッシュが多い印象だ。
もっと相手を見て余裕を持ったプレーができれば、ラストパスを出す局面でより良い選択肢が見えてきそうなものだが、駆け引きができず相手の逆を取る意識が薄ければ、ゴール前のスペースを消す相手には今後も苦労するだろう。
この部分に関しては、選手ごとのスキルにバラつきがあるため、解決には時間を要する気がするし、もしかしたらシーズン通して付き合っていく課題になるかもしれない(吉田監督のキャリア的にその辺仕込める人でもなさそう)。
そのため、今年に関しては無失点をポジティブに評価する方に感情の置き所を作った方がいいとは思う。(0−0の均衡を保ちながら終了間際の決勝点で勝った試合もあることですし)
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