匠海とじぃちゃん。
【死】について書いてます。
読むことを充分注意して読んで欲しい。
引っ張られる人はすぐ戻って欲しい。
祖父は【お父さん】になろうとしてくれた人。
その気持ちがどれだけ匠海を救ってくれたか。
感謝の気持ちが祖父に伝わっていたら嬉しいと思う。
祖父は持病があり早期退職した人だ。
匠海はその事を知らなかった。
匠海は祖父の事が大好きだ。世界一カッコイイ男だと思っている。
無愛想だけど匠海と一緒にいてくれて、力強く頭を撫でるのが下手くそな祖父。パソコンを教えてくれた祖父。匠海が見たいとワガママを言ったアニメを一生懸命調べて録画してくれた祖父。おやつの時間は、匠海の大好きなお菓子とポンジュースをこっそり用意していた祖父。(祖母が用意したと嘘ついてた)夏休みには必ず花火を用意してくれて一緒に遊んでくれた祖父。(祖父はカメラを持って無言で取り続けてただけだが)
そして、祖母の事を愛していた祖父。
私は、将来祖父と祖母みたいな素敵な関係になれる家族になれたらなと思っていた。
匠海は祖父の事を全然知らなかった。
薬を飲まないと生きていけなかったことも、そして匠海の父親が酷かったから【匠海達の父親の代わり、いや父親になる】と言っていたことも。
だから、持病もある中沢山色んな場所に連れて行ってくれて、写真撮ることの楽しさも教えてくれた。
その事は全て亡くなった後に知った。
なんで教えてくれなかったんだ!!!!!感謝してもしきれないだろう!!!!!
楽しい老後が大変な老後じゃねえか!!!!頑張って戦ってきたんだ、仕事も大変だっただろう!!!!!楽しく過ごしてくれよ!!!!!沢山、沢山思った。色んな感情が込み上げて泣けなかった。
亡くなる時は、匠海達孫が病室から出た時に亡くなったらしい。見せたくなかったのかなと思う。優しい祖父らしい。
病室を出る直前まで匠海は、病室でハイテンションで話していた。祖父が元気になるように。最後まで変な孫でいた。
亡くなった季節は夏だった。夏は苦手だ。
夏のクソ暑い中、祖父の為に沢山の方が葬式に来てくれた方々が「おじい様はとてもいい方だった」と言っていた。来てくれた方が涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
「私の祖父は良い人だろう!!!知ってるぞ!!!」と思いながら……「誠に有難うございます」と言い、孫の匠海は泣けなかった。ひとつも涙が出なかった。
亡くなった人との思い出を生きている人は、嫌な事に記憶が薄れていく。
まず1番最初に記憶から薄れていくのは【声】。
まさにそうだと思う。声の記憶が薄れていっている自分が憎たらしい。あんなに尊敬していたのに、愛していたのに……憧れていたのに。
忘れたくないのに、忘れてしまうのは辛いな。
けど忘れてない事はある。【頭の撫で方】は忘れてない。あの下手くそな髪をボサボサにする撫で方は誰にもできない。だから覚えている。
それ以外も覚えている、遊んでくれたことも、運動会に来てくれたことも!!!沢山写真を撮ってくれた事も!!!撮り方も!!!おやつの時間は皆は珈琲だけど、いつも匠海にはポンジュースを渡してくれてた事も!!!匠海達の事をいつも心配してくれてたことも!!!!
そして、匠海を見て優しく笑ってくれてたことも。
匠海の祖父が亡くなって、まあまあ経つ。
数年前の命日に初めて泣いた。
匠海がカメラに興味をもったと聞いてずっと奥にしまってたカメラ達を祖母に見せてもらった時、データがきちんと残ってた。
数年前、祖父が元気だった頃に撮ったであろう…祖母とオカンと学生服を着た匠海達の写真があった。
その時、初めて【もう居ないのか】と思って泣いた。だってもう匠海は大人だもの。祖父は学生服姿までしか知らないのかと思うと泣いた。
じぃちゃん、やっと泣けるようになったよ。
泣けなくて本当にごめんね。
今まで色んな人に出会ってきたけど、じぃちゃん以上なカッコイイ男はいないと思っているよ。
じぃちゃん、世界一カッコイイよ!よっ!!男前!!!!
でもごめんじぃちゃん。少しワガママ言うね。
匠海、じぃちゃんがいれてくれた珈琲飲んでみたかったな。沢山愛情を込めてくれてるから、きっと世界一美味しい珈琲だったんだろうな。
じぃちゃんが珈琲を入れる後ろ姿を思い出しながら、匠海は自分が入れた珈琲を今日も味わう。