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物語体験

「物語」といえば、語る、記す、読む、みる、きくなどの動詞が続くことが多いだろう。それはつまり、本であり、映画であり、音楽であり、絵画や写真だったりして、読者や観客は舞台の外から、舞台上で語られる物語を受け取るという構図になる。

そのなかで、少々特殊なのが「ゲーム」で語られる物語だ。
ゲームで語られるのは「わたしが主語になる物語」なのである。
その物語に初めから描かれているどの登場人物でもなく、「わたし自身」が物語を体現する存在になれる。
そういう風に語られる物語もあるのだと気づかされたのが、今回のMystery for youの謎解きだった。
わたしはここで初めて物語を体験することができたし、その物語はわたしの経験として思い出になった。


ゲームにはもちろん、小説を読み進めるようなノベルゲームというジャンルもあるし、キャラクターになりきって遊ぶロールプレイングゲームというのもある。
だから、そこに高い没入感があるのも、もちろん承知していた。
(もとより大好物だ)

にもかかわらず、今回の経験が特別印象的だったのは、そもそも物語を楽しもうなどとおもっていなかったからだ。

わたしは、いつも通り謎解きを楽しもうとしていた。
そこにある程度特殊な状況設定が加わることも知っていた。
だがそれらの多くは語られるほどの物語ではなく、あくまでメインの謎解きをよりおもしろく楽しませるための要素(もしくは考え方のヒント)でしかなかった。

だが、今回は、もともと想定していた通り、手順やルールに従ってただ普通に謎解きを進めていくだけで、本編中では殆ど語られていない部分についても順を追って、少しずつ丁寧にしっかり感じ取ることができてしまった。
ある青年のある高校3年間を、まるで知人の話に耳を傾けるように具体的な物語として受け止めることができたのだ。

それはあたかも、自分もその物語の登場人物になったような感覚で、今までのどのゲーム体験とも違っていた。
ゲーム内で語られている架空の物語と、わたしのリアルな経験がほとんどシームレスに繋がった、とても稀有な体験だった。
(クリアしてしばらくぼーっとしてしまった)


こういう「わたしをわたしのまま物語の登場人物にできてしまう」という物語の語られ方、受け取り方があるのだと気づけた発見は大きい。
謎解きは、単なるゲームやイベントの枠を超えて、新しい経験を日常のなかに提供できるのだ。
(それもほとんどの場合、数枚の印刷物だけで用意できてしまうのだ)

パズルとか得意じゃないし…という方も、大抵ヒントは得られるし、何人かで助け合ってやるのもアリだとおもう。
これは、物語を好きだという方にはぜひ経験してもらいたい。
来月もどんな物語を経験できるのか、今から楽しみだ。

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