理不尽と僕の出会い
理不尽という言葉を心底理解した時のことをハッキリと覚えている。
中2の時だ。
言葉としてはもっと早くから知っていたんだと思う、でもそれが鮮烈な記憶として心に刻まれた瞬間があった。
岡本君と言う同級生がいた。所謂派手なグループには属していないものの、そのグループの人ともよく喋るし僕のような地味な子ともからむ。そんな子だった。
と言うか極端ないじられキャラだった。
両方のグループからいじられると言う前人未到の両刀使い。
何故かお兄ちゃんの名前でいじられていた。
お兄ちゃんの名前はまさしだ。
凄くありふれた名前なのに「お前のにいちゃんまさしー」とか言われてた。
当時流行ってた彷徨える青い弾丸になぞられて彷徨える青いまさしとか言われてた。
なんだそれ?でも当時の僕らは爆笑してた。
岡本くんも「うるせー!!」とか言いながら嬉しそうだった。
今思い返せば凄くカオスな空間になんだけども、当時はまさしと言えば鉄板みたいな空気すらあったから若さとは恐ろしい。
そんな岡本くんがある日ちょっと派手な女子グループに囲まれてた。
「岡本、てめー何読んでんだよ」
詰め寄られる岡本くんの手には金田一少年の事件簿の単行本がある。
岡本くんは金田一が大好きだった。
本来は学校に持ってきては勿論ダメなんだけど、そのルールを破るほど好きだった。
遠目に見ながら「彼女たちだって校則違反のもの一杯持ってるのに」なぜそんなに正義を振りかざし怒るのかと疑問に思っていた。
が、どうやら様子が違う。
「てめーが金田一読むんじゃねーよ!!」と怒号が飛ぶ。
話を盗み聞いているとどうやら岡本くんが校則違反を犯している事では無く、岡本くんが金田一を読んでいる事が彼女の逆鱗に触れたらしい。
彼女は当時大人気の金田一がドラマ化するにあたって主役の金田一一役を演じた堂本剛のファンらしい、それ故に自分の大ファンの剛くん演じる金田一少年も彼女の好意の対象らしく、その自分の好意の対象の原作を読む人間は彼女が認めた人以外あり得ないという事らしい。
彼女の怒りは収まらず岡本くんには金田一禁止令が発令され、それから毎日彼女によって「岡本、金田一読んでないよな?」と確認が入るのが日課となった。
他人事ながらなんと理不尽なんだと憤るも、だからと言って何か出来るわけでもするわけでもなく、傍観するしかなかった僕の心に燦然と輝く理不尽の用例として20年近く色褪せる事はない。
因みにお兄ちゃんのまさしはゴリゴリのヤンキーだ。
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