『地面師たち』雑感。※ネタバレあり
※フルスロットルでネタバレしてます。
未見の方はすぐに立ち去ってください!!
Netflixで全7話のドラマ『地面師たち』。
一言でいうとめちゃくちゃ面白い。
劇伴を今回初めて手掛けたという
電気グルーヴの石野卓球さんの
ミニマルテクノがこの作品に
めちゃくちゃハマってる。
いきなり内容じゃなくてBGMかよって言われるかもしれないが
この作品を撮った監督である大根仁さんが
直接石野卓球さんに頼んだので
そりゃシンクロ率がめちゃくちゃ高い。
スミマセン、若い頃から電気グルーヴのファンであり、
先ずピエール瀧さんが出る事でテーブルをガタッ!とさせ、
BGMが石野卓球さんでしかもサントラ盤のマスタリングが
まりん(砂原良徳)さんでマジで電気メンバーすぎるぅ!
と小躍りする始末! そして予告編でこれは絶対に面白い!
って思って本編見たら年甲斐もなく一気見しました。
そりゃもうむちゃくちゃ面白いわけです。(2回目)
と、言うわけで今からダラダラと雑な感想、
いわゆる雑感を書いて行きます。
※ネタバレが嫌な方はお逃げくだされ。
ちなみに小説版も読みましたのでその比較なども含まれています。
先ず、ストーリーの大筋は一緒ですが
原作とドラマの細部はかなり違います。
原作者は新庄耕さん。
ただドラマを先に見ていたために色々と差異を感じました。
ただ、それが決して悪い改変ではありません。
どうして改変したのか? という気持ちが凄くわかるからです。
ハッキリ言うと
原作の弱い部分を思いっきり補強した結果、
豊川悦司が演じるハリソン山中が
めちゃくちゃバッキバキに
キャラが仕上がったのです。
それは新庄耕さんも認めていて「佇まいが完全にハリソン山中」と
言わしめるぐらい。
原作者が認めるぐらいなので、
この配役は相当ハマったんだなというのもわかりますし
実際にドラマの後の原作のハリソン山中を見ると
原作のセリフも確かに言ってるんですが、狂気というか重さというか
格がめちゃくちゃ上がってるんですね。
原作でもここで拓海とハリソン山中が初めて出会うシーンなのですが、
原作では高級デリヘル嬢のサキに合意の上で異常な本番行為をしたあと、
サキが嘘をついて拓海に強引に迫られたと泣きつき、
トラブル化しようとしたけど拓海は
原作ドラマ両方とも家族を失っていて心が死んでいるため無関心。
ハリソン山中(原作でのこのシーンではウチダと偽名を使ってる)は
行為を音声録音していて実際はハリソン山中の言う通り合意の上であった。
そして迷惑料として長財布から3万を拓海に渡そうとするものの
興味がないと揉めている二人を切り捨てた結果デリヘルドライバーを
クビになるというのが原作内容。
拓海に興味を持ったハリソン山中が電話番号を書いた紙を渡すシーンは
共通内容としてあったりします。
ドラマでは異常行為の結果サキは心肺停止。
ハリソン山中も「死んでると思いますよ」
平然に拓海を呼びつけ、淡々と事情を説明。
この手のトラブルに慣れてるかのように
プレイ料は100万、行為後の結果を動じることなく拓海に説明し、
処理業者も既に手配済み。迷惑料も3万からウン百万という札束となって
狂気性が強く打ち出されています。
原作にないシーンなのでここで違和感が出ました。
やけに拓海が心肺蘇生法上手い!
なんというか素人感がないというか。
後、原作の拓海だったら多分蘇生処置すらしそうにないかなとも
一瞬思いましたが、家族を失ってまだ日も浅く、
完全に心が死にきれていない感じを出したいのかなと考えると
そこまで変でもないかなという感じでもあった。
あと、原作だと拓海親子は不動産ではなく医療関係の専門商社だったので
その名残が残っちゃった可能性もありそう。
次の大きな変更点として
この倉持が原作には一切登場しません!
超ネタバレですが、辰さん原作は死にません!
オリキャラなんです、倉持さん。
ここまで書くと辰さんは完全にハリソン山中の狂気性を
ブーストさせる役割になってしまってます。
定年前に冴えてない勘とかで文句程度は言われてますけど
辰さんの夫婦仲も原作ではそこまで冷え切っていませんし。
なんなら拓海の失った家族の墓前のやり取りやラストでの
拓海と倉持のやり取りは原作だと拓海と辰さんなんです。
おそらく刑事サイドにバディ要素を足したかったのもあるし、
『ダイ・ハード』の撮影秘話を絡めたやり取りも
全部監督大根仁さんの脚本によるものであり、
そして辰さんの意思を引き継ぐ倉持という最大の流れが
非常に綺麗に収まってるのは本当にすごいと思いました。
でも、ツッコミどころもあります。
墓前で倉持が拓海にあった後ジムニーに仕掛けた追跡装置で
あっさりとアジトの位置がバレてるのがものすごく違和感があり、
所々カメラの映像からあれこれ指示しているハリソン山中の
警戒度がここだけガバガバになってるのは流石に変かなと。
何度か拓海のジムニーに追跡装置のバッテリーを
入れ替えに来ているのにどうして…。
光庵寺の住職、川井菜摘のお相手である
ホスト関連は全てドラマオリジナル。
原作では57歳で妻とは別居中の金のない劇団主催者兼演出家の
久保山という男と浮気してました。そして原作でかなり弱い所ですが
沖縄に二人でいったはずが
何故か川井菜摘だけ東京に
戻ってくる理由がないんです!
”沖縄で愛人の久保山となにかあったのかもしれない”
原作引用しましたがこんな感じ。
これをあそこまでドラマで盛り上げたのはすげーって思いましたわ。
竹下のやられ方が肉付けされまくり。
原作は竹下をこのやり方で処理してるんですよ。
脚本が原作に牙を向いててかなりビビりました。
が、それを上回るハリソン山中の狂気。
でも仕方がないですね。どの様にに裏切ったとかの描写も乏しい。
そこに上手く付け込んで肉付けした結果が
ハリソン山中の履いているウェスタンブーツで
顔面へのストンピング。エグいて!!
竹下の部下であるオロチの大活躍。
オロチ役のアントニーがとにかく出番が多くてびっくりした。
原作でも竹下の部下でしたが、
竹下が死んだ後の内輪グループ同士が揉めだしたので
鮨職人になろうかなみたいな
呑気なことを言ってフェードアウトしますが
ドラマでは…
まぁ、この後は当然…。
麗子の手配師な部分も大量に肉付け。
原作では普通にキャスティング候補者が見つかるも、
直前でなりすまし自身の借金がバレて親が肩代わりするという
解決方向に向かってしまって
ドタキャンされた結果、麗子自身が丸坊主になるという方向は一緒ですが
ドラマでは大幅に盛られています。
先ず坊主になるというハードルの高さからなりすまし候補が難航します。
そして麗子は熱海まで行って手こずりはしたが、
病気で苦しむ息子の治療費などで苦しんでいる候補を見つけ、
そこからは順調に仕込んでいくのですが、
なんと当日になってその息子が亡くなって
なりすましどころじゃなくなったという
すげーエグい展開になってます。
何故か肉付けどころか
大幅ナーフを喰らった長井。
ここまでまとめていて一番謎なのが長井。
原作ではハリソン山中と絡みだしてから
偽造免許のICチップの依頼を長井に頼みに行くも
バイクでの交通事故で火傷をしていて顔の左半分は
ケロイド状となっていた。
家族を父親による放火で失った拓海だからこそ
長井の心の内を理解でき、次第に二人共心を開くようになっていった。
が、ドラマでその要素は一切なし。
ひょうひょうとゲームやハッキングを楽しみ、川井が密会を楽しむホテルのセキュリティーを突破するところは足されたものの
ケロイド状の顔という設定は、
川井が入れ込んでいるホストに潜入すべく
拓海が特殊メイクでケロイド状の
火傷顔になるという形に転換された。
その結果その特殊メイクを鏡で見た時にフラッシュバックして
嘔吐してしまうシーンがあるため、
言わば拓海に対してのブーストなんだなとは理解できる。
でも、そのシーンを入れたいがために無理に入れた感もちょっとある。
火事で家族を失った人が火傷メイクをわざわざするかなぁ?
って気持ちもちょっと浮かんだ。
ドラマでは拓海がハリソン山中を仕留めるため
銃の手配を最後にフェードアウトするが、
原作ではオンラインゲームを通じて恋人ができ
火傷でも全然OKと言われてたが今一歩自信が持てず
踏み出せないでいた。が、
拓海の後押しもあってかリアルで出会ってからは
順調に付き合いが上手くいき、そのまま結婚まで行くことに。
しかし拓海はかつて自分や父を嵌めた相手と
ハリソン山中がグルだった事を知ってから
結婚式には行くよと言って、
その連絡が付けれるスマフォを海に投げ捨てた。
捜査の手が長井まで届かぬように…。
後藤は基本的には原作とあまり変わらず
要所要所に軽く肉付けされた程度。
法律屋という交渉役とセットでターゲットと直接会うため出番も多く
大きな改変もない感じ。法律面でのバックアップはもちろん、
なりすまし役がうろたえた時も上手く大阪弁を使って逸らしたりもする。
ただ自分がちょっとピエール瀧さんが役者としてもいい味出しすぎて
少し客観的に見れてない部分もあるので軽くこれぐらいで。
青柳もあまり変わらないが、
社長と会長の派閥関連はドラマオリジナル。
松尾諭さんがすげーいい感じで嫌な役をしてていい。
これは青柳も反発していきたくなるのもわかる。
そして結局須永が正しかったというのも本当に心が締め付けられる。
ドラマ見てて本当にきゅーってなった。
最後は辻本拓海。
一部キャラの設定変更に伴って原作と設定が違っているため、
あえて最後に持っていきました。
原作では不動産ではなく医療機器や医療消耗品を扱う専門商社であり
騙されたのも地面師ではなく、医師資格のない闇ブローカーだった。
そして若い頃の竹下とブローカーとハリソン山中の
スリーショット写真を見て
ようやくハリソン山中に反旗を翻す。
騙されて父親が放火して家族ともども無理心中するも
父親だけが生き残ってしまったという設定は
ドラマは医療商社から不動産業に職業を変えて
地面師に騙されたからこそ、
同じ地面師になって騙した相手を追うという風に
わかりやすくした感じでも。
と、同時に同じ地面師になった上で予告で
「俺は地面師じゃない」というセリフで、
ラストの想像はかなり容易いかと。
ラストもだいたい同じですが
ドラマではオープニングのようにハリソン山中は
異国でハンティングしています。
原作ではハリソン山中がシンガポールで
デリヘル嬢を呼ぶ時に使っていたウチダと名乗り
別の詐欺を働こうとしているところで終わります。
正直ここは構造的な役割としてはあまり変わらないと思います。
まだまだ書ききれないところもありますが余談程度で。
原作ではマキタスポーツが演じた林は死にません。
ドラマで林が言ってたセリフは本来松平という
林の後に青柳が出会った別のブローカーのセリフですが
ガチャンコして林のセリフになりました。
※松平も亡くなっていません。
プロゲーマーのウメハラさんが最近パスポートの不備で
0回戦突破出来なかったという話の中で、
最近のパスポートは簡素化され住所欄も無くなり
身分証明としてのランクがかなり下がってるという話を
ちょっと前に偶然知りました。
あくまでもドラマでの時系列、2017年頃はパスポートは
身分証明として有能だったと思っておくと良いと思われます。
ちなみに原作での拓海の父、辻本正海に関する情報を
最後の最後で精神攻撃のようにハリソン山中が拓海に伝えますが
その内容が超ド級なクソ伏せ情報でした。
個人的に辻本正海の印象が胸糞悪くなったので
そこは原作をぜひ御覧ください。
本当に最後にこのシーンを。
だいたいリリー・フランキーさんってひょうひょうとしていたり、
凄まじい悪役だったりすることが多いのですが、
『地面師たち』の辰さんはまた新たな一面が見れたような気がします。
自分は『誰も知らない名言集』『美女と野球』辺りから割と読んでいて
ココリコミラクルタイプもよく見ていました。
そして『東京タワー』を読んだ時は本気で泣いてしまいました。
今でも好きな作家であり、俳優さんでもあります。
それだけにこのシーンは本当に印象に残りました。
ここだけでも見る価値があると思います。