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AIのない世界

この救えない世界にAIを。
※AIをえーあいと読んでもあいと読んでも構いません。
利用規約をお読みになった上での上演をお願いします。
推定 30分~40分程度

A アリス 不問(堅物)
B テレス 兼役 博士 ♂(おちゃらけてる)

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θ(とあるカフェにて)

A: テレス、あなたほんとに救えない人ですね。

B: え?

A: そのコーヒーに一体なんの恨みがあるんですか。

B: いやだから何、どういうことよ

A : どんだけ砂糖入れれば気が済むんですか…!
それはもうコーヒーなんかじゃないです

B: 何を言ってるんだ、これは列記としたコーヒーだよ!

A: コーヒーの砂糖漬けか、コーヒー入りの砂糖と呼ぶ方が正しいと思いますよ。近いうちに糖尿病か何かで死ぬんじゃないですか?

B: そういえばこの間の健康診断引っかかったよ!要精密検査だってさ。

A: ほら、言わんこっちゃない。

B: だって、だってしょうがないじゃん
ここ最近は特に忙しくて寝る時間もなかったしストレスなんて数えてたらキリがないし健康に気を使ってる余裕ないよ

A: 朝起きてコーヒー飲んで、時間ギリギリに出るくせに忘れ物に気がついて仕事して帰ってきて寝る。全く同じ生活送ってる弟の私が健康そのものなんですから生活習慣の差じゃないですか?

B: 正論を言うのは心の健康に悪いから優しく相手に伝えようねって心のノートに書いてあるよね!?

A: あぁ、道徳は暗記科目だと思ってるので気に入られたい相手にしか適応してないんです。すみません。

B: しれっと俺の事好きじゃないって言わなかった?

A: そんなことは言ってませんよ、「兄さん」

B: 直接は言ってなくてもそういう意味だよね

A: 受け取り方次第じゃないですかね。

B: 相手がいじめって思ったらそれはいじめなんだからねっ!

A: でしたら私は日々のパワハラで出るとこ出ます

B: パワハラって!そんなこと一度もしたことないだろ

A: ハラスメントって言えばなんだってハラスメントになるんですよ。

B: それはずるじゃなぁい?

A: で、何処が悪いんです?頭ですか?

B: すごい、大正解

A: え、そんなまさか…

B: 頭のネジが足りないんだって!どうしよう、どこに落としちゃったんだろう

A: 豆腐の角に頭ぶつけて死なないかな

B: 大問題だよ!部品が1個足りないってことは俺はもう俺じゃないってことなんだよ、不良品なんだよ

A: そんなの最初からでしょう。そのうち世界征服するとかほざき始めてもおかしくないと思ってますよ

B: この命が朽ち果てる前にやっとこうかな世界征服…やらない後悔よりやって後悔した方がいいもんね。

A: 国の犬の前でそんなことよく言えますね。
TPOのひとつでも間違えたら取っ捕まりますよ。

B: あ、自分で国の犬って言っちゃうんだ。
犬の自覚あるんだね、わぉーん。

A: そりゃロボットですから。下手に自由を与えすぎてテロや犯罪に使われては国だって困ってしまいますよ

B: 特殊公務員なんて名前付けて人権もなし、給料も低いなんて…。あぁ、なんて嘆かわしいんでしょう!!!

A: あなたはさながらパブロフの犬ですね。

B: どういう意味だよ

A; 最大何%オフとか格安なんて言葉に飛びついてヨダレを垂らしたり楽しいからといって快楽のためにほかの何もかもを犠牲にしてあらゆることに手をつけてる。その知的探究心や体力は尊敬しますけど、そのままじゃホントに體(からだ)毀(こわ)れますよ

B: 別に今更長生きしようだなんて思ってないよ
俺たちは消費されていくだけなんだから楽しまないと損でしょ

A: 私は別に損得勘定で生きてません。人に尽くすことが使命ですから。
とにかく、早めにネジ締め直して貰った方がいいですよ。

B:   人生一度きりって言葉もあるくらいだし、夢だの革命だのってみんな命かけてやるもんなんでしょ?

A: …だから僕は言ったんですよ。

B: おい、何するんだ、触るな、やめろ

A: 私はマニュアルに従っているだけです。

B:   ロボット工学三原則、第一条第二条第三条に基づき強制シャットダウンします。

A: 本当に救いようがないですね。

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(θ 約30分後 場転・ラボ)

A: ありえない話だとは思いますが規則ですので。

博士: 確かにネジは1本足りなかった。が、ほかの部品やデータに異常は見受けられないし大した問題は無いはずだ。それに加えて、テレスは人間の心に寄り添うメカニズム学習をした構成的アプローチ個体だ。そのくらいの発言は十二分にあり得る。

A: 私に対して冗談を言ったということですか

博士: 一種のコミュニケーションツールとして言ったのかも、知れないな。

A: 「感情とは、他者と意思疎通をはかる上で最も単純で重要なコミュニケーションの道具」であり、表情による感情表現を言葉と組み合わせることでロボットのコミュニケーション能力はより高まる、ですよね。

博士: その通り、人間の感情を認識するのではなく主観的に理解するというのはつまり、共感だ。長い時間を共に過ごしデータを収集し誰よりも理解してくれる。そんなパートナーロボットとして活躍しているのがAI(アイ)ロボット、お前たちだ。戦争用に作られたようなああいうロボットとはハナから違う。

A: それには人間の事を幸せにすることが大前提にあります。あれはロボット工学三原則の第一条ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。に反する発言です。

博士: 元は災害時や戦争時に瓦礫撤去、人命救助用として作られた事がそのロボット工学三原則の元だ。それに何を今更、お前たちは昔から人の為と言いながらイタズラばかりしていたというのに。

A: 人格的プログラムとしての記憶は設定されていますがあくまでそれは人工的なもので、私は人間ではありません。

博士: あいつがそんな風に言ったのはロボット同士のブラックジョーク。きっとじゃれ合いみたいなもんだよ。それとも世界征服と口にしたあいつは怒りや憎しみに満ちた顔をしてたとでも?

A: いえ、笑ってました。

博士: いいか、アリス。人が誰かに笑いかけるという行為には色んな意味がある。コミュニケーションがスムーズになるだけではなく、大抵はポジティブでなにより笑顔というのは人に伝染るものだ。

A: 私を笑わせようとした、つまりそういうことですか

博士: つまり、そういうことだ。最近忙しくしていたお前に対するやつなりの気遣いなのだろう。

A: …。理解には及びません。

博士: 外へ用事を済ませに出かけてくる。無くなっていたネジは直しておいたから私が帰ってくるまでに電源入れて自分の口でちゃんと話をしなさい。テレスにもどうやら何か事情があるみたいだが、お前たちは兄弟なんだから話し合えば誤解も解けるさ。いつまでも狸のように逃げ隠れてばかりじゃ変えられるものも変わらない

A: 分かりました。

A: ……博士

博士: なんだ

A: 私にも心はあると思いますか

博士: そうだな、もしかするとあるのかもしれないな。誰かに対してお前が愛してると言える時があれば、その掌の中に芽生える可能性はゼロではない…と言って置こう。

A: それはどのくらいの可能性ですか

博士: 心というのは愛してやまない何かを誰かと語るとき、頭を通り、心臓を突き刺し、掌に籠る熱のことを指すものだ。さ、そろそろお墓へ行かないと母さんが化けて出てくるかもしれん。

A: 非科学的ですね

博士: 科学者だろうとお化けは怖いもんさ。それじゃあ私が帰るまでに仲直りしておくように。

θ(博士退場・アリスはテレスの方まで寄って独り言を語りかけるように話し始める)

A: はぁ…。こんなくだらない考えもこんな事態になったのもテレス、全部あなたのせいですからね。

B: マスタープログラム、起動。データ異常なし。

A: なぜ、普通に電源が入るんだ…?まさか、私が強制シャットダウンさせる前に自らスリープモードに切り替えたっていうのか…?

A:   一体、どうやって…?ひょっとして…

B 酷いじゃないか突然強制シャットダウンするなんて。別に、何も本気で戦争起こそうなんて思ってるわけないでしょ

A …ネジが足りないっていうのも自分でやった事だったんですね。

B: その通り。

A:  でも、ロボット工学の三原則には逆らえないはずです。人間への安全性、命令への服従、「自己防衛」。それがプログラムというものです。

B ロボット工学の三原則ねぇ。

A 私は確かに強制シャットダウンのボタンを押しました。それなのに、、、

B シャットダウンされるのは困るけどみんながいる中で大騒ぎ起こすわけに行かないじゃん?

A 理由になってません、

B それに強制シャットダウンされちゃったらデータが破損する可能性も高いし、記録にないデータを引き出されちゃうからね。

A:  記録にないデータ?

B:   いい男ってのは隠し事の一つや二つくらいあるものだろ?

A:   そんなに後ろめたいことって一体なんですか

B:   おねしょした時の記録とか、誰だって恥ずかしくて見られたくないでしょ

A:  あなたも私も所詮はロボットです。なのになぜ、周りの目を気にして嘘をついて自分の意思のような行動をして、まるで…

B まるで?

A 人間みたいに、

B はは、そりゃ人型ロボットだからね。

A はぐらかすのも大概にしてください!ロボットは人間の命令には逆らえません、これは定められた事実です。

B 僕は特別だから。

A 特別?

B あぁ、特別なネジで出来てるのさ。

A どこまで私をバカにする気ですか!

θ(空襲警報、空襲警報。)

B …!?この音は!

A: なぜ空襲警報が…この地域での戦争は何年も前に終わったはずなのに…!

B: 爆撃音……マズイ、博士が外に出かけたままだ

θ(   2人は廊下へ飛び出し地上へ向かって走り出す)

A: っ!今度の点検ではその體ごと青狸にしてもらうといいですよ

B: そうだな、転職サイトの特技の欄にたぬき寝入りって書いておこうかな。高機能ロボットとして再就職も夢じゃないかもね。ドラえもんみたいにさ

A:四次元ポケット持ってないドラえもんなんてポンコツそのものですからね、そこまでそっくり似てるならモノマネ大会とかでたらどうです!

B: そんなこと言ってる場合か!

A: あなたがタヌキ寝入りしてたのがわるいんです!

B: うるせぇバカ!墓地向かうぞ!

A: あなたにだけは言われる筋合いありません

B: 後ろ向いて走るな、コケるぞ!そこの突き当たり左に曲がったらすぐそこが墓地だ。

A: ここが、墓地…?文字通りの花畑ですが…

B: 博士が奥さんの為だけに作った場所だ。生前に奥さんが育てていた花、博士が送った花束に入っていた花、誕生花、そういう思い出に残ってる花を片っ端から埋めてあるんだ。

A: こんな場所があったなんて…

B: とにかく、この近くにはいるはずだ。探そう。

A: そうですね、

B: 博士ー!

A: …博士!どこですか。返事をして下さい、博士!

B: 目視じゃ埒が明かないな…赤外線サーモグラフィカメラを起動する、お前はマイクロ…

A: 周辺に博士のマイクロドッグタグを検索にかけます、20031スキャン。…向こうです!あの大きな瓦礫の下に…。

B: …博士!マズイな。体温がどんどん下がってる、退いてろ。俺が瓦礫を持ち上げる。

A: 博士…!もう少しだけ頑張って持ち上げてください、足が挟まって…

B: これ以上は俺の鉄が溶ける…!あぁ…クソっ!

A: あぁ、博士!トリアージタッグ赤だ、早くラボに連れて帰らないと…右足が潰れてるし、肺も片方はもうダメかもしれない。肋骨も何本か、救急救命キットは!

B: ストックは一昨日の被災地に全部渡しちまった、ラボの医療施設まで戻らないと無理だ。

A: なら、急いで博士を連れて戻りましょう

B: 施設まで博士の身体じゃ持たない

A: じゃあどうすれば…!

B: …輸血する。

A: 輸血…?何を言ってるんですか。まさか血が、通ってるんですか…

B: そんな大層なもんじゃない、災害時用のパックが體に入ってるだけだ。

A: いつからそんなものを…

B: 血も涙もないロボットだなんて被災地で言われたらたまったもんじゃないからな。

A: とにかく早くラボに戻りましょう!急げばまだ間に合うかもしれないじゃないですか!

B: 俺が博士をラボに運ぶ、お前は近くにいる他の人間たちを助けにいけ…。

A: 嫌です

B 博士はもう助かるかどうか分からない。救える可能性がある人達を1人でも多く助けるんだ。

A: …!でも、博士は

B: 今なら助かる命もあるんだ、早く、助けろ!

A: でも、でも!!

B: クソ、ダメだ。傷が深すぎてこんな輸血パック1つじゃ血液が到底足りない…

A: 博士!死んじゃダメだ!博士…!目を覚ましてください!

B: …。

A: 止血してもしても血が止まらない…。

B: 辞めろ、もう心肺が完全に停止してる

A: テレス、手伝って下さい。血が止まらないんです。

B: …………。

A: いつもいつも私は、約立たずで大切な人達を誰一人守ってもやれない。大事な時にそばにいてやることすら出来ないなんて、また…

B: 落ち着け、お前もオイルが漏れ出てる。ここも危険だ。一度博士を連れてラボへ戻ろう

A: 私なんてもう存在する価値も無くなってしまったのに、なんで博士なんだ。なんで私じゃないんだ!!!

B: アリス!柱が崩れかかってる。これ以上ここにいても危険なだけだ!逃げよう、早く、お前まで毀(こわ)れてしまう!

A: ………父さん、、、また…救えなかった、

B: ………今なんて?

A: そうだ、あの子を、あの子を助けてくれ。俺はいい、俺じゃない……!

B: しっかりしろアリス!

A: …

B: お前「覚えてる」のか

A: 救えない……


θ(3年前)

A: またブラックコーヒーですか?大人の人みたいなことしたがりますよね、そういうところが子供っぽいって言われるんじゃないですか?確かこの間も飴玉貰ってましたよね?

B: うるさいなぁ、朝のルーティンなんだよ!

A: そんなこと言って、味なんか分からないくせに

B: 香ばしく、すっきりとした苦みと、透き通ったキレのある味わいのあるコーヒーだ…

A: CMの丸パクリ。

B: バレたか

A: そろそろ出ますよ、昨日終わらなかった分の瓦礫の撤去に被災者の方々に持っていく物資の積み込み、今日も仕事は山ほどあるんですから

B: 全く人遣いが荒いよなぁ。

A: 今は猫すら被災しているんですから私たちが助けに行かないと

B: しまった、ドライバーを忘れるところだった。

A: いっそチェックリストでも作りますか?小学生がランドセルに貼ってるような

B: チェックリストごと無くしておしまいだよ

A: …早く行きましょう、私たちを待ってる人が大勢いるんですから

B: スルーしやがったなこいつ。じゃあ父さん、行ってきます!

A: おはようございますおばさん、あれから屋根の調子はどうですか?また何か困ったことがあったらいつでも私たちの事呼んで下さいね

A: あぁ、君はこの間の。傷の様子はどうです?困ったことがあったらいつでも私たちのラボにいらして下さいね。え、飴玉?ありがとうございます。そうだ、これから私たち被災地に行くんです。もし、泣いてる子供がいたら君に貰ったこの飴玉あげてもいいですか?ありがとう!じゃあまたね、お母さんの言うことをよく聞いていい子にするんだよ。

B: 相変わらずお前は大人気だな

A: ありがとうって言われるのはやっぱり嬉しいですからね。私たちが助けた人が最終的に笑顔になってくれることが何よりのお返しですから。

A: それに助けた人の事はもちろんですが、助けられなかった人のことはみんな鮮明に覚えてるんです。助けられなかった後悔がいつまでもここに残ってる…。だから、1人でも多くの人を助けに行きましょう

B: そうだな、…ふあぁ、さすが朝5時。ほとんど人もいねぇし。あ、そういえばこの建物って…

θ(空襲警報)

A: …はっ!?空襲警報!?何処だ!

B: ちょっと待て、今探知してる!………真上だ。

A: なっ、到着まで後どのくらい

θ(崩れる)

B: アリス大丈夫か…!

A: 私は、大丈夫です!それより近くに2人いたはずです!

B: クソ、こんな一瞬で大型施設が瓦礫の山になっちまうなんて…。

A …こっちには見当たりません!

B …!こっちで1人見つけた、無事だ!この人を一旦瓦礫の外まで連れ出す、お前はもう1人を探せ!

A: わかりました、では外に出たら一度外の状況を…

B: ちょっと待て、予定変更だ

A: え?

B: 出口が塞がれてる、上から出よう。天井の窓を割るしかない。

A: そんな、他の道を探した方が…!

B: そんな悠長なことは言ってられそうにない。
…っよし。急いで外に出よう、ここはもういつ崩れてもおかしくない。

A: でも、もう1人近くにいるはずなんですよ!

B: まずは避難経路を確保しないと俺たちまで死ぬ訳にはいかないだろ!

A: その人を連れて先に行ってください

B: おい!そっちは危ない

B: クソッ、どこにいるんだ

A: …いた!下です!

B: 待て、下はもう崩れるぞ

A: 女の子だ…。大丈夫ですか?ダメだ、意識がない!ロープ投げますから引き上げて下さい!

B: 分かった、上は崩れる。俺を狙え!絶対に掴むから

A: さすがは猿の末裔ですね

B: 言っとくけど全部聞こえてっからな。ロープ離してお前だけ瓦礫の山にもどしてやろうか!?

A: 冗談ですよ、売りにしてるユーモアはどっかに落としてきたんですかっ!

B: お前のせいってわかってんのか?ったく。よし、そこを右に曲がれば大きな広場に出れる。走れるか?

A: えぇ、誘導お願います…

θ(またも大きく揺れ、先程まで天井であった瓦礫にテレスは自由を奪われる)

B: うわっ…!アリス!!!!

A: テレス!こっちです!瓦礫に足を取られてしまって…この奥にさっきの女の子もいます、私が支えるのでこの子を出してあげてください!

B: …ダメだ。お前が先に出ろ、もう建物そのものが崩れてきてる。

A: 何言ってるんですか…この子です。この子を助けてください、私より先に…!

B: お前、、血だらけじゃないか、腹に瓦礫が…助かるかどうか。

A: 私じゃない、私はいいんだ!命以上の人生を貰った、2人で人のために生きるって母さんが死んだ時そう誓ったでしょう、兄さん!

B: 早くしろ!クソがっ…!

A: 私じゃない、この子だ!この子を助けて下さい

B: ダメだ、もう崩れる!

A: あぁ……!そんな、ダメだ……

B: おい、アリス!アリス!


θ(場転・ラボ)

博士: パワー出力、オートモード起動。どうだテレス、私の声が聞こえるか

B: ここは…?確か、空襲が…。

博士: あの空襲の後、お前が被災者2人とほとんど形も保ってないそいつを引きずってラボへ帰って来たんだ。

B: あぁ…そうか。結局救えなかったのか

博士: 残念ながら少女はラボに着いた時点で息を引き取っていた。お前の両腕と左脚、それと顔も形すら保てちゃいなかったんだぞ。その代わり、お前が引きずってきたもう1人の少年は命に別状もなく昨日元気に戦場へ発っていったよ。

B: それじゃ腹に穴が空いた人間なんか到底生きてりゃしないな。俺に血が通っていれば…ホントに救えないやつだな、俺は…。

博士: 話を最後まで聞け、認証コード。プログラム2003、座標ラボi (あい)

B: …!「これ」は?

博士: ロボットと呼んだ方が正しいだろうな。臓器のほとんどが機能していなかった。脳だけは損傷が少なかったから、なんとか器を作り脳に人格というデータを貰って新しく「これ」にプログラムした。だが、なんとか記憶を抜き出したところで脳はもうこの體には作用してない。

B: 植物状態ですか

博士: 近しいが違うな。體に命令を送っているのは記憶のデータから算出された行動パターン、残ったのは魂と言ったところか。

B: 俺たちキョウダイは喧嘩しないよにって何だってお揃いにしてきたけど、こんなことまで一緒にならなくたって…。

博士: まだ生きているのか、どう捉えるかは人それぞれだ。もう時期調節も終わるだろう、詳しい説明はその時にする。足りない部品を取りに行ってくるからここで待っていなさい

θ(テレスはロボットになったアリスの體にそっと触れると核データを弄り始めた)

A: マスタープログラム発…動、き、強制シャットダウンを遂行します。

B: マスタープログラム、メモリーコード開示、データ修正…。救えなくてごめん。


θ(現在・アリスは落ち着きを取り戻し天を仰いでいた視線をテレスへと向ける)

A: 私の記憶(記録データ)を弄っていたんですね

B: なんで、覚えてるんだ…。あの日の記憶(記録データ)は全て壊した、思い出すなんて、そんなのありえない…

A: 何故かは分かりません。体の中心から訳の分からない熱が湧き出てくるんです、私は人間じゃない。でも、最初から創られた様な他のただのロボットとも違う。私はあの日確かに人として死んだんです。もうこの軆(からだ)に入ってる人間としての臓器はなにもない、記憶を元に作られたAI(あい)ロボット。

A: …兄さん。私の心はまだ残ってるんでしょうか

B: お前、泣いてるのか

A: いえ、ただのオイル漏れですよ。私はロボットですから。この鼓動はエンジンのオーバーヒート、手のひらに籠る熱も頭を駆け巡る何かも誤作動のうちの何か。この記憶は私のモノでも私は、私のこの思考はもう私のものじゃない。そうなんでしょ!?

B: 心というのは愛してやまない何かを誰かと語るとき、頭を通り、心臓を突き刺し、掌に籠る熱のことを指す。……きっとお前を動かしてるそれは心だよ。

A: 一体どうやって記憶を書き換えたんですか

B: ネジを1本抜いただけだよ

A: 私のネジは全て揃ってるはずです。健康診断は私も受けましたから間違いあり…まさか。

B: 俺のだよ、そのネジは。

A: だから兄さんのネジは足りなかった…と。

B:  お守りみたいなもんさ

A:  でも…私は脳死、でしたよね?唯一残った脳から記憶の一切を取り出してプログラミングされた人工知能…。

A: じゃあ兄さんは…?あなたはいつからロボットになったんですか?そうか、兄さんも元が人間だからロボット工学三原則が…

B:  (被さって)ずっとだよ、生まれた時からずっと

A:  それじゃあ辻褄が合わないじゃないですか!

B:  人間の感情を認識するのではなく主観的に理解し、長い時間を共に過ごすことでデータを収集し誰よりも理解してくれる。そんなパートナーロボット。

A:  え?

B:  人間の心に寄り添うメカニズム学習をした構成的アプローチ個体。

A:  確かに博士は…そういってました。

B:  俺はアリスの為に作られたんだ、アリスのことを…息子を守るために。

A:  私のために…、

B:  でも、当たり前のことだろ?俺はお兄ちゃんなんだから!

A:  はははは、はは。通りで届かないわけだ。

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