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なぜ“顧客不在開発”が起きるのか?――陥りやすい7つのケースを解き明かす
顧客と話すべきだとわかっているのに、話せない
プロダクト開発において「顧客と直接会って話すことが重要だ」と言われるのは、もはや定番のフレーズかもしれません。それにもかかわらず、実際の現場では「気づくともう数ヶ月、顧客と話していない」「顧客の顔が見えていないまま開発が進んでいる」という状況が少なくありません。
なぜ「顧客と話すことは大事」とわかっていても、現場でそれが実行されないのでしょうか?
本記事ではその背景を整理しながら、最終的には"どうすれば価値のあるプロダクト開発を進められるか”というヒントを探っていきます。まずは、顧客との対話が断絶されてしまう典型的なパターンから見ていきましょう。
なぜ顧客との接点が失われるのかー7つの典型例
1. 経営陣が機能単位でロードマップを固めてしまっている
経営陣が早い段階で詳細な機能ロードマップを策定し、開発チームはそれに従うだけの状態になってしまうケースです。
トップダウンで「どんな機能を作るか」が明確に決まっていると、現場にとっては「顧客と話し合わなくても、言われた機能を作ればいい」という意識が生まれます。
2. 忙しい・タイトな納期・スケジュールに追われている
「話している時間がもったいない」、「納期が厳しいから、まずは手を動かそう」というプレッシャーが強く、顧客との対話に時間を割く余裕が生まれない状態です。
3. 過去の経験から話さなくても十分と思っている
長く業界にいたり、豊富な経験を持つ開発者やマネージャーが、これまでの成功体験を持っていると、「だいたい顧客はこういうものを求めるはず」と勝手に決めつけてしまうことがあります。
一方、市場や顧客ニーズは常に変化しているため、過去の成功パターンが今も通用するとは限りません。
4. 顧客と話すのは営業
組織上、顧客対応部門と開発部門が分断されており、情報は営業やカスタマーサクセスを経由しないと届かないというパターンも少なくないかもしれません。
また、組織として「開発は裏方」という役割分担が当たり前になっており、直接顧客と話す文化や仕組みが整っていないパターンもありそうです。
5. 短期的な成果圧力(目先の売上優先)
「まずは売上を伸ばそう」という短期的なKPIに焦点が当たると、顧客と話して中長期的な視点でプロダクトを改善するより、すぐに売れる機能を実装するほうが好まれるようになります。
短期的に売上を上げるプロダクト改善は、顧客と話す習慣を忘れさせるとともに、長期的に見れば顧客離れやプロダクトの陳腐化を招きます。
6. とりあえず作ってみよう!
新しいプロダクトや機能を試すとき、「まずは作って、ローンチしてみてから考える」方針を取る場合があります。
アジャイル開発の精神と混同されることも多いですが、実際には適切なフィードバックループが設計されていなければ、ただの“思いつき開発”になってしまいます。
7. 失敗回避・現状維持バイアス
大きな仕様変更が起きるとスケジュール全体に影響が及んだり、リソースの見直しが必要になるため、担当者個々にはリスクが大きく映ります。
顧客と話すことは「新しい変更要望が出るかもしれない」というリスクを伴うため、あえて変化を避け、現状維持を選んでしまうのです。
ではどうしたら良いのか?
上記のように、「顧客と会いに行けない」要因にはさまざまな背景があります。しかし、どの要因においても共通して求められるのは、顧客が本当に求める価値を起点にプロダクト開発を進めることです。以下では、組織や開発プロセスのレベルで実践しやすい打開策の1案を考えてみます
「顧客価値ロードマップ」の策定
経営陣が機能単位でロードマップを固めると、現場が「言われた機能を作るだけ」になりがちです。そこで重要なのは、顧客の課題や提供する価値が中心になるロードマップを作り、“検証が必要な仮説”として扱うことです。
顧客価値を共通言語に:PSF(Problem-Solution Fit)の実証
顧客との対話で把握した「課題」や「ニーズ」を叶えた先の顧客の成果状態をを、社内で共通言語として取り扱いましょう。
数字やストーリーで経営層と現場をつなぐ
顧客価値をベースに会話しつつ、経営陣から求められるのはビジネス上の成果です。顧客の課題や得られる成果を、定量と定性の両方で示すと、経営層への説得力が増します。
顧客フィードバックを踏まえた漸進的なプロダクト開発
いきなり完璧な製品を作ろうとせず、要点を押さえた最小限の機能(MVPやプロトタイプ)を素早く用意し、実際に顧客に触ってもらいます。フィードバックを得ることで、より正確な顧客解像度を得ながら開発を進められます。顧客と会わない時間が長いほどリスクが増大します。タイトな納期?時間がない?だからこそいち早く会いに行きましょう!!
週に1度など定期的に顧客と会い、状況をupdateする
トレンドは常に移ろいます。強制的に会話するタイミングを設けることで、その知識をupdateし、いち早くプロダクトへ取り込めるようにしましょう。
また、顧客と接点を持つのは一部のメンバーだけになりがちなので、インタビューの議事録や録画などを社内でオープンに共有する仕組みを作りましょう。結果的に全員が“顧客目線”をアップデートできます。
まとめ
顧客とのコミュニケーションは、プロダクト開発において本質的な成功要因です。しかし、組織構造の問題から心理的ハードルまで、多種多様な要因が「わかっていても顧客に会えない」状態を作り出します。
これらの要因を丁寧に解きほぐし、「顧客価値が共通言語化された組織を作ること」や「現場が実際に顧客と対話できる仕組みや文化を作ること」が、長期的に見てプロダクトを育て、顧客をファンにする最短ルートとなるでしょう。
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