コロナ重症化率、インフル並みか

いよいよ、「コロナ重症化率、インフル並み 厚労省が分類見直し議論」となったようです。もうすぐ3年にもなる、そろそろ何とかならないかという期待から、コロナはインフル並みだと思いたい人も多いでしょう。しかし情報を正確に読み解くためには、自分が期待から情報を取捨選択していないかを常に意識することが重要です。その上で、データを元に客観的理解しようと努めること。この視点から、今回はコロナはインフル並みかを考えることにしました。

初めに、もう1つ、私の立場を明確にしておきます。怖いと確定されたものだけを怖がるのではなく、解明されていないもの、怖い可能性があるものは、わからないから念のため怖がる、というものです。わからないけど大丈夫だろう、という判断はしません。データに基づきもう大丈夫だ、となれば怖がるのをやめていきます。これこそが生き延びるための鉄則だと考えています。

このため、提示されたデータや情報は、基本的に懐疑的に理解します。本当にオミクロンは季節性インフルエンザと同等の重症化率と致死率なのか。さらにこの表ではあらわせない事柄はないのか、を見たいと思います。


それでは分析の第1歩。記事で何を主張しているのかを確認します。

記事を読むと、内容は新型コロナを感染症法上の「5類」相当にして良いかを検討するための判断材料が出た、政府が検討する、と言いう紹介です。ただし提示さている表(下記)は、致死率も重症化率も季節性インフルエンザ並み、またはそれより低いと思わせる内容になっています。

そこで情報源も探してみましょう。それは、例のごとく厚労省のアドバイザリーボードでした。12月21日、第111回資料4 新型コロナの重症化率・致死率についてです。事務局提出資料で、5ページあります。


まず1ページ目で目を引くのが、

COVID-19と季節性インフルエンザの致死率や重症化率を比較することにつ
いては、現在示されているデータは、ほとんどの場合異なる方法で集められたものであり、直接比較するにあたっては留意が必要である。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001027743.pdf

という文言です。実はとても重要な指摘です。以前、数字を見てわかった気にならないために意識したいことで述べたことと同じです。(ゼレンスキー大統領の支持率を、73%(就任時)⇒ 20%台(2月24日以前)⇒ 90%超(戦争勃発後)で比べていた、という話題。)比べてはいけない数字の比較しても意味がないのです。

資料4の冒頭に記載されていることは、まさにこれです。もう少し具体的に言えば、同じ「重症化率」という言葉であっても、インフルエンザの重症者と新型コロナの重症者は定義が違うだろう、ということになります。特に2020年に肺炎を想定した重症化の定義がオミクロン株では当てはまらず、以前の定義に基づく”重症化”にはならずに死亡する例が多くなっています。だから重症化しなくなったという訳でもありません。同じ「重症化」という言葉を使っても内容が異なるので、単純比較はできません。まさに直接比較するにあたっては留意が必要ということになります。

1ページ目には、他にも2点の注意書きがあります。

・COVID 19 の重症度は病原性が一定程度低いとされるオミクロン株が流行株の主体となり、さらに多くの人が自然感染あるいはワクチンによる免疫を獲得したことにより、発生初期と比較して低下しているものの、循環器疾患をはじめとする合併症や罹患後症状のリスクが ある。

・COVID 19 による死亡インパクトを考えるにあたって は、 超過死亡を考慮する必要が ある。

後遺症は致死率や重症化率とは別ですよ、超過死亡が多いのはコロナ死とカウントされていていないがコロナが原因の死亡もあるかも、ということですね。

さらに2ページ目には、治療薬が普及していない、感染力が強いので感染者数が急増している(だから率ではなく数を考えることも重要)、今後の変異がわからない、という意味が判断時の注意書きとして記載されています。


データ提示の前に、数字(致死率・重症化率)だけでは判断できない理由が意外に丁寧に記載されていることがわかります。それをまとめると、下記のようになると思います。

(1) 重症化率の定義
上で書いたとおり、インフルエンザとコロナでは重症化の定義が異なるので、単純に重症化率を定義することはできません。
同様に、致死率も検査の状況が全く違うので比較にならないでしょう。コロナも風邪も、本当の感染者数はわかっていません。超過死亡が多い原因はまだ不明ですが、コロナの致死率に大きな影響を与えている可能性があります。

(2) 治療薬
風邪の症状を抑える薬はいろいろあります。コロナも一応の治療薬が出ましたが、誰でも安心して処方してもらえる訳ではありません。

(3) 感染力
コロナの感染力はどんどん強くなっています。感染が広がると、たとえ致死率や重症化率が低くても、感染して死亡する人、重症化する人が増えることになります。この数字は、致死率・重症化率のように「率」にすると見えてこない値になります。

(4) 今後の変異
新型コロナは進化が早いです。長期的に弱毒化していくだろうという考えは予測でしかなく、次の変異が強毒化する可能性は否定できません。

(5) 後遺症
後遺症は、まだわかっていないことが多すぎます。実際、いまだに多くの人が様々な後遺症に悩まされています。しかし後遺症は致死率・重症化率の議論には入って来ません。

以上、風邪とコロナの致死率と重症化率の比較はそもそもできるのか、できたとしても致死率・重症化率以外にも比較すべき事柄がいろいろあることを見てきました。

こんな中、 欲しい情報を選んでしまう人間がいて、それに呼応した報道期間があります。世論を誘導したい人もいます。

これを意識した上で、物事を理解したいものですね。

(3~5ページの実際の数値には、今回は踏み込まないことにします)


まとめ:
(A) コロナと風邪の致死率・重症化率だけで、コロナと風邪の怖さを比較することはできない。
(B) 事務局資料は、何とでも言い逃れができる資料になっている。
根拠はありませんが、直接比較するにあたっては留意が必要という記載やその他の注意書きを冒頭の2ページに持って来た厚労省担当者は、このような但し書きがあっても、報道では注目されず、数字だけが独り歩きして、コロナは風邪と同じだ、という認識だけが広がるであろうことを想定していたと思います。いつでも変更できる環境を作り出したわけです。
そして実際、報道機関はこの部分を説明せず、数字けを取り出して報道しています。
結果、受け取り側では5類になっても良いのでは、と思う人が増えていく。

こうやって世論形成が作られているのだな、と感じました。これを乗り越えるため、データを読み解く技術、懐疑的に調べる姿勢が問われていると思いました。