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スーパーお人好し

人々が活動的に動き出し、太陽の日差しが強くなる午後14時。お腹が空いた気がする。お昼ご飯はまだ食べていない。

この時間になってしまうといつも迷う。
食べるか否か。

コンビニで軽くおにぎりを買って食べるか。
いやいや、もう少ししっかり牛丼屋でさっと食べよう。
いやいや、もういっそ節約して夜しっかり食べるか。

13時30分ならまだしっかり食べようと思えるが、15時に近づく14時という時間は、不思議と胃袋との相談が始まる。そして脳裏には、通帳に記帳された数字がよぎり始める。

どうしたものかと、Google mapで周辺のレストランやラーメン屋さんを調べ始める。時計の針は刻々と歩み始める。

まずい、このままではおやつになってしまう。おやつは甘いものでなければ成立しない。

そうして今度はクレープやカフェを調べ始める。時計の針は猛ダッシュを始める。

いかん、晩御飯との兼ね合いを考えたメニューを打ち出さなくてはいけなくなってしまう。

そうして大抵はラーメン屋さんに入ることが多いが、今回は気になっていた定食屋さんに入ることにした。

店内はこぢんまりとしているがほぼ満席のようだ。空いている席に座ろうと思ったが、おっと、ここは食券タイプ。食券タイプは他の来客もあるから、選択に時間をかけていられない。時計の針は残酷にも止まらないのである。

そんな時は幼い頃に手にしたテレビ情報を思い出す。左上に配置されているメニューが店のオススメ、その言葉を信じ続けている。今回も初めて来た店ということもあり、冒険はせず王道を攻めよう。ピッと押したそれは、ハンバーグ定食。

シェフは物腰が柔らかく、どうやら1人で切り盛りしている様子。長年この地域に住まわれているのだろう。貫禄と落ち着きを感じられた。

食券を渡し、テレビに映されたプロ野球中継を観ながら料理を待っていると、ガラッと店の扉が開いた。まさかの2人のお客さんが立て続けに来店してきた。

シェフ、大丈夫かな。
しかし、そんな不安は全く不要であった。
注文を受けたシェフは無駄な動きなく揚げ物を作り、肉を焼き、ご飯をよそう。そして味噌汁のお椀は片手に2つ持ち。アメージング。もちろんお盆は使っていない。むしろ、ない。

感銘を受けながら届いた料理を頂き、味とシェフのパフォーマンスに満足した。ご馳走様と席を立ち上がり、店を後にしようと思ったらシェフが私にひとこと声を掛けてくれた。

「懲りずにまた来て下さい。」

シェフ、何か失敗したのですか?少なくとも私は失敗とは思っていませんし、気づいてもいませんよ?

シェフが去り際に放った言葉は情緒や謙虚さがあり、こうして店は長く愛されるのだろうな。
今度自分も使ってみようかな。

素晴らしいですね、懲りずにまた踊ってください。
良いところですね、懲りずにまた見つけてください。
勉強になりました、懲りずにまた教えてくださいとか。

使い方間違えると逆鱗に触れそうだから慎重に使おう。また来ますとシェフに伝えて店を後にした私は、微妙な時間にご飯を食べたから今度は晩御飯に頭を悩まされるのである。

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