消費税増税による通関業者の苦悩

 10月1日からついに消費税率が10%に上がります。増税前のセールとか、キャッシュレス決済のポイント還元で世間は盛り上がっています。その一方、「たった2%やで。10万円買っても2000円しか変わらんで」という冷静な方もいらっしゃいますが、我々通関業者にとっては大変苦しくなることが目に見えております。

関税・消費税の立替納付という悪習

 海外から到着した輸入貨物を日本国内へ引き取る前には、必ず税関へ関税・消費税を納めなければなりません。税関へ輸入申告をして、関税・消費税を納付して輸入許可となり、貨物を引き取ることができます。その関税・消費税は誰が納めるべきかというと、貨物を輸入しようとする輸入者です。
 通関業者は、輸入者の代理人として輸入申告を行いますが、あくまで納税義務者は輸入者です。ところが、輸入者が直接税関へ関税・消費税を納付せずに、通関業者が立替納付をするケースが少なくありません。

立替金のための資金繰り
 何が苦しいのかと言うと、資金繰りです。通関業者は、通常の営業活動ためのキャッシュの他に、税金を建て替えるためのキャッシュを準備しておかなければならないのです。例えば、課税価格(商品代に日本までの運賃や保険料を足した金額)が1,000万円の貨物があるとします。仮に関税が0%だとすると、消費税率8%のときの消費税額は約80万円、10%のときは約100万円です(厳密には、消費税と地方消費税を分けて計算するので若干税額は変わります)。これが積み重なると、通関業者によっては1か月の立替金額の合計が数億円になることもあります。増税により、1か月8億円の立替金が10億円に増えたとして、立替金を全額銀行からの融資でまかなっていると仮定すると、立替金のために2億円の追加融資を受けなければなりません。また、金利が2%ならば、1か月あたり(10億円-8億円)x2%x1/12=333,333円の金利負担も増えることになります。

立替金の回収は1~2か月先
 
顧客ごとの取引条件によりますが、月末締め・翌月末払いというよくある条件の場合、1~2か月の間にわたって税金の立て替えをすることになります。場合によっては、立替金だけ先に振り込むような取引条件をすることもありますが、一旦は立て替えるための余剰金を準備しなければならないことに変わりはありません。

輸入者からすればありがたい話
 
もちろん、逆に顧客(輸入者)の立場から見ると、1か月あたり数百万円~数千万円やそれ以上の税金を通関業者が立替えてくれると、資金繰りは楽になります。でも、本来は貨物を国内に引き取るときに輸入者が納付すべき税金なのです。
 通関業者から見るとはっきり言って「悪習」ですが、昔からの習慣であり、顧客との関係等を考慮して続けている例が少なくありません。

輸入者が直接納付するための制度

 リアルタイム口座:通関業者が税関へ輸入申告をすると、輸入者の普通預金や当座預金の口座から即座に関税・消費税が引き落とされて税関へ納付される制度。輸入者がNACCSに利用申し込みをすることで利用できるようになる。

 包括延納:輸入者が税関へ担保を提供することで、関税・消費税の納期限を最大3~4か月延長できる制度。例えば、9月1日から9月30日の間に輸入申告をして引き取った貨物の納期限は12月31日になる。

 通関業者は、少しでも立替金を削減するために、上記のリアルタイム口座や包括延納の制度を利用するように輸入者との交渉をしています。徐々に輸入者の理解を得られて、どちらかの制度に切り替える輸入者が増えてきています。リアルタイム口座の場合、申し込み手続きは比較的簡単ですが輸入者にとっては資金繰りに影響があります。包括延納の場合、銀行等に保証書を発行してもらい、それを税関へ担保として提供します。銀行へ保証料を支払いますが、3~4か月納期限を延長できるため資金繰りの面でメリットがあります。
 

今後の動向

 多くの通関業者が、顧客にリアルタイム口座や包括延納への切り替えの交渉に力を入れており、ここ数年で立替比率は減ってきているようです。あくまで通関業者と顧客の交渉で決めることですので、立替を止める代わりに一部の料金を値下げするというようなケースもあると聞きます。商慣習はなかなか変わらないという一例です。今後も継続した交渉をしていくしかないと考えています。

 今日は、通関業者ならではの消費税増税による悩みについて書きました。お読みいただきありがとうございました。よろしければ、twitter ものぞいてみてください。

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