【蔡英文の8年】台湾民進党と自民党、党首の選び方
台湾で2016年5月から2024年5月まで、総統を務めた蔡英文。その任期で、経済、社会は大きく発展しました。このシリーズ(蔡英文の8年)では、その成功と試練についてまとめてみたいと思います(上の写真は、台湾紙「自由時報」より。「中国要人の来台に反対デモを行う蔡英文民進党主席、2008年」)。
第一回の今回は、蔡英文が属する民進党(正式名は民主進歩党)の党首の選び方について書いてみます。
自民党総裁選挙で政党党首の選び方に関心が集まっていると思います。自民党は、ご存じのとおり、総裁(党首)について、国会議員と党員がそれぞれ投票します(国会議員は367人、議員1人1票で367票、党員の票は367票を、各候補者の得票率で比例換算します。)。総得票数は367(議員)+367(党員)=734票です。
第一位の候補者が過半数に達しなかった際は、一位と二位の候補者による「決選投票」をします。決選投票では、議員票が367票、各県支部の票が47票となります。任期は3年です。
民進党の主席は、1998年から党員による直接選挙で選ばれてています。2002年からは、現職総統が党主席を兼任します。総統が党主席を辞任した際は、党員による選挙が行われます。任期は2年です。
「まとめ」。①民進党の党主席は、党員選挙で選ばれます。国会議員の比重が大きい日本と異なり、立法委員によって選ばれません。これは、議院内閣制で国会が国権の最高機関である日本と違い、台湾は総統制であることと関係するからでしょう。直接民主主義が根付いていると言えます。②直接民主主義について言えば、民進党は1980年代より、公(国)民投票を主張、2004年以降、何度か実施してきました。国民投票を行ったことがない日本と異なります。③総統候補者、立法委員(小選挙区)、直轄市長、議院などの候補者は、党による民意調査で決定されます。いわゆる「勝てる候補者を選ぶ」「選出の公平さ確保」「候補者同士の過度な競争を防ぐ」などの理由からと思料されます。
蔡英文は、2008年5月、野党になった民進党主席に党員選挙で選ばれて当選します。2010年も党員選挙で連続当選します。いずれの選挙も有力な対立候補が現れなかったことが勝利の大きな要因です。蔡英文は、2012年の総統選挙で敗北し、党主席を辞任します(残り任期を代理主席が選挙で選ばれ、担当します)。
2012年、党員選挙で蘇貞昌元行政院長が勝利して主席に就任します。2014年、党員選挙で蔡英文前主席が勝利して主席に就任します。2016年、蔡英文は総統に当選し、党主席も兼任します。2020年も同様です。ただし、2018年と2022年、蔡英文はそれぞれ地方選挙の敗北の責任をとって党主席を辞任しています。
これまでの民進党の党主席選挙は、支持率が拮抗した候補者同士が激しく争うということはありませんでした。野党時代に内部抗争を避けたことがあるかもしれません。1994年、台北市長の候補者を選ぶ際、党員25%、幹部25%、民意調査50%という比重で、陳水扁を選出しています。民意調査を重視すると、義理人情とか貸し借りというものも少なくなるようです。陳水扁は弁護士出身でした。台北市長や総統選挙への立候補前は、専門家との勉強会を何度も行っていました。政策通として台北市長、総統の要職を担いました。政策通は、下に書く蔡英文も同じです。
さて、みなさんは、どう感じましたか?首相公選や国民投票(憲法改正以外も含めて)が行われるようになると、自民党の総裁選挙は変わるでしょうか?本当は、逆の流れですよね。
党首選出において「国会議員の方が、党員よりその議員を知っている」と言う方もいますが、党首選出方法としては、中国共産党、朝鮮労働党と同じになってしまいます。
直接民主主義をどう評価するか、で結論は異なると思います。国民が選ぶにしても、国会議員が選ぶにしても、能力をある人を選ぶ必要があると思います。蔡英文は、上に書いたように、2016年に総統になる前に、2008年から2012年、2014年から2016年、野党の党首を務めていました。2011年には、「十年政綱」という長期の政策プランを提出しました。主席を退いた、2012年から14年の2年間は、シンクタンクを創設し、専門知見を深め、内外を多く視察しました。この過程で、ブレーンやスタッフの陣容が豊富になりました。自民党総裁の候補者とは、かなり違いますね。
次回は、蔡英文のシンクタンク時代での修練について書いてみましょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?