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 京都府宇治市の少子化対策を視察させていただきました。ご協力いただきました宇治市政策戦略課、同市議会事務局の関係者のみなさま、心から御礼申し上げます(上の写真は宇治市HPより)。

それでは、宇治市政策戦略課さまにレクチャーいただいた内容を
以下、まとめましたので、ごらんくださいませ。

国のデータ活用事業に参加
 宇治市は、令和2年3月に、第2期宇治市子ども・子育て支援事業計画を策定し、「安心して出産、子育てできる切れ目のない支援に向けた環境づくり」「地域で子育てできる環境づくり」「仕事と子育ての両立の環境づくり」「配慮を必要とする家庭へのきめ細やかな取組」などの基本目標に沿って幅広く、子育て環境の充実に関する施策に取り組んできましたが、一方で、宇治市の特性を把握したうえで、出生率の向上を意識した施策には取組めていませんでした。
 令和3年度より「子育てにやさしいまち実現プロジェクト」と題し、分野横断的に取り組んでいます。ひとの交流、まちの活性化、環境整備等、子育ての福祉的支援策以外の施策による、「住んでよかった」、まちの魅力を「伝えたい」、宇治に「住みたい」を実現する、子育てにやさしいまちづくりをキーワードに、様々なアプローチによる施策に取り組んでいます。

 こうしたなか、出生率向上に向けた課題を整理し、施策の効果検証や、根拠を確かめたい、との考えから、国の、地方公共団体における「少子化対策地域評価ツール」(京都府『地域子育て環境「見える化」ツール)を活用した「地域アプローチ」による少子化対策の推進に関する調査研究事業に参加しました。

データからみる特徴
 
調査では、年代別の転出入、有配偶率、第1子、第2子、第3子の出生率を対象としました。宇治市の現状を分析すると第2子出生率が高いにも関わらず、合計特殊出生率が全国平均より低く、第3子を生み育てたい環境に課題がありそうなことが分かりました。

宇治市出生構造レーダーチャート 宇治市資料


 第2子出生率が高い要因は、京都市からの転入と分析しました。第1子出生率が高い京都市とは対称的となっています。主に住宅価格・居住環境や通勤環境が要因と分析しました。
 出生率が全国より低い要因は、若い世代(単身)の転出、第3子を生み育てたいという環境が整っていないことと分析しました。一義的には有配偶率の低さがあると分析しました。

 また、京都府の「地域子育て環境「見える化」ツール」を用いて、子育て環境レーダーチャートをつくりました。ここでは、人々のつながり⑰や、子どもの頃の経験値⑲が低い、職住近接性が低い①ことが、確認できました。
 この結果について、ベッドタウンとして人口増加してきた経過が、現在の生活環境に密接に影響していると仮説をたてました。
 →住まいとして宇治市を選択
 →共働きや通勤時間が長く、生活時間のゆとりがない
 →地域内での交流が希薄
⇒人々のつながりが低くなっている可能性があると考えました。
 ソーシャルキャピタル(人々のつながりや地域資源)と、職住近接性 へのアプローチが出生率向上のキーポイントになると考えました。


子育て環境レーダーチャート 宇治市資料より

アンケート内容の分析
  行政による独りよがりな施策とならないよう、子育て世代のニーズを把握する必要があると考えました。市においては令和2年度に「宇治市子ども・子育て支援事業計画」を策定しており、この計画策定にあたっては、無作為抽出により未就学児、小学生の子どもを持つ保護者に対するニーズ調査を
行っていることから、この調査結果等を再度見返すなどして保護者ニーズに合った方向性の検討を行いました。
 子育て世帯の調査結果について、ソーシャルキャピタルと職住近接に関するアンケート内容を分析しました。
ソーシャルキャピタル:子育て環境のうち特に周囲との関係構築に関する要望を属性(就学前、小学校、中高生)ごとに確認しました。結果は以下のとおり。
・就学前児童:・高齢者と子どもたちが一緒に集まる場所があれば双方良い影響があると思う
・小学生:―
・中高生:・親育てが必要、親が子どものまま成長できていない
 この結果から、導き出されるペルソナ像は以下のとおりと仮説しました。○共働きで子どもと遊ぶのは週末。あまり地域のコミュニティも活発ではないので、子どもにとって親以外の大人と触れ合う機会がなかなかないことに不安感を感じている。子育てを相談する祖父母やパパ・ママ先輩との関わりが少ないので子育て自体にも不安を感じている。子どもにとっても、親以外の大人と触れ合う機会が少ないことに不安を感じている。

職住近接:職場や通勤に関する要望がないか属性ごとに確認しました。結果は以下のとおり。
・就学前児童:・仕事と子育て、家庭生活の両立が難しい(11件)
・就労の有無にかかわらず、週に数日、1日数時間、気軽に預けられる施設が欲しい(7件)
・土日祝日や夜間などの受け入れ、保育時間を延長してほしい(16件)
・小学生:・仕事と子育て、家庭生活の両立が難しい(6件)
・PTAや子ども会などの役員の負担が大きい
・中高生:・PTAや子ども会などの役員の負担が大きい
 この結果から、導き出されるペルソナ像は以下のとおりと仮説しました。○両親共働きで、京都市等近隣市に片方または両方の親が働きに出ている。帰りも遅い日があり祖父母も近くに住んでいないため、子どもを夜まで預かってもらえる環境があるとありがたい。休日は子どもとの時間を大切にしたい。

 こうした結果、見えてきた子育て世帯像は、
・働くことと子育てを両立させたい世帯
・ゆるやかな繋がりを求める世帯」であり、
暮らしのニーズは、
・週末(休日)は家族でリラックスして過ごしたい
・普段は保育園に預けているので、子どもと一緒に様々な体験をしたい
というものです。

市民意識を宇治の強みに
 上記アンケートの年代別未来への期待度(重要度)を分析すると、以下のことがわかりました。こうした市民意識を少子化対策の強みに取り入れることとしました。
・高齢世代も子育てに関心が高い
・全世代での防災・防犯への関心の高さ
・若い世代の観光や茶業など宇治市らしさへの期待

ロジックフローで整理
 見えてきた子育て世帯像をターゲットとした施策形成に向け、ロジックフローにより施策を検討しました。

ソーシャルキャピタルと職住近接性の課題のロジックフロー図

宇治市資料より


宇治市資料より


 
宇治市では、少子化対策は、部をまたがる施策であり、政策戦略課が担当しています。子育て支援部門だけでは難しいという考えに基づいています。企業誘致など産業振興部門の協力も必要でして、PTプロジェクトチーム方式の対応をとっています。

具体的な取組
ソーシャルキャピタル(地域のつながり等)の強化策として、以下の取組を行っています。
 中宇治をモデルに交流空間創出事業「まちのリビング」を開始、空家や集会所、空き地の利活用で、子育て世帯と地域の交流を促進していきます。
 「子育ておうえん環境整備事業」では、子育て関連のイベント、機器(椅子など)、設備、施設(授乳室など)の設置費用の補助を行っています。

② 職住近接性が低いことへの対応(共働き世帯のニーズへの対応)として以下の取組を行っています
家族で非日常を体験できる場の創出や、学習機会の創出として、こども未来キャンパスという、職業体験・起業講座を行っています。これは、一回参加の体験会、年間22回の講座などがあります。いずれも人気が高いです。

こども未来キャンパス体験会
子ども未来キャンパスの年間スクール

また、食育講座としてはユーチューブ配信を行っています。

ワーケーション受入を念頭に、親子向けにワーケーションモニターツアーも実施しています。

宇治市HPより

宇治市らしさを活かした産業づくりも目標としていますが、これについては、宇治産業戦略に基づいた施策を展開しています。

所感
 宇治市は、国の調査事業に参加し、京都府の評価ツールを活用したことで、データによる弱点を把握し、自らのアンケート調査と組み合わせ、適確な施策を推進しています。国の調査事業も府の誘いに応じたとのことですが、府のイニシアティブが光ります。一方、少子化対策には、当初、京都府の「子育て環境日本一推進戦略」の補助金を活用しましたが、期間は1年のみであったので、その後は、国の地方創生推進交付金を活用しているそうです。国の事業参加で、他参加自治体との比較や、府の子育て支援施策や「地域子育て環境「見える化」ツール」などを通じて、冷静に俯瞰して、施策の研究や策定ができる環境にあったものと思われます。
 政策戦略課(元経営戦略課)が横断、総合的な施策(福祉的施策以外)に取組んでいるとのことですが、もともとPT(プロジェクトチーム)で施策推進することが多かったとのことでした。部門間の連携が非常によくできているように感じられました。
 ソーシャルキャピタルと職住近接という課題の明確化はスマートですし、後者は、別の記事で書きましたが、産業戦略の策定とも大きく関わってきたと思います。宇治市が、人口と産業の再興に向けて、一丸となって取組むそうした時機にも合ったということもプラスに働いていくものと思います。
 
 


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