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デジタルのまちへ(企業や社会のしくみが変わっている)

コロナニュースですっかり隠れてしまっているけど、企業や社会のしくみはすっかり変わってきている。

鉄道技術の外販で稼ぐ、JR西日本の新市場開拓

「鉄道技術展・大阪」では総勢17社の関連会社が出展したJR西日本グループ(写真:村上悠太)

「鉄道技術展」は、鉄道事業者はもとより、鉄道に関わるさまざまな機器・技術開発を行う企業が一堂に会し、最新の技術を披露する鉄道技術の見本市だ。通常は幕張メッセで開催されるが、2022年5月末には大阪市内で開催された。会場は住之江区咲洲にあるインテックス大阪。広大な展示会場の中に入り口正面の「一等地」で過去最大規模の展示スペースを展開したのは、JR西日本グループだった。

JR西日本は現在、AI活用を筆頭に技術開発に力を注ぐ。それらは自社路線の安全運行や日々の機器・線路保守の効率化、省力化を主軸に据えたものが多い。一方でユニークなのは、これらの技術を他社に「販売展開」している点だ。

情報端末で作業量が低下

他社に売れた例の1つとして銚子電鉄が挙げられる。2022年2月、同社はJR西日本テクシアが開発した駅向け簡易情報提供端末「Scomm.」を導入した。無線通信による遠隔操作が可能な情報端末で、新たな大規模なインフラ整備が必要なく、大画面モニターによる時刻表表示や異常時の運行情報提供が一括管理で提供が可能なシステムである。無人駅の多い銚子電鉄では、これまで異常時には各駅に職員が車で向かい、掲示をその都度更新していただけに、省力化効果はかなり大きい。小規模な地方鉄道でも導入のハードルが低いことから、今回の採用につながった。

JR西日本管内には2000台以上の自動改札機が設置されており、年間7回ほどの定期点検を実施しているが、ここにAIを活用することで故障の発生件数を減らすことができた。自動改札機には稼働状況を収集するためのネットワークが導入されており、センターサーバーにその情報がアップされる。この情報を活用し、券詰まりなどのエラーが発生した箇所、状況、きっぷの大きさなどを細かくAIで分析し、故障予測が可能になったのだ。これまで自動改札機は一定期間ごとに部品を交換していたが、故障予測により事前に部品を交換することで故障を防ぐことが可能になったのだ。

実際、神戸支社管内300台の自動改札機にAIを導入したところ、年間で約30%故障件数が減ったという。この技術はJR九州に持ち込まれ試験導入が実施された。試験導入後の感触は「とてもよい感想をいただいた」とのことで、JRの垣根を越えた展開も期待できそうだ。

鉄道のみならず他業界にも売り込みを続ける。「鉄道から生まれた技術ですが、鉄道業界だけに固執することなく、あらゆる業界に応用のできる技術だと考えています」。と、JR西日本イノベーション本部オープンイノベーション室の井上正文課長が話す。日本中の企業を訪問し、「ほとんど家に帰っていません」と苦笑する。

多くの企業に知ってもらえるよう、鉄道事業者が出展したことがないような、IT、IoT業界の展示会にも積極的に出展する。ITやIoT業界にとって、JR西日本は“お客様”の立場だった。しかし、自らも技術を売るのであれば、“対等の関係”でなければならない。その意気込みで臨んだところ、逆にITやIoT企業からの問い合わせもあったという。

監視カメラ技術に期待大

自動改札機だけでなく駅構内の監視カメラにもAI技術が活用されている。映像を分析し、ホーム上でのふらつきや倒れている人を検知し、駅員に知らせるシステムである。この監視カメラの映像解析技術はすでに他社との協業実績もあり、路線バスや工場の検品作業などへの展開を目指している。

「オープンイノベーションを活用し、鉄道固有の技術に固執しない」と井上氏は話す。「これまでありがちだった、鉄道には活用できないから向き合わないというマインドをいったんなしにして、小さな課題でもいいし、失敗してもいいからとにかくやってみることを念頭に事業を進めている。外からの取り入れだけでなく、こちらからのアウトバウンドをしっかりと意識したい」。

琵琶湖の西側を走るJR湖西線は特急サンダーバードが高頻度で行き交い、関西圏と北陸地方を結ぶ重要路線だ。北陸地区の特急網は2023年度末に予定されている北陸新幹線敦賀延伸で改変が見込まれるが、その後も湖西線は関西圏と北陸新幹線を連絡する特急が走ることが予想され、湖西線の重要性はさらに高まる。しかし、湖西線は2~3月を中心に「比良おろし」と呼ばれる強い局地風が吹き、たびたび運行に支障をきたしている。運転見合わせは利用客に大きな負担がかかり、運転再開にも時間を要する。安全かつ効率的な運行計画には天候を詳細に「読む」必要がある。

JR西日本はデータサイエンスを活用し気象予想に力を入れているものの、自社のみで高精度のものを単独開発する力はなかった。そこで目をつけたのが大阪ガス。同社はガス供給をはじめ、空調機器、エネルギー事業などを安定的に運用する狙いから30年以上前からコンピューターによる気象シミュレーションを実施している。この気象データとJR西日本のAI技術が2019年に結びついた。

本事業を担当するのはJR西日本デジタルソリューション本部の兒玉庸平氏。情報の分析、処理を行うデータアナリティクス業務に従事している。JR西日本と協業するIT企業の技術力を見極める目的で、「新幹線の線路における積雪量を予測するコンペ」が社内で実施された際、大手IT企業のエンジニアに交じって7位に入賞したのが兒玉氏である。

「大阪ガスさんからいただいたデータがどんなに優秀なものでも、AIがそれをきちんと調理しなければ生かすことができません。AIにどのような計算をさせるのか、そこが難しいポイント」と兒玉氏は言う。

大阪ガスエネルギー技術研究所の髙谷怜主任研究員もその考えに同意する。自身も気象予報士の資格を持つ髙谷氏は「自社事業を効率的かつ円滑に進めるためには気象庁から発表される情報だけでは足りず、西日本に特化したより高密度、高精度な詳細の気象情報が必須です。関西地区に特化した詳細で膨大な気象データが、今回の湖西線というピンポイントな箇所の風予測に活用できました」と語る。

運行計画の判断材料に

大阪ガスは気象庁が提供する予測よりも解像度の高い気象シミュレーションを行っている。そこから得られるデータと湖西線の沿線に設置された各風力計の実測値との関連性を組み合わせた「予測モデル」をJR西日本、大阪ガスの2社共同で開発した。

湖西線の風を読むJR西日本 デジタルソリューション本部の兒玉氏(左)と大阪ガス エネルギー技術研究所の髙谷氏(右)(写真:村上悠太)

「現地観測と気象シミュレーションを分析することで、例えば気温の低下と風の関連性など、さまざまな要素と強風との関連性を見いだし、モデルに反映することができた」(髙谷氏)。これにより1時間単位で24時間先までの瞬間最大風速を3時間おきに推論し、さらに風向を考慮した運行判断用の情報を輸送指令に配信、当面の運行計画の判断材料とする。

髙谷氏の両親の郷里は北陸富山だ。特急サンダーバードを多用することから本プロジェクトへの熱意は深い。また、兒玉氏は北陸新幹線の指令員を務めた経験もあり、乗務員の経験とともに、データの先にある「現場」を見つめながらプロジェクトに向き合った。

データを読み解き、技術を創り、収益を生み出す。JR西日本の新たなる挑戦が続いている。

(村上 悠太 : 鉄道写真家)

07/26 05:00

東洋経済オンライン


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