いたした探偵

タカ(石橋貴明)さんの番組に工藤静香さんが久しぶりにテレビで出演なさってて。会話の中でタカさんが、「あの頃のファンは静香の髪型やメイク似せてた」という話になって、そうなの?と聞いてきたオトメ(夫)に「そうやね」と答えつつ該当する同僚のことを話した。

当時はバブルがはじけちゃってもまだ余韻が残ってた時代。

私のいる部署に同じ年の後輩が入ってきた。スタイルも良いこの後輩、屋内の施設にもかかわらずいつも眩しそうな顔をしており、ロングの髪は社内規定で纏めなくてはいけないのにロングのままで時折金八先生のものまねをする人のように身体を仰け反らせながら髪をかきあげる。

そして、彼女は自己紹介の時にこう言った。

「ワタスのことは工藤静香と呼んでくだしゃい♪」

マジである。大真面目でこう言った。
ちょっと舌足らずな喋りまで真似してきたのである。
ただ、とても残念なのは工藤静香本人でなくモノマネしてる人の劣化コピーのようにしか見えなかった。

彼女を紹介した係長も朝礼で挨拶を聞いた私含めた部署全員がデビュー2作目の薬師丸ひろ子に機関銃で撃たれたかの如く鳩が豆鉄砲を食らった。
係長が紹介した本名に工藤静香の文字はかすりもしなかった。

お、おう…
と、どう返して良いかわからない生返事を返したが、間違いなく全員一致で

(こいつ、面倒クセェ…)

と思った。口には出さなかったが顔には出ていた。

彼女が仕事に慣れるように主に私ともう1人の先輩とでサポートすることになったが、会う人会う人全員に上記の「工藤静香と呼んでくだしゃい」を続けるものだから慣れてくると知ってる人間が皆チベットスナギツネの顔に。

その中の最たる人が1年先輩の同僚で、あまりにもしつこく「工藤静香と呼んでくだしゃい!」と聞き続けていたこともあって、チベットスナギツネの表情のまま

「わかった!今日から工藤ちゃんと呼ばせてもらうわ」

と言ってから、これまで面倒臭く受け流していた問題に着地点を導き出した先輩の頭上には天使のハミングと後光がさした(ような気がした)。

すると後輩まで一瞬チベットスナギツネの顔になった後、また困り顔のコピーに戻り、
「いやデスゥ♪静香って呼んでくれなキャァ」と、いつもなら決して女性には見せないクネクネした動きで訴えたのですが、多分青筋がピキっとなった先輩から

「面倒だから、工藤ちゃんな!」

と、有無を言わせない威圧感でその場が沈静化。後輩=工藤ちゃんの話は瞬く間に周囲に広まり面倒くさいニックネーム問題に終止符を打ち、先輩は勇者の扱いを受けた。

さて、この後輩、他にも面倒なことがあり、彼女は工藤静香の恋多き女で男から男へ蝶が舞うかのような遊んでいる勝手なイメージに踊らされており、実際の工藤静香さん本人は結構真面目なのに、都合よく解釈をしていたこともあり、出会う男性陣で好みがいたら取って食っちゃう人だったのでした。

ここからは本人=工藤ちゃんと上司と工藤ちゃんの同期の証言を交えて話すことですが、入社1年ほどして工藤ちゃんは百貨店の出世コース、外商部のホープに手を出した。彼は既に役員のお嬢さんと縁談が進んでおり厳重注意を受けてからは社内は問題があると考えたらしく。外注の営業さんや販社さん、また週替わりの催事で出入りしている販社さんで好みの男性を手当たり次第猛アプローチの猛プッシュ。
アプローチは私も知っていたものの、まさか狙った獲物と必ずトコを一緒にするところまでは知らず、彼女は蝶が舞うというよりは女郎蜘蛛の態をしていたのであった。

そして、私が担当していた催事の販社でやってきたお兄さんと話していたのを見た工藤ちゃんが、「今の人、カッコいいですね☆誰ですか?」と聞いてきたものだから、
「今週の催事の販社さんの1人だよ。彼、販社の社長のお嬢さんと婚約中だからね、狙ったりじゃダメよ」と強く釘を刺しておいた。さらに強くダメだよ、と。

しかし、この販社さん、日本国内各地でヤンチャしており、お嬢さんから「次に浮気したら婚約解消だけじゃなく違約金も払ってもらうから」と言われていた。
私も催事で入っていた時、この美人のお嬢さんに牽制されていたが、誤解が解けその時は随分意地悪してすまなかった、と詫びを入れられた。こちらも気にしていないので、と気にしないで、と伝えたが、今回の工藤ちゃんの事は一応販社さんにも婚約者の美人さんにもそれとなく伝えておいた。

美人の婚約者さんは「気を付けとく」と言ったものの、販社さんがどうにもヘラヘラと返して危なっかしくその時はそのまま1週間が過ぎた。

問題が起こったのはそこから数ヶ月して。
工藤ちゃんが真っ青な顔色で同僚に支えられながら医務室にやってきた。

私は総務に手続きで来ており、薄い衝立一枚隔てた場所で総務の人とカウンセリングを行っていたが、となりの医務室で他の総務の人とのやりとりで工藤ちゃんが妊娠しており、もう既に中絶できない数週まで来ており、工藤ちゃん自身は悪阻がひどい状態だったとのこと。
全部聞いてしまって、総務の人と顔を見合わせてしまった。

程なく工藤ちゃんの直の上司が呼ばれ、相手の男性の有無なども聞かれたようなのですが、工藤ちゃんは最初曖昧に返していたがやがて
「☆月の催事に来ていた販社の**さんと関係を持ってその時の子供ですぅ」
という生々しい答えが返って来て、隣で聞いていた私と総務の人はカウンセリングどころではなく、今日は終業後改めて…と言われてしまった。
総務から帰ると部署では上司が慌てた様子
「へなちょこさん、○○社の**くんの連絡先わかる?」と聞いてきたので、
すぐに裏のストックヤードに上司を連れて行き、事の次第を話すことになった。
上司は眉間に深い皺があるのにさらに眉間の肉が盛り上がるくらい皺を寄せ、
「そうか、そうか…」とため息をつきながら連絡先を**くんでなく○○社の社長に連絡することになった。

工藤ちゃんはその後どうなったかというと実は1週間もしないうちに異例の退社をした。
発覚から2日後、社長と美人の婚約者さんがきて我が部署と総務に挨拶に来ていた。
私もなぜか関係者として呼ばれることになったのを止めてくれたのはその美人の婚約者さんでした。
「へなちょこさんは後輩さんにもうちの**にもきちんと説明して止めておりました。その証拠に私にも律儀に連絡を入れてくれたので、へなちょこさんに責任はありません。むしろ、止められているにもかかわらず過ちを犯した2人に原因がありますので、ここは一企業として迷惑をかけてしまったことへの謝罪で参りました」
そう言って菓子折りを出してきて社長と婚約者、我が社の上司と役員と総務の人とが謝罪合戦でカオスな様相。

私は婚約者の美人さんのお陰もあり無罪放免となった。それから、次の催事には販社の**さんはおらず、他の人に聞くと言葉を濁された。
一応婚約者さんとは再構築して結婚したと言われたがその後**さんを見ることがなくなったのは事実だ。

更に工藤ちゃんの同期の話で他人の彼氏まで寝取るので同期の女子からは嫌われていることを知り、「工藤ちゃん、それまでにも結構中絶してましたよ?」という過去に一緒に産婦人科を受診したという同期もいたのでその後あっという間に広がったこともあって復帰は望めなくなったのだろう、と推測した。

一通り話した後、オトメ(夫)は「なにその昼メロか昔の大映ドラマみたいなドロドロ…」と言っていたが、当時はなにが起きてもおかしくないという神経だったので喉元を過ぎたら他人事だよねぇ…と。

事情を知った中で名付け親の先輩だけが、
「結局、嵐起こしちゃってなにかを壊しちゃったのね、工藤ちゃんだけに」という言葉で締めくくったのが未だにしょっぱく後味が悪い。

#百貨店
#変人ホイホイ





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