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デジタルHRのコンパス

アクセスいただいたみなさま。初めまして。
セプテーニグループ内の人的資産研究所という組織でデジタルHR(*1)に関する研究・推進をしている進藤と申します。

*1:データやテクノロジーを活用し、HR(人事)の生産性向上を図る取り組みの総称

私は新卒入社間もない頃から、かれこれ10年近くデジタルHRと向き合ってきました。

この10年間はセプテーニグループのみなさま、そして一緒にデジタルHRを推進、応援してくださる社外のみなさまから非常に多く教えや支えを頂きながら、試行錯誤を続ける日々を過ごしてきました。

その中での学びや皆様からの教えを、デジタルHRを進める上での「コンパス」として私の中で大切にしておりましたが、今回これからデジタルHRに取り組まれる方や推進されている方の一助になれればと思い、僭越ながらご紹介をさせて頂きます。


1. たった1つのコンパス

いきなり本題となりますが、私が大切にしている「デジタルHRのコンパス」についてです。

10年という時間の中では当たり前ですが、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、それぞれ多く経験してきました。

その中で10年経った今、その成否を分ける共通の要因が浮かび上がってきました。


それを一言で表すと「良い成長サイクルが作れるか?」です。

図示するとこのようなイメージです。

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・取り組む時間/活動量に伴い、品質/効率性が高まるか?
・そのために検証/改善が続けられるか?
・結果として良い未来に繋がるか?

このようにデジタルHRの施策を検討する際は「良い成長サイクルが作れるか?」について客観評価することを大切にしています。

また、これはHR以外の世の中で成功しているデジタルサービスにおいても同じだと感じています。

例えば、Uber/DiDiなどのライドシェアは一般ドライバーと利用者を結びつけるサービスを展開していますが、随所に「良い成長サイクル」が回る工夫が施されています。

「一般人の車に乗る」という利用者にとって不安かつサービス品質がコントロールしにくい特性を踏まえ、タクシー利用時に利用者からドライバーにレビューを付けてもらったり、配車リクエストへの反応や到着時間・キャンセル率・GPSや加速度センサーを使った安全性などを測定し、ドライバーを評価/フィードバックしています。

この評価結果がドライバーの報酬に影響する構造になっているため、サービス継続につれて利用者が安心して使えるライドシェアとして健全に成長していきます。

他にも身近なところですとAmazonやyoutubeなどもそうだと思います。
成功しているデジタルサービスには「良い成長サイクル」が設計さています。端的に言えば「うまく回っています」。

デジタルサービスを提供することで、定量的なデータを獲得し、そのデータをサービスの発展に活かす循環がデザインできていると、他の一般的なサービスとは時間の経過につれて品質や効率性に埋めがたい差が生じることを、世の中のデジタルサービスは証明してくれています。

そしてこれはデジタルHRでも同じだと思います。

「良い成長サイクル」が設計されていれば、デジタルHRを進めていくにつれてHRの品質や効率性が継続的に改善し、5年10年経過すると大きな差を生むはずです。


しかしながら、
HRの領域は良い成長サイクルから逸脱しやすい落とし穴があり、私自身もふと気付くとここから逸脱して失敗に陥った経験があります。

それらを大きく分類すると3点の落とし穴があると感じています。
次項にてその落とし穴と、そこに落ちるとどうなるかについてお話しします。


2.3つの落とし穴

ここまで「良い成長サイクルが作れるか?」がデジタルHRにおいて重要だという考えを述べてきましたが、HRにはこのサイクルを阻む主な「3つの落とし穴」が存在します。

いずれも少なからず経験してきた苦い思い出たちです。笑


落とし穴1:マルチタスクによる分散

HRの仕事は多岐にわたります。社内のガバナンス観点での動きや、会社を支える人事制度の運営や改定、加えて採用や育成などの未来の資産を作る施策を同時に動かしています。そんな多彩なタスクやミッションを抱えたHRで「データを何に使うか?どの目的で活用していくか?」を議論するとあれやこれやと候補が出てくると思います。

結果、そのような多様なニーズに各々対応していくと以下の状態に陥ってしまいます。

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担当者としてはなかなか辛い状況です。いずれも既存HRのちょっとした改善にしか繋がらず、デジタルHRの可能性を疑いたくなる事象が発生します。

この落とし穴に入らないためにはどうすればいいのか。

先のライドシェアであれば、サービス発展の足枷となる利用者の不安を解消するべく「ドライバーの品質」を改善の中心に据えてサービスの設計をしていました。サービスが継続すればするほど、良質なドライバーが増え、利用者が安心して使えるプラットフォームになることが全体の設計として方向付けられています。

HRにおいてもどんな課題、目的に対してデジタルHRを方向付けるかを固める必要があります。アナログでは解決できないからこそデジタルデータや技術を活用する必要が出てくるので、そういった課題や目的を見つけることが先決だという学びがありました。

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▶︎(参考)セプテーニグループの歩み|個々の効率的な育成にフォーカス

私が所属しておりますセプテーニグループはデジタルマーケティング事業及びメディアプラットフォーム事業を主軸としたインターネットに軸足を置いた企業で、従業員数は2020年3月末時点で約1350名となっております。

そんな当社はインターネットという、経験者の乏しい新しい市場を事業ドメインとしていたため、個々の効率的な育成が成長のキードライバーでした。

そのため、人に対する経営陣の強いこだわりの元、長期的な人材育成基盤の確立を目的として2012年よりデジタルHRに関する研究がスタートしました。研究活動のコンセプトとしてスタート時点より以下の人材育成方程式を掲げてます。

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個性(P)に合った環境(E)を提供することで、個々の成長(G)を加速させる

そういった意味合いを表現しており、この関係性を科学するために定量的なデータを集め、再現性高く個々の育成効率を上げ続けようと経営陣の旗振りのもと、プロジェクトが進んでいきました。
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落とし穴2:再現性の疑わしいデータが多い

HRにあるデータは人が経験則で決めた情報が多く、他の領域と比較し再現性の疑わしいデータが多い状態です。様々な制約条件のもと決定された昇進や給与、上司が付けたABCの評価、回答動機の薄いアンケート結果などがその代表例です。これらを活用することで良い成長サイクルが継続するか、というのはなかなか危ない橋に感じます。先のライドシェアの例でいうと、レビューに不正があったり、GPSの精度が低かったり、ユーザーに飽きられたアンケート結果を活用していた場合、恐らく健全な成長は見込めないはずです。

すなわちHR領域では特に、扱うデータそのものを疑うことから始めなければいけません。言わずもがなデジタルHRの生命線はデータですので、ここが狂ってしまうとなかなか厳しい戦いを強いられます。

この落とし穴に入った時のイメージとしてはこんな状態です。

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これまた担当者としては悲しい気持ちになる不健全な状態であり、デジタルHRって効果ないんじゃないか?と疑問視される危機に陥ります。

この落とし穴に入らないためにはデジタルHRを進める以上、
再現性の高いデータ」へのこだわりを持つ必要があります。

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▶︎(参考)セプテーニグループの歩み|再現性へのこだわり

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人材育成モデルの確立を目指し、肝となる再現性の高いデータの取得に動きました。

最終的に右辺(P×E)の定量化には関係性を科学する理論として高い精度が確認できたFFS(*2)を、そして人材育成の成果指標となる左辺(G)の定量化には従業員の評判が可視化できる当社独自開発のレビューシステム(*3)のデータを、それぞれ活用することに決めました。

*2:株式会社ヒューマンロジック研究所が提供するFive Factors & Stress理論。人が恣意的、無意識的に考え、行動するパターンを5因子で計量し、保有している潜在的な強みが客観的に分かる。

*3:半期に1度、1人あたり平均20名から360度のレビューを受ける。匿名性が担保され、仕事で関わる人に対して部署や役職の境目なく、自由にレビューを付けることができる。

運営するDigital HR Projectというサイト(*4)でも研究レポートとして掲載していますが、いずれのデータも東京大学の研究員の方やAIベンチャー等、社外の有識者の方々との共同研究(*5)を推進しながら精度の追求に努めています。

*4:セプテーニグループの取り組みを社外向けに公開しているDigital HR ProjectのWEBサイト→https://ln.septeni.jp/y8RDZy5

*5:一例として東京大学・鳥海研究室発AIスタートアップの株式会社TDAI Labと共同研究中→https://ln.septeni.jp/9WRDZy5

上記により、
どんな人材(P)がどんな環境(E)でどんな成長を遂げたのか(G)

その再現性の高い成長ログがデータとして表現できる状態になり、PDCAが長期にわたって回転する構造を作っています。一方でも欠けてしまったり、また再現性が低いデータだったりすると、検証や改善が進まず取り組みの成長が期待できないため、扱うデータの再現性へのこだわりは非常に重要だと念頭に置いて活動しています。
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落とし穴3:社員との距離が遠い

最後に3つ目です。HRは社員に対するガバナンスを強化したり、評価をはじめとした人事制度を運営する立場にあるため、比較的社員との距離が遠い場合があると思います。

しかしながら、デジタルHRの源泉となるデータの拠り所は距離の遠い社員一人一人です。

よって、遠くにいる社員を理解しようと様々な調査やアセスメントを活用して社員のデータを集めようとするのですが、距離が遠い分その行為自体に嫌気が生まれ、次第にデータが集まらなくなったり、集まったとしても嫌々やっているためデータの品質が悪くなったりしてしまい、結果的にその取り組みを断念せざるを得ない状況に陥ります。

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こちらも担当者としては、ここまで積み上げてきた努力やデータが無駄になる辛い状況です。

この落とし穴を回避するためには私自身も未熟な状態ですが、取り組み内容やデータ、そしてメリットを「社員へフィードバック」することが重要だと感じています。

当たり前ですが目的がわからない取り組みや自分の役に立たない、何も返ってこないお願いには身近な友人や家族ならまだしも、距離の遠い人の場合は一度でも協力してくれれば良い方です。

先のライドシェアでは自分が受けられるサービスの向上にデータがフィードバックされることが明白だったり、インセンティブがあったり、そもそもデータを先に取得するのではなく、サービスを提供した上で自然とデータをもらう構造になっており、利用者の心理的負荷を配慮した設計になっています。

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▶︎(参考)セプテーニグループの歩み|フィードバックに注力

長らくデジタルHRを推進するにあたり、データやAIなど少し機械的な印象を抱きやすいものを活用するということもあり、一層取り組みの透明性や返報性は重要だという意識から、様々な形で活動に関するフィードバックを進めてきました。

フィードバック内容を大まかに分類すると以下の2つになります。

①目的やコンセプトの共有
取り組み当初より、育成方程式を掲げて「個々の成長を科学する」ことが目的だと明確にするべく社内向けのサイトや全社員が目にする論文投稿、採用選考の過程で詳細に解説するなど、積極的に情報発信を進めています。また、「デジタルHRガイドライン」という形で当社の取り組みの目的や内容を極力明確化してわかりやすくお伝えするWebサイトも作成し、当社にエントリーいただく方に対しても「こんな取り組みをやっている会社ですよ」と確認いただけるように社外にも公開しています。

デジタルHRガイドライン
https://ln.septeni.jp/sCSDZy5

②データのフィードバック
基本的に取得させていただいた情報はご本人のお役に立てる形でフィードバックするスタンスで活動をしています。一方的な情報取得(取得するだけで個々に何らフィードバックがない状態)は、ほとんど皆無だと思います。例えば採用選考時は比較的多くの情報を取得させていただきますが、そういった情報群も選考日の当日〜翌日にお役に立てる形で送付したり、1人あたり50枚程度の分析結果をまとめて直接ご説明したりと、一方的にならないように採用部門が工夫を凝らしてくれています。

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以上、HRに存在する3つの落とし穴について述べてきました。

落とし穴1:マルチタスクによる分散
落とし穴2:再現性の疑わしいデータが多い
落とし穴3:社員との距離が遠い

また、これらに対するセプテーニグループの事例をまとめると、

デジタルHRが進む方向を定め、
再現性の高いデータでの検証/改善にこだわり、
フィードバックを怠らない

となります。

上記はあくまでも1つの事例となりますが、落とし穴をくぐり抜けデジタルHRで「良い成長サイクル」が作れると、時間の経過と共に品質や生産性が向上していくはずです。

また、今回はデジタルHR発展のための概念的な部分を書かせていただきましたが、今後もデジタルHRのファーストステップ、個人情報の取り扱い、分析に有効だったデータの紹介など、具体的な内容も何らかの形でお伝えしていこうと思います。

セプテーニグループで試行錯誤してきた様子を皆様にご共有することで、少しでも多くの会社でデジタルHRが発展し、より多くの才能が発揮されることを切に願い、今後も活動して参ります。


3.おわりに

今回このような投稿をするきっかけを頂いた青田さん、ありがとうございました!青田さんには取り組みがメディアに掲載された際、世間から揶揄されることも多かった中、あたたかいフォロー頂いたことが今でも印象的です。本当にありがとうございました。

参加させて頂いたHR Advent Calendar 2020はこちらから↓
https://adventar.org/calendars/5673?fbclid=IwAR0sBt2HJB2AIDC6V8FtIqoK4f7OD6xtdceitpyAbj9EL3CEU7PAmi16D54

また、常日頃一緒にデジタルHRの可能性を信じて活動していただいている皆様、そして、世の中に前例が少ない中、様々な取り組みを寛大に受け止め、あたたかな支援をくださるセプテーニグループの皆様、いつも本当にありがとうございます。

向こう40年で生産年齢人口が40%も減ってしまうこの成熟国家において、また、昨今のコロナをきっかけとしたデジタルシフト、働き方の変化が急速に進んでいく中、デジタルHRが果たす役目は大きくなると感じています。

その際はこれまで以上に多くの方々にご協力をいただきながら、社会課題の解決に貢献できるよう勤しんで参りますので、今後ともみなさまよろしくお願い致します。

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