審査員インタビュー 野上麻理氏:オープンイノベーションと『TOKIWA Lab.』
審査員としてTOKIWA Lab.に参画する理由
オープンイノベーション×美容業界
お客様に喜んで欲しいと考えている人は、自分だけではできないということを同時に感じていると思います。技術を持っている会社やブランドの会社、私が働いているメーカーは、最終的なゴールに到達したいと考えた時に、自社にあるノウハウだけではどうしようもないような課題が出てきてしまうんです。だから、多くのメーカーや技術を持っている会社でも、オープンイノベーションには取り組みたいと思っています。
普通、メーカーがオープンイノベーションをするとなったら、具体的に作りたいものがあって、協業先を探します。しかし「TOKIWA Lab.」は「ビューティ」という領域のなかで考えうる、様々な形のアイデアを持ってきてくださいという、思い切った公募をしていますよね。そういう呼びかけに対してどのような人がどのような形で応えてくるのか、審査員として見たいという気持ちがありました。
あとはやっぱりビューティーは面白い!楽しいものなので、そもそもビューティがすごく好きというのがあります。この2点がわたしがTOKIWA Lab.に審査員として参画する主な理由です。
第1回を通して見えた、TOKIWA Lab.の魅力
アイデアを育てる「TOKIWA Lab.」
期待していた以上に面白かった!というのが最初の感想です。
そして、びっくりするくらい審査員が前のめりで真剣でした。審査って、どうしても「選ぶ」ということを念頭においていて、良いところ・悪いところを見つけ、点数化するだけで終わってしまいがちです。でも「TOKIWA Lab.」は、アイデアに対してアドバイスするというのが、選ぶことよりも先にあります。アイデアのいいところをどう伸ばしていけるのか、このアイデアを土台にしたら、次はどこまで持っていけるのか。採択する・しないに関係なく、審査員がとても真剣に検討します。「TOKIWA Lab.」は選ぶ機能だけではなく、選考のプロセスを通して、アイデアを育てる機能があるということが審査を通してよくわかりました。
審査をしていると、評価基準に対して満点のアイデアを出してくる人って正直あまりいないんです。最後に残って採択されたアイデアも、バランスがいいよりも、尖ったものが多かったように思います。でも、尖っているアイデアって、とてもいいところがある分、どうしても「ここはちょっと無理じゃない?」みたいな部分があるんです。「TOKIWA Lab.」の良いところは、そのような部分に対して多方面からアドバイスをする体制ができているところだと思います。審査員には、ご自身が創業・企業されている方やマーケティングやブランディングのプロ、トキワで実際に技術開発をされている方々がいます。
“TOKIWA Lab.”は、実現化を前提に審査をしている”
様々な方面のプロフェッショナルが、一つのアイデアに対して様々な方向から意見を出し合っていく中で、そのアイデアの凹凸が埋まっていく感じがありました。様々なジャンルのエキスパートがそれぞれの観点から意見し話し合っていく中で、納得して採択に至る。私一人の目線では「難しいかな?」と思ったアイデアも、審査員の方々の意見を聞いていたら採択されるべきポテンシャルがあるとわかってくるんです。
あとは、選びっぱなしにしないところも、「TOKIWA Lab.」の素晴らしい点です。応募型のプログラムは、審査の過程が本当に大変なので、選びっぱなしになってしまう、なかなか共創に着手できないということがあると思います。でも「TOKIWA Lab.」は、金井さん(TOKIWA Lab.代表)が採択後にしっかり伴走していて、進捗がある。宮地さん(第一回採択者シンクランド株式会社代表)がウェビナーで「選ばれた後が大変です」とおっしゃってましたが、実現に向けて動いているということですから、それってとても良いことだと思うんです。選ぶだけではなく、真剣に共創していく、これはTOKIWA Lab.の魅力のうちの一つだと思います。
野上氏ならではの審査基準
事業の理念とその持続可能性
「TOKIWA Lab.」の体制は、どんなアイデアでも持って来たらいい感じにするよ!というものではなく、何か光るところがあったら、そのアイデアをなんとか実現化しようするというものです。それならば当然、エントリーをする方も「とにかくこれには自信がある」ですとか「どうしてもこれがやりたい」というような強みや覚悟が必要です。
6つある評価軸の中で、尖った強みがあることに加えて、どうしてもこれをやりたいんだっていう強い思いを持っていること、この2つが重要だと考えています。事業を続けるにあたって、最初の思いはとても大切です。そしていかにその思いにこだわり続けるかというのもとても大事です。ブランドというのは常に、変えてはいけない部分と、変わって行かなくてはいけない部分のせめぎ合いなんです。長く続いている強いブランドっていうのは、絶対に変わらない部分と、新しい驚きを常にミックスして進化していく。理念は強く、そしてどんな形で理念を実現するのかという部分では柔軟性を持っているアイデアが、持続可能性のあるアイデアなのだと思います。
TOKIWA Lab.6つの評価軸
例えば前回採択社ユーブロームさんは「弟のアトピーにアプローチしたい」という気持ち、メディアジーンさんは「SDGsな化粧品を造る」というとても強い理念、シンクランド さんは「このテクノロジーで今までになかった効果を出したい」という理念をお持ちでした。その強い理念を様々な形で実現するのが、持続可能なビジネスのあり方だと思います。理念の持続可能性も、審査のときに見ているポイントです。
審査員同士でアイデアについて話し合いをしていくなかで、しっかりした思い・理念があって、それが誰かの共感を呼んで、「それだったらこんな風にもできるんじゃないか」と次の展開を想像させるアイデアって、「それだったら手に取ろう」と思える商品につながるんだと感じました。プログラムに参加した時点での商品の完成度よりも、ブレない軸、ブレない理念がある方が、サポートする側としては重要なのだと思います。
あとは、審査の過程で審査員からアドバイスをもらって、それに食らいついていけるかもポイントになってくると思います。だから、エントリー時点でできないことが多いのは問題ではなくて、アドバイスをもらったときに、それを踏まえて自分のアイデアをなんとかしようとできるか。審査の過程の中でも自分が動けるかも大切だと思います。
野上氏がTOKIWA Lab.に参加するとしたら
第1回TOKIWA Lab.を通して気づいたビューティの課題
前回審査員をしていて、メディアジーンさんが指摘していた「化粧品が余ってしまうという問題」は、核心をついているなあと思いました。「私たちが化粧品を置いているところには、もう使わない口紅が山ほどある、これはなんとかしなくてはけない」というのをSDGsの方向性の一つとしてお話になっているのを聞いて、本当にそうだなと。
買う時にワクワクして買ってしまって、使い切ることができない化粧品って本当に多いですよね。私もそれをすごく実感しているので、今私がプログラムに参加するなら、買った後の化粧品のことを考えた、クリーンビューティ寄りの商品アイデアを出したいです。お料理とかだと、余ってしまった調味料を消費するためのアドバイス動画とかがありますよね。購入してもらうことだけではなく、しっかり長く、楽しく使用してもらうことを目的とした商品を考えたいですね。去年の採択社であるメディアジーンさんもプレゼンのなかで「購入したい!手元に置きたい!」だけではなく「使いたい!」という思いを起こさせることのできるような商品を作りたいとおっしゃっていて、とても素敵だなと思いました。
TOKIWA Lab.への参加を考えている方へ
迷っている方ほど応募して欲しいです。TOKIWA Lab.は、育成型の珍しいプログラムなので、やりたいけど自信がない、やりたいけど、自分の書いた応募資料ではまだ全然足りないと分かっている、そんな人にも、そのままの形でいいから、とりあえずぜひエントリーしてみてください!
野上麻理氏:
大阪外国語大学(現 大阪大学)を卒業後、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパン株式会社へ入社、マーケティングに従事。第一子出産後、SK-IIブランドマネジャー、東アジアスキンケアマーケティングディレクターに就任する。第二子出産後は、マックスファクタージャパン(P&Gスキンケア・化粧品事業部)プレジデント、P&Gブランドオペレーション&マーケティングヴァイスプレジデントを勤め、2012年にアストラゼネカ株式会社プライマリーケア事業本部長に着任。2014年7月より執行役員マーケティング本部長として国内全製品のマーケティングを統括した後、2015年7月からスウェーデンのヨーテボリにて、グローバルポートフォリオグループの呼吸器領域・吸入療法製品(シムビコートおよびパルミコート)のグローバルブランドヘッドに。 2017年7月帰国後はアストラゼネカ株式会社の執行役員コマーシャルエクセレンス本部長、呼吸器事業本部長を経て2018年9月より武田コンシューマーヘルスケア株式会社(現 アリナミン製薬)にて取締役社長を勤め、2021年4月より同社副会長。趣味は読書、ランニング、トライアスロン
インタビュアー:TOKIWA Lab.運営インターン 平内茉莉
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