過激派の人たちはどのような人たちなのか?
お世話になっております。津島結武です。
このたびは,「過激派典型尺度 (Extremist Archetypes Scale; Obaidi, M., Skaar, S.W., Ozer, S., & Kunst, J.R., 2022)」という,過激派が具体的にどのような性格を有しているのか測る尺度が,オスロ大学によって開発されたため,それを紹介したいと思います。
この尺度によれば,過激派の典型は,"Adventurer (冒険家)","Fellow Traveler (共鳴者)","Leader (指導者)","Drifter (漂流者)","Misfit (犠牲者)" の5つに分けられ,それぞれおおよそ相関しているようです。
今回はそれらの特徴をメインに紹介できたらと思います。
今回参照した論文は以下です。
'Measuring extremist archetypes: Scale development and validation'
過激派って?
「過激派」という言葉を聞いて,これがどのようなものなのかを容易に想像できる者は多いでしょう。
そのような人たちはこの見出しを読む必要はありません。
しかし,一応読者との齟齬がないように簡潔に説明しておきます。
実は「過激派」が何なのかに関して学術的に客観的な基準は存在しません。
分野によっての定義はあるだろうが,それは他の分野では異なる場合もあるし,時代や文化によっても変わってきます。
また,いわゆる昭和期に学生運動を行っていた団体や特定の政党など,特定の団体に対する総称として用いられることもあります。
しかしここでは一般的な意味,つまり「暴力などを代表とする過激な方法で,主義,理想を実現しようとするグループ」を過激派として説明していきます。
過激派の5つの典型
さて,今回の研究で開発された「過激派典型尺度」ですが,それらで抽出された典型は初めて発見されたものではありません。
これからは,先行研究と今回の研究でわかっていることを紹介していきます。
また,典型とは言っても,「○○に当てはまるから,××には当てはまらない」というものではなく,5つは連続的なものとされています。
そこを留意してください。
Adventurer:冒険家
冒険家タイプは,主に興奮や英雄的戦士になる機会を得るために暴力的過激派に関与する人たちです。
このような人たちは,危険と興奮が際立つ状況を欲するため,自殺テロ,政治的動機による組織暴行などへの意志と正の関連があります。
また,興奮を求めるという意味で外向性や,新しさを求めるという点で開放性が高い。
(外向性,開放性はビッグファイブと呼ばれる性格検査に含まれる因子であり,ほかに誠実性,協調性,神経症傾向などがあります。これらの用語は今後も頻出するため,wikipedia等を参照ください)
しかし,イデオロギーや偏見,民族意識,ダークトライアドとは関連しておらず,このことから冒険家タイプは「過激なことをすること」の魅力から暴力的過激派に関与していると考えられます。
(ダークトライアドについては以下を参照)
また,冒険家タイプは誠実性,恐怖,不安,慎重さと負の相関をもつことから,恐怖や不安,ストレスに強く,衝動的に行動し,過激なアイデアを受け入れてしまう性格だと考えられます。
この点はダークトライアドの一つであるサイコパシーとよく似ていると思いますが,それでも関連はないんですね。
Fellow Traveler:共鳴者,同調者,旅の仲間
共鳴者タイプは,帰属意識,友情,受容の概念によって過激派に関与している人たちです。
このような人たちは,居場所や自分の存在価値を求めて過激派組織に所属しているだけであるため,暴力的な行動の意図とは負の相関を示しています。
ただし,これは文化や価値観にもよる可能性があり,実際にイスラム過激派の共鳴者タイプは急進主義的意図と正の相関があります。
また,共鳴者タイプは民族意識が強いことがわかっています。
さらに共鳴者タイプは平等主義で寛容です。
このことはほかの典型と区別されます。
さらに感情性と誠実性と正の相関をもっており,これは以下の傾向を示すものでした。
感傷性:他者と強い情緒的絆を感じる
依存性:快適さを与えてくれる人と困難を共有したがる
組織性:秩序を求める
恐怖性:身体的危害を避ける
さらに共鳴者タイプはナルシシズムとわずかに正の相関を示しました。
なんとなく,新興宗教にハマりやすい人のような印象がありますね。
Leader:指導者,リーダー
指導者タイプは,高学歴で機知に富み,宗教的・政治的理念に突き動かされている人たちです。
その有能さにゆえ,テロ攻撃の計画で重要な役割を果たしています。
ただし,自ら暴力を振るうことはあまりないようです。
まさに黒幕っぽさがありますね。
また指導者タイプは外向性,誠実性,開放性と正の相関を示しました。
非常に魅力的な性格の組み合わせで,指導や演説,カリスマ性に優れているということがわかりますね。
さらに,ナルシシズムが高く,謙遜性が低いというところから,かなり大胆に行動できる性格というのがわかります。
Drifter:漂流者,流れ者
漂流者タイプは,帰属,承認・受容を必要として過激派組織に関与する人たちです。
これは共鳴者タイプとよく似ていますね。
しかしこれは,暴力的過激派を支持し,暴力意図が高いという点で異なります。
また,正直・謙遜,協調性,誠実性と負の相関を示すことは想像にがたくありませんが,意外なことに外向性とも負の相関を示しています。
さらに外向性や協調性のなかでも「活気」「優しさ」「社会的自尊心」と強い負の相関を示すことから,漂流者タイプは暗く,無気力で,他人嫌いで,自分にも価値を見いだしていない人と考えることができます。
また,「慎重さ」「公正さ」と負の関連をもつことから,衝動的で,非倫理的な特徴ももっていると考えられます。
しかも,ダークトライアドすべての次元(すなわち,ナルシシズム,マキャヴェリズム,サイコパシー)と正の相関をもつことから,非常に性格的に問題があるとも思われます。
したがって,漂流者タイプは過激派集団のなかでもあまり信頼されないようです。
Misfit:犠牲者,ミスフィット
犠牲者タイプは,社会的に苦悩した背景があり,怒りや攻撃性といったネガティブな感情から過激派に関与する人たちのことです。
彼らは正直・謙虚さ,外向性,誠実性と負の相関があり,漂流者タイプとよく似ているが,開放性と負の相関を示しているという点で異なっています。
これは,犠牲者タイプが急進的で型破りな考え方に興味を示していないことが示唆されます。
また犠牲者タイプはダークトライアドすべてと正の相関があります。
彼らは社会的に追いやられることによって,かなりねじ曲がった性格になってしまったのではないかと考えられますね。
ここまでを簡単にまとめると,
冒険家:興奮や英雄的戦士になることを求める戦闘狂
共鳴者:居場所や自分の存在価値を求める依存型
指導者:高学歴で機知に富み,宗教的・政治的理念に従うカリスマ
漂流者:根っからの性悪で困ったちゃん
犠牲者:社会的に排除されてきたために外の世界に嫌悪を抱く復讐者
といったところでしょうか。
過激派典型尺度
さて,ここまで過激派の典型を見てきて,自分に当てはまるものがあるのではないかと不安になった方もいると思います。
そもそもどうやって測るんだと疑問に思う方もいるでしょう。
そこで,最後に「過激派典型尺度」で自分の典型を測ってみましょう。
もちろん,得点が高かったからといって,あなたが過激派であるとは限りませんので,そこだけ注意しましょう。
多くの人は,政治的な問題について何らかの意見を持ち,特定の政治運動を支持していることが多いと思います。
以下の質問に答える際には,あなたが所属している,あるいは親しみを感じている政治団体や運動を思い浮かべていただきたいと思います。
あなた自身に関する様々な記述にどの程度同意するか,お答えください。
回答は1(強く反対)から7(強く賛成)の点数で答えてください。
強く反対
反対
やや反対
どちらでもない
やや賛成
賛成
強く賛成
といった感じで答えてください。
あとで計算もするので,各得点はメモしておきましょう。
私はリスクを恐れないグループメンバーとして知られています。
私は危険を恐れないグループメンバーとして知られています。
私は私のグループに所属している他の誰よりもリスクをとることを辞しません。
他のグループメンバーは私をスリルと冒険が好きな人間だと思っています。
私は冒険とアドレナリンをもたらすグループが好きです。
私は他のグループメンバーに,私がリスクをとるのを恐れないことを示すのが好きです。
私は私を受け入れてくれるグループを探そうとしています。
集団に所属するためなら,私は頼まれたことは喜んでやります。
私はグループのなかで「流れに身を任せる」傾向があります。
私は所属しているグループは,私の人生に安定を与えてくれます。
私はしばしば他人から紹介されたグループに参加します。
私はグループの人たちが私に必要なものを与えてくれる限り,そこにとどまります。
何度か,私は突然グループを抜けることを決意し,新しいグループを探したことがあります。
私はこれまでずっと,所属するグループを見つけるのが難しいと感じていました。
私が所属していたグループを別のグループに置き換えただけということもありました。
私が一つのグループに長く所属することはほとんどありません。
私はこれまで何度もグループを変えてきました。
私は他のグループメンバーより飽きっぽいです。
ほとんどのグループメンバーが私をリーダーだと思っています。
あるグループで,私はしばしばリーダーの役を務めます。
ほかのグループメンバーは私を頼りにします。
私はしばしば,所属しているグループで戦略的な計画のほとんどを行います。
私はグループの中心的な立場に立っています。
大抵,他のグループメンバーは私の言うことを聞きます。
私はしばしば「盲目的に」グループに従います。
私は自分の所属しているグループのためなら,自分の信念を変えることも辞しません。
私はグループに受け入れてもらうためなら何だってやります。
私は自分のグループ外の人のことはほとんど気にしません。
私はグループのことを第一に考え,自分のことは第二に考えています。
私がこのグループの一員になる前は,人生に明確な方向性をもっていなかった。
おつかれさまでした。
次に各因子の平均点を求めていきます。
以下に各因子の平均 (M) と標準偏差 (SD) を示しておきます。
1~6:冒険家,M = 3.02, SD = 1.42
7~12:共鳴者,M = 4.37, SD = 1.01
13~18:指導者,M = 3.46, SD = 1.40
19~24:漂流者,M = 3.02, SD = 1.07
25~30:犠牲者,M = 2.61, SD = 1.03
これはあくまで尺度であるため,何点になったら○○だっていう基準はないのですが,平均を超えたらまあ高いかな,標準偏差の範囲を超えたら低い or 高いってくらいには判断できると思います。
僕の場合は,
冒険家:3.33,平均より上
共鳴者:4.00,平均より下
指導者:2.33,平均より下
漂流者:2.50,平均より下
犠牲者:2.83,平均より上
といった感じで,まあ平均程度な結果になりました。
この尺度の限界は,日本人はそこまで政党などに帰属していないっていう点と,日本人の文化に適応できるかっていう点,あと僕が素人能力で翻訳したっていう問題点があるので,あくまで参考の参考程度にしか使えないってところですね(つまり遊びでしか使えない)。
だから無意味ってわけではなく,日本人用に改変し,妥当性等を検討すれば利用価値が上がるので,その土台にはなります。
まあ,標準偏差より高い平均値を出しちゃった人は,集団に所属したときに過激にならないよう気をつけようってことを頭の隅に置いておきましょう。
ではまた~。
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この記事は厳密には論文の解説ではなく,論文を基にした考察です。
なかには間違いも含まれている可能性がありますので,そのような点にお気づきになった場合は遠慮なくご指摘ください。
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