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東京ドーム公演中止:Perfumeに見る安心・安全なコミュニティ

Perfumeは2年ぶりの全国ツアー『Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome』。東京ドームでの千秋楽が新型コロナウィルスの影響により中止となりました。当日の政府要請を受けて、苦渋の決断だったと思います。一方で結果的に最終日となってしまった2月25日の公演からは、この異常事態にこそ際立つコミュニティの力のようなものを感じたのです。

 大阪、福岡、名古屋と巡った4大ドームツアーの最終地、東京ドームでの公演は2月25日と26日の2日間の予定だった。新型コロナウィルスの拡まりを受けて、前日には希望者に対するチケットの払い戻しが案内される。5.5万人が集まる会場に、ウィルスが蔓延しかねないことは専門家でなくとも容易に想像がつく。

 それでも初日、夜6時半の開演に合わせて次々と埋まっていく客席は、チケットを払い戻した人がそれほど多くなかったことを表していた。もちろん皆、マスクを着用済み。稀に持っていない人がいると、隣の人が自分のストックを譲っている姿を目にする。全世界的に在庫が不足する中、自らの感染を防ぐ目的があるにせよ、貴重なマスクを他人と分け合う光景には少し驚かされた。同日、横浜ではマスクの奪い合いから、傷害事件も起きているのだ。

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 同じアーティストを応援するファンとして、同じライブを楽しもうとする仲間として、この場には帰属意識にようなものが宿るのだろうか。本ツアーに先立って発売されたベストアルバム『Perfume The Best "P Cubed"』の特典ブックレットの中で、メンバーのかしゆかは「(ファンのことを)何年やってきても鏡だなと思います。自分たちに相応のファンの人がついてくれるという気がするんです」と語っている。そう、圧倒的な信頼関係を元に、ストイックなパフォーマンスを続ける彼女たちのファンは、その姿勢を裏切らないように礼儀正しい。

 例えば公演終了後にSNSを見ても、当日のセットリストは一切流れてこない。ツアーの最終公演が終わるまではそれを内密にすることがルールになっているそうだ。ライブ中のMCコーナー、恒例のあ〜ちゃんによるアンケートによれば、当日の会場には幼児から60代を越えるまでの幅広い世代が集まっていた。それでもこの緩やかな情報統制が徹底されているとすると、安心・安全の観点からも驚くべきことだ。これからのコミュニティを描く上でのヒントとなるだろう。

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 2019年4月、Perfumeの出演が話題となったコーチェラ・フェスティバル(Coachella)で全米の注目を集めたのがヒップホップミュージシャンのカニエ・ウェスト(Kanye West)だ。彼がこの年に始めた日曜礼拝(Sunday Service)と呼ばれるイベントが当日、イースターも相まって盛大に執り行われたのだ。アフリカン・アメリカンの歴史においてキリスト教、特に教会コミュニティは重要な役割を果たしてきた。だから、彼らがその発展に大きく寄与したヒップホップにも、ジャズにも、教会音楽であるゴスペルの要素が色濃く残る。カニエの動向を原点回帰と捉えればそれほど不自然ではないけれど、影響力の大きい彼は、信仰をビジネスに使っている、と一部で揶揄もされている。

 このタイミングにて、それ以外のジャズの世界でも、例えばベッカ・スティーヴンズ(Becca Stevens)やジェイコブ・コリアー(Jacob Collier)といったアーティストが、いわゆる賛美歌を思わせるコーラスに着目するのは偶然なのだろうか。物的な豊かさに飽き、心の安らぎを求める社会はマインドフルネスを志向し、ヨガや瞑想に傾倒する。それらと信仰とのつながりは言うまでもなく、自分自身と向き合うことが他人との関係性に波及する。彼ら彼女らの音楽を中心とするファン同士の緩やかなつながりに、寛容なコミュニティが立ち上がることだろう。

 それは必ずしも宗教的なものの媒介を必要とするわけではない。歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)がホモ・デウスと呼んだように、高度に発達したテクノロジーを纏う人は神をも凌ぐという考えもある。世界的に高い評価を受けている技術アート集団、ライゾマティクス(Rhizomatiks)の演出によって、テクノロジーを操るPerfumeがそこに近いとすると面白いではないか。彼女たちのパフォーマンスと同期して東京ドームのアリーナを動き回るCubeは、おそらく高精度な屋内位置情報システムによって制御されているはずだ。

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 ファンはアーティストを映す。互いに競い合ってばかりのアイドルグループでは、そうもいかないのかも知れないけれど、メンバーやチームを信頼して共に世界を切り開こうとする人々の周りには、それを支える健全なコミュニティが生まれてくる。ここに対する帰属意識が参加者の行動様式をも変えていくのだとすると、不確実性の高い時代にはそんなコミュニティが求められることだろう。

つながりと隔たりをテーマとした拙著『さよならセキュリティ』では、「12章 心と身体 ー無意識のセキュリティ」において、セーフティネットとしてのコミュニティついて触れております。是非、お手にとっていただけますと幸いです。


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