クライミングと肘の痛み2


 以前、保持の主動筋である浅指屈筋が原因となる可能性がありますよ、という記事をあげました。

 今回は、別の要因でも肘の痛みが起こりうるということについて記事にしようと思います。

 まず、肘の内側に関して。肘の内側の靭帯は「複数の腱による複合組織」という特徴があります。
 肘の内側を構成している筋群は「円回内筋」「尺側手根屈筋」「浅指屈筋」「上腕筋腱内側」 これらを総称して「屈筋回内筋群(FPM)」と呼びます。

 

右肘を内側から見た図 屈筋回内筋群

 今回は、肘を曲げる時に最大のトルクで寄与する「上腕筋」について述べていこうと思います。 (以前インスタグラムのストーリーで投稿したものを記事にしていますので、インスタグラムを見てくださっている方は既視感があるかもしれません)

 上腕筋は、前腕が回内(懸垂するときのポジション)で活動しやすい筋肉です。懸垂した時の最後の場面で痛みが出る場合は、この上腕筋のからの張力も影響しているため、前腕部のケアだけではなく上腕部のケアも必要になります。
 
 また、上腕筋は三角筋後部繊維から連続するとの報告があります。
 (ここから先は拡大解釈になっていますので、本当にその可能性があるかは分かりません)
 懸垂の動作やロックが必要な場面で肩甲骨を下げきれずに広背筋が効きにくい場合、三角筋後部繊維が肩を引く作用を強めます。この三角筋で引く動作が優位になっている場合、上腕筋への張力も増大すると考えられます。
 
 つまり

「肘を曲げるために上腕筋が強く活動」+「三角筋後部からの張力の増大」という、2重の牽引ストレスにさらされます。


 このような場合は上腕だけに限らず、肩甲骨が下に引きにくい原因を探る必要性が出てきます。肩関節や肩甲骨の柔軟性や筋機能まで確認する必要があります。


 腱を強化する、治療していく原則は「負荷と許容量」のバランスです。「Load vs capacity model」と呼ばれます。これは何回か別の記事でも出していますが
 「回復途中の腱組織が壊れない程度の負荷を与え、その張力への適応を促し、それよりも少しだけ強い負荷を与えて、さらに適応を促す」ということが基本になります。

 このような硬さを「腱スティフネス」と呼びます。これを少しずつ作っていきたいのですが、ハーフクリンプや懸垂というのはそもそも負荷が強いのです。そのため、もしも一度肘を痛めてしまい、全く登れないという状況になれば、ダンベルやウェイトを使用して、強くない・強くならない痛みの範囲で強度を上げていくことが必要になります。
 筋腱の柔軟性が良くなれば、神経系の働きも相まって痛みが抑制されますが、組織の回復というのは絶対に時間が必要です。

 まずは痛めないように。ということが大事ですが、痛めてしまった場合は「徐々に焦らず」。

 肘の内側は構造が複雑ですので、痛めた時にどの筋群が最も主要因になっているかを探る必要があります。今回は「上腕筋が原因になるかもしれない」というテーマで記事を書かせていただきました。

 今までの肘の痛みは、内側の痛みにフォーカスを当てていましたが、次は外側の痛みにも触れていきます。エルボーバンドを巻くと痛みが楽になるパターンの肘の痛みです。
  
 

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