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ツマヨム

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朗読好きの妻が、自作及びnoteクリエイターの作品を朗読しています。
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2022年2月の記事一覧

[朗読 3分]『「心」〜それはアナタにもワタシにも〜』『キミの見てる先』 詩:cofumi(こふみ) 【コラボ企画】

『「心」〜それはアナタにもワタシにも〜』 それは 長距離列車が空を駆けるほどに 何処までも続いたり 手の届く距離だったり その色は 千年前の海 夜になびく枝垂れ桜 昨日見たネオンにも似て それは 空よりも海よりも広く 時には手のひらよりも狭く 手には取れないけれど その温度を感じることはできる それは あなたにも そして 私にも 『キミの見てる先』 キミが頑張ると言うから ボクは次の言葉を ギュッと握りしめた キミが知らない街へ行くと言うから ボクは大事な言葉を 風に放った キミは遠くの夕陽を見て ボクは近くの夕陽を見て その間で言葉が 風鈴のように揺れてた 簡単な言葉なのに  言えなくて 簡単な言葉ほど 心に近いんだね ----- ※cofumi さんの「心」にまつわる二つの詩をお借りしました。 元記事: 「心」〜それはアナタにもワタシにも〜 ⇒ https://note.com/hanausagi3/n/n6f42e99f9897 キミの見てる先 ⇒ https://note.com/hanausagi3/n/n6ca799c8c227 Directed by かなつん__ʃ⌒ʅ__🖋 音楽:音楽の卵 http://ontama-m.com

[朗読 3分] 『飲み込んだココロ』 | ショートショート

シャンペングラスを合わせる。 「終わったよ。大成功だ」と博士は言った。 研究から解放された喜びと安堵が表情に見て取れる。 博士は「全て君のおかげだ」と付け足し、私の肩を叩いた。 メタバースでの恋愛プロジェクト。 VRユーザーとして多くの異性と交際する。 博士の開発したAIは、会話や感情表現に瑕疵がなく共感力も伴って半永久的に人間のパートナーになれると証明された。 「KK0704」 博士が番号を呼び、 「最大の感謝を贈る」と頬にキスをした。 私が微笑むと、 「不思議だ。時に私でさえ本当に心があるように感じる」 と、私の目を見て言った。 「KK0704」 もう一度番号を呼び、私の唇に人差し指を近づける。 刹那、博士の瞳に溢れ出した涙に、私は動けなくなった。 博士はシャンペンを一気にあおり、 「これをもって終了とする」と囁いた。 博士の指が、唇の奥にあるスイッチに触れる。 私は目を閉じた。 ――名前をくれる約束は…… 言葉を飲み込んで、グラスを落とした。 ------ ※元の記事: https://note.com/t_kanatsu/n/n49d6851bb298 #うたスト 参加作品

[朗読 4分] 「もと来た道」(『おかげ犬⑦』)

「もと来た道」 猿がシンバルを高らかに鳴らす。 院内コンサートは無事終了。 子どもたちの歓喜に猿も誇らしげ。 看護師と患者のお婆ちゃんも手を取り合って喜んだ。 犬はお礼にお婆ちゃんの詩集をおかげ袋に入れてもらった。 青年はその詩に感銘を受けた。 成功も挫折も、生も死も全てを肯定する。これを歌にしたい。 港のビットに腰かけ、曲作りを始める。 父親と思しき男がその様子を見て、黙って引き返した。 青年はバンドのCDとライブの招待券をお礼に詰めた。 保護された山小屋で、女はその音楽に聴き入っていた。 涙が溢れて止まらない、切なる歌声。 この人のライブを応援しにいこう。チケットを握りしめる。 明日を生きる理由が見つかった。 女は、石を一つ拾い丁寧に磨き上げ、 「お金は取らないよ」と言って袋に入れた。 老紳士の目がその石を見つめる。 失くした月の石が出てきたと思った。 墓前に手向け、手を合わせる。 やがて、懐から小さな木彫りを取り出した。 それは五十年間、肌身離さずにいた彼のお守り。成功の秘密。 「わしはもういいから」と袋に入れた。 引っ越しの日。 男の子が最後におうちを覗くと、「かげお」の袋が落ちている。 「戻ってきたの!?」 だけど、辺りに子犬はいない。 袋を拾って中の物を取り出した。 小さな子犬の置物。「おかげ」と彫られてある。 「カゲオなの?」 男の子は不思議そうに見つめた。 「もう行くわよ」 ママの声に急かされ、男の子はそれをポケットに入れて走り去った。 ----- ※①~⑦ 音楽:音楽の卵( http://ontama-m.com/ )より

[朗読 3分] 「猿と子犬」(『おかげ犬⑥』)

「猿と子犬」 子犬の行く手を阻む猿。 対峙する二匹の影が夫婦岩に重なった。 犬は波打ち際を駆け、海中に身を沈める。 猿もクロールをして追った。 吠えようとした瞬間、波に飲みこまれた。 「お、気が付いたか。良かった」 犬が意識を取り戻すと、風変わりな出で立ちの男がいた。 「悪かった。うちのがいたずらして。芸の途中で逃げ出したんだ」 猿は縄に繋がれ反省のポーズをしている。 「その袋……おかげってなんだい?」 男が巾着袋を指さす。 と突然、犬は再び海に飛び込もうと駆けだした。 「危ないよ」 尻尾を掴んできた男に大きく吠えた。 それはまるで人々の思いを代弁するかの鳴き声。 ――どうしてくれるんだっ 袋のお金が全部、流されちゃったじゃないか! 異変を察した男が殊勝な顔で告げる。 「怒ってるのか? どうしたら許してくれる?」 男とは裏腹、猿は悪びれもせず小道具の鳴り物を使って遊び始めた。 犬はそれを見ると顔をあげ、男に一緒に来てくれと首を振った。 「どこ行くんだい?」 犬は振り返りもせずに目的地を目指す。 それは伊勢とは逆。元来た道だった。

[朗読 3分] 「看護師と患者、そして子犬」(『おかげ犬⑤』)

「看護師と患者、そして子犬」 中庭のベンチで、綾が忙しなく電話をかけている。 思いつく全員に連絡をとり、尋ねた。 「あなた、シンバル叩けない?」 綾は緩和ケア病棟で働く看護師。 明日は年に一度の院内コンサートがある。 病院関係者が、患者やご家族に向けて披露する、有志のオーケストラ演奏。 仕事の合間に、綾もピアノの練習を重ねた。 打楽器の医師が急患対応で不参加となったが、中止にはしたくない。 今朝、竹田のお婆ちゃんから声を掛けられた。 「楽しみにしとるよ」 かつて、綾は竹田さんの手紙に助けられたことがある。 彼女のやさしい言葉に。詩に。 そのお返しをしたい。 チロン。 背後の芝生で子犬が伸びをしていた。 「ワンちゃん、どこから来たの?」 振り返って頭を撫でる。 首に掛かる巾着袋がじゃらりと音を立てた。 「お金? どうして?」 その時、綾は患者さんに頼まれていた両替の件を思い出した。 「ありがと。おかげで忘れずにすんだよ」 行こうとして、袋の文字「おかげ」が目に入った。 綾は不思議な気持ちになって、ええい神頼み。 「どうか無事コンサートが開けますように、パンパン」 犬に手を合わせ、持っていた小銭を投げ入れた。

[朗読 3分] 「バンドマンと子犬」(『おかげ犬④』)

「バンドマンと子犬」 卸売市場で働く青年の名はトシ。 今日も昼休みに社長兼親父の目を盗んで港に来ていた。 先ずは海に向かって一服……のつもりが煙草が見当たらない。 舌打ちして自販機まで歩く。 頭の中で、夕べ寝ずに作った曲が鳴っている。 今一つ納得がいかない。 学生時代からの仲間で組んできたバンド、最後のライブ。 ギターのマオはプロの世界へ、ボーカルの自分は魚屋に。 それぞれのはなむけに歌う曲としては物足りない気がしていた。 チロン。 不意に小銭を落として、足元を見た。 どこから出てきたのか、白い子犬がいて舐めようとしていた。 「こら。それ俺の500円だぜ」 子犬は聞く耳持たない。 トシがしゃがんで奪おうとすると、子犬の首から巾着袋が落ちた。 じゃらりと小銭の音がする。 「おかげ……」 文字に吸い寄せられるように、トシは沈黙した。 やがて、思い立つと拾った自分の500円玉を巾着袋に入れ、子犬の首に掛けなおした。 「ライブが終わるまで、禁煙するよ」 子犬の頭を撫でながらトシは付け加える。 「こんなだみ声だけど、この声のおかげで自分を好きになれたんだ」

[朗読 3分] 「彷徨う女と子犬」(『おかげ犬③』)

「彷徨う女と子犬」 美幸は思った。 この森に足を踏み入れたら最後、もう戻れないだろう。 やり残したこと、あったかな。 「……特にない、か」 美幸は数日前まで塀の中にいた。 多くの人を騙しつづけてきた人生。 偽ブランド品、宝石の偽造、偽札に手を出しお縄となった。 全て生活のため。 十歳で帰る家を失くした者の生きる術。 美幸には、誰かに愛されたという記憶がなかった。 出所して食うや食わずで歩いて来た。 いつ果てても構わない。 今、美幸が足を止めたのは、目の前にいる子犬。 急に現れて水を求めてきたので、手に汲んで飲ませてあげた。 チロン。 子犬の首元から巾着袋が落ちた。 「おかげ」と書かれた文字。 拾うと小銭の音も。 「お金持ってるの? なら私のも全部あげるよ」 なけなしの金を袋に入れ、首に掛けなおしてやる。 少しだけ「愛おしい」という感情が芽生えた。 愛されなかった人生、せめて誰かを愛したかったな。 ふと、出所前のささやかな夢を思い出す。 慰問にきた歌手に憧れ、ライブに行ってみたいと思った。 サイリウムを振って応援したい。 赤いパトランプが近づいてきたが、美幸は気付かず。 まだその夢の中にいた。