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写真額装の現場ノート #003 公文健太郎「暦川」(平置き展示など)

今までとは違った展示を作るために

写真家の公文健太郎さんから個展のための額装依頼をいただいたのは2019年の4月。公文さんは若くして注目を集め、雑誌、広告などを舞台にルポルタージュやポートレートなど幅広く活躍してきた写真家。同時にコマーシャルギャラリー等でもコンスタントに作品を発表し、写真展経験も豊富。そんな写真家にしては随分早いスタートなので、どういうことなのか聞いてみると「今までとはちょっと違う展示にしたいんです。」との返事が帰ってきました。

ネパールの生活や子供達を生き生きと撮ったキャリア初期の作品から、日本の農業にフォーカスした『耕す人』、最新作の「土よ、光よ、」まで、公文さんの作品は、一般的には「ドキュメンタリー写真」という枠組みで見られると思います。(実際は少し違いますが)なので、今までの額装も展示もドキュメンタリー写真の定石どおり、極力シンプルなもの(同じ大きさのプリント、パネル系の額装、一直線のレイアウト)が多かったらしいです。それを今回はあえて変えてみたいとのこと。

北上川の存在感をどう表現するか

展覧会タイトルの『暦川』とは、岩手県から宮城県を流れる北上川のこと。公文さんはその大河が始まる源流から、太平洋に注ぐ河口までを丹念に取材し、季節ごとに異なる川の表情と流域に暮らす人々の姿にレンズを通して出会ってきました。一方、北上川は農業用水などの実用面だけでなく、流域の人々の精神的支柱にもなっていることは、私も様々な文学や漫画(『六三四の剣』という漫画が好きでした)を通じて知っていました。流域の人々の姿だけでなく、この北上川自体の存在感をいかに展示で表現するか。以降この課題に公文さんと取り組むうち、額装だけではなく展覧会全体のディレクションに関わることになります。

パネル的な見やすさ+木の力で安心感を

打ち合わせ初期の段階から、今回は作品の展示レイアウトは「動的」(ダイナミック)なものにすることが決まっていました。そしてフレームにはパネルやアルミフレームなどのクールさではなく、温かみや手触りを求めた結果、木目がしっかり出るタモ材に、白の薄い塗装を施した白磨きのフレームを選択しました。写真サイズも大小おりまぜ、壁に設置した時には高低差もつくので、反射するアクリルはあえて入れず見やすさを確保。(作品販売用の額装は別制作でアクリルを入れます)その代わり「さがり」と呼ばれるフレームの表面から写真表面への落ち込みを通常の4倍程度深く設計し、木の量感をしっかり伝えることで、額装はシンプルな構造ながらも、作品自体は軽く見られないように配慮しました。

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完成した額装をPOETIC SCAPEでチェックしているところ
さがりが深いので影がどこまでくるかを確認
©Kentaro Kumon

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