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シネマ歌舞伎 牡丹燈籠 感想


先日、シネマ歌舞伎・牡丹灯籠を見た。
主役の伴蔵・お峰夫婦を演じるのは15代目片岡仁左衛門と坂東玉三郎。公演は2007年の歌舞伎座。

公式 作品紹介はこちら
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/10/#sakuhin



※以下、ネタバレあり感想です


仁左さま、さすが。男の可愛げと愛嬌

ああ、伴蔵・お峰夫婦、めっちゃ良かった。甲斐性なしだがどこか憎めない男としっかり者の女房。夫婦の絡みがいちいち可愛かったりセクシーだったり。

 仁左衛門丈が演じると、しょーもない男・伴蔵が可愛くも色っぽくも見えてしまうのはさすが。
外に向けては、亭主関白のように見栄を張るが、内実は女房に手綱をとられている男の、絶妙な愛嬌と色気がある。
家に帰ってくると早速「酒のましてくれよー」「蚊帳を吊ってくれよー」とお峰に言うのが、「威張っている」というより絶妙に「甘えている」ニュアンスに聞こえる。
幽霊が来る、となれば、ビビりまくって、お峰に「男だって怖いもんは怖いんだよお!」と縋りつく。

リアリティのある玉三郎のお峰

対するお峰も「しっかりしな」「私は忙しいんだよ」などと言いながらも、伴蔵を好いている気持ちが、仕草や言葉の端々から滲みでている。
 庶民の女房役の玉三郎丈もすごく素敵で、ちゃきちゃきした女房感がすごかった。演じているのは男性と分かってるはずなのに、玉三郎丈、見てるうちにだんだんお峰その人にしか見えなくなってくる。
(そういえば刺青奇偶でも、登場シーンではいくら何でも24歳には見えんわ、と思ったけど、後半ではお仲にしか見えなくなって、めっちゃ泣いた…)

そんな二人だから、前半は、ひたすら楽しく夫婦のやりとりを見ていられた。
ちょっぴり際どいシーンも、美しい二人は最高に絵になる。伴蔵がお峰の襟元をまさぐりながら「俺ぁもう、蚊帳ん中に入りたい気分だよ…」なんて囁くところなどは、ゾクゾクするほど官能的。


幕切れが示す伴蔵の人間像

前半の夫婦ぶりがほほえましいだけに、関係がこじれてゆく後半は見ていて辛くなってしまった。
念願の貧乏脱出を果たしてから二人の間に隙間風が吹き、やがて取返しのつかない悲劇に転落していく。

一番強烈だったのは、やはりクライマックスの夜の土手道のシーン。

匕首を振りかざす男のぎらついた目。必死に逃れようとする女の驚愕の表情。
暗闇の中での争いの挙句、ついに刺されたお峰が崩れ落ち、伴蔵は肩で息をしながらへたり込む。
そしてこの後の幕切れ、仁左衛門丈演じる伴蔵は、なんと己の手で殺した女房の亡骸に取りすがり、名前を呼び続けながら泣き崩れるのだ。
冷静に考えれば、矛盾すること甚だしい。が、芝居の中では全く違和感はなかった。むしろ伴蔵の惑乱がありありと伝わって、我が身可愛さに女房を殺した男の弱さが哀しかった。仁左衛門丈の伴蔵は、熟考の上で取るべき道を選べるようなタフで冷徹な男ではない。
我が身の安全は大事。でもお峰への情愛もある。矛盾した思いを持ちながら、ふらふらと自己保身に落ちてしまうような、しょーもない、人間臭い男に見えた。
人間の弱い部分、ずるい部分が、運命の中で悪いほうへ、悪いほうへ転がってしまった。
殺されたお峰はもっと哀れだが、彼女もまた人を犠牲にして大金を得る選択をしている。その選択が巡り巡って、惚れた男に殺されることになったとも言える。

伴蔵やお峰の欲や残酷さに通じるものは確かに自分の中にあって、だからこそ、それが悪いほうに転がった果ての結末にゾワリとした後味が残った。


まとめ


「幽霊より怖い人間の業」と銘打っているだけあって、怪談の世界を借りた人間が主人公の話だった。
描かれていることがお家騒動とか仇討ちとかではなく、金銭欲とか愛欲とかに絡む話だったので、感覚的に理解でしやすかった。歌舞伎に興味がない人でも、芝居として楽しめそう。
機会があれば、人を誘って行くのも良いかもしれんなあ。
(そしてそれを切欠に歌舞伎鑑賞仲間が増えれば良いなあ…)

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