
怪怪怪怪物!(2018年/台湾) ネタバレあり感想 思春期の子供は怪物よりも怪物。
※2019/10/13に『趣味と向き合う日々』で投稿した感想記事の加筆修正版です。
面白すぎて早口で喋ってそうな感想記事になっちゃった。
『怪怪怪怪物!』
以下、ネタバレを含む感想記事です。
■ストーリー
弱者がいればいじめてしまう我々が一番の怪物なのかもしれませんね。
■感想
ホラーテイストで話がはじまるものの、次第に高校生たちの怪物を交えた日常と怒りの物語にシフトしていき、最後には思春期の鬱憤と学校生活という異質さが生み出した闇、そしてモラトリアムが爆発する映画でした。
青春劇とホラーの親和性の高さなんて今更僕が語るまでも無いですが、この映画はそもそもホラー映画ではありません。ホラー要素は寿司のワサビみたいな感じで、軽く効かせる程度に留まっています。
イジメのターゲットとなっていた主人公のリン・シューウェイ。
リンシューウェイとイジメの主犯であるボスことドァン・レンハオ、そしてその仲間が、担任教師からの提案で社会奉仕活動として老人の住まう廃墟のような場所(老人ホームなんでしょうか……)へ訪れます。
老人達に対しても容赦なくイジメを楽しむレンハオ達と、次第に馴染むように老人イジメに加わっていくリンシューウェイ。
どのくらい容赦ないかというと、NARUTOに登場する人気キャラの我愛羅に仕立て上げられる老人が、ドラゴンボールのフリーザに仕立て上げられた老人と無理やり対決させられるという、心苦しいながらも黒い笑いが込み上げてくる迷シーンがあります。敬老の精神は死んだ。
中盤でリンシューウェイを虐める理由は「面白いから」だとレンハオは悪びれもせずに答えていました。老人達を虐めるシーンからも、これは明確に示されていたと思います。より楽しめそうなおもちゃが見つかったのでそちらへ興味が逸れていっただけの話。
教室という空間でターゲットにされたのがリンシューウェイだっただけなんでしょうね。
レンハオ達に他意も悪意も無いのであろうところがまたイジメの怖さと解決の難しさだと思うんですが、老人達という新たなおもちゃをレンハオ達が見つけた事で、結果としてリンシューウェイはこの場所ではイジメを受けておらず、むしろレンハオ達に加担して老人を虐めています。
この時リンシューウェイは楽しそうに笑っていました。それは(一時的にでも)イジメのターゲットで亡くなった事に対する喜びなのか、レンハオ達と楽しみを共有できた事に対するものなのか、あるいは純粋に老人をいたぶるのが楽しかったのか。
どの要素も少しずつ混じった上での笑顔なのかと僕は思っています。
ほどなくして次のいじめターゲットとリンシューウェイ達は遭遇します。
老人の内の一人が部屋に隠していたケースを興味本位で強奪する為、真夜中に部屋に侵入を試みたレンハオ達とシューウェイ。
そこで人を食べている二体の怪物と偶然遭遇して最初は逃げまどうのですが、怪物の一体がダイナミックに自動車にひかれその場に気絶。レンハオ達はこの怪物を捕らえて、使われていない校内プールの一室に拘束します。
そうやってごく自然に本物の怪物に対して優位を取っていくレンハオ達の精神強度の高さに笑いそうになりますが、絵面の不気味さがなんとかそこを留めてくれる感じでした。
こうして次のいじめのターゲットが怪物に移行して……といった流れで、シューウェイとレンハオ達との関係は一見すると他者をターゲットにすることで改善していくようにも見えるのが面白いところです。
シューウェイは自分以外の誰かが虐められる事で、自分が助かっている事は自覚しています。怪物に対して「君を虐めないと僕が殺される」といった感じのセリフを浴びせていますし。
ただ、結果としてレンハオ達と同じ事をやっていて、それでいてレンハオ達とは芯の部分では信頼関係など一切構築できていません。
怪物との最後の戦いでシューウェイはレンハオ達を裏切り、怪物の餌食にして殺したのも、ここまでのシューウェイの姿を見ていると悲しいほどに共感できてしまったりするんですよね。
「君はいつでも僕を殺せるけど、僕が君を殺せるのは今だけ」とかいう強すぎるセリフが印象的なクライマックス。
つまりシューウェイはレンハオ達と自分は何も変わらないと確信したからこそ、そこにあるのが友情では無い事も分かってしまったのかも。色々な捉え方が出来て面白いです。
劇中にはもう一人、クラスでいじめを受けているキャラクターが居ました。
ぽっちゃり体系の女の子で、机は教室の外(野外)か廊下に置かれ、通りすがる生徒達から引っぱたかれたりしてます。
彼女はやり返したり、シューウェイのように他者への攻撃に加担したりはしません。
全てを受け入れているのか、或いは無に徹しているのか、とにかく半端じゃないスルースキルを持っています。それが正しい対応とは個人的には思いませんが。
この女の子がトイレに籠るシューウェイの元に声をかけに来た時の「君と僕は違う」、そして最後にシューウェイがクラスの生徒全員を殺そうとするときの「君と僕達は違う」という二つのセリフが染みます。
これ以外にも、複雑な青少年の感情の揺れみたいなのを上手くセリフとシーンに落としているシーンは沢山あって凄く好きです。
また、障がい者の男性とのやりとりもシューウェイの心を抉っていました。
他者を疑わない究極的な善性みたいなものをこの障がいを持った人物から感じ取ってしまったシューウェイは、レンハオ達との友情を疑って彼らを殺したという点でも、だいぶこじらせてしまっていました。
ある種の自己嫌悪に苛まれていたのかと解釈しています。
この映画のクライマックスで、シューウェイはクラスの生徒全員を殺してしまいます。
怪物の血は日光に当たると燃える性質があり、これを給食に混ぜ込んでクラスの生徒全員の体内に怪物の血を巡らせてしまいます。
ただひとり、ぽっちゃり体系のこの女の子だけはクラスで生き残るように、給食に怪物の血を混ぜたものを飲まないように捨てていました。
全員を殺したのは、自己嫌悪と同族嫌悪の末なのかと個人的には捉えていますが、この最後の全員殺して自分も死ぬエンドは、様々な捉え方ができると思います。
実に語りたくなる映画です。
■〆
個人評価:★★★★☆
諸悪の根源はクラス内の問題を大人という立場でありながら放置していた担任教師のお姉さんなんじゃないかと思います。
大人だからこそ、対応するべき方法があるはずなのに仏法に逃げて根本的な解決策を提示しようとすらしない、こんなに典型的な徹底した憎まれキャラは映画でも中々見られませんよ。現実の世界にはたくさんいるけどね。
怪物の血で燃やされた最初の一人がこの女今日でしたが、脱糞して全焼する悲惨すぎる死に様なのに、かわいそうとか思わないもんね。
ではまた。