医師の在宅オンライン診療バイト、やってみたら意外なデメリットを感じてすぐに辞めた体験談
医師のバイトにも様々ありますが、バイトの求人を見ていると、コロナ禍となって以降、在宅でできる医師のオンライン診療のバイトの案件がちらほら出ています。
このご時世、家から一歩も出なくていい、なんて"一見"非常に魅力的です。
かくいう私も、つい先日まで、在宅でできるオンライン診療のバイトをしていました。
「していました」というのは、もう辞めたからです。
なぜ辞めたかというと、
「在宅オンライン診療のバイト、やってみたら色々大変じゃねぇか!てやんでぇ!」ということに気付いてしまったからです。
というわけで、本記事では、
「医師の在宅オンライン診療バイト、興味あるけど実際どうなの?」という人に向けて、
・在宅オンライン診療のバイトはどんな感じか?概要や仕事の流れ。
・在宅オンライン診療のバイトの給与、メリット・デメリット、盲点・不満
・在宅オンライン診療バイトをやってみての忌憚なき&忖度なき感想、私が辞めた理由
・在宅オンライン診療のバイトはどのようなドクターに向いているか
といった部分を説明しています。
ありきたりなことを書いてもしょうがないので、特に「やってみてリアルに感じたデメリットや不満、私が辞めた理由」の所を分厚めに書いています。
文字数としても、全体で7700字以上と思いの外ボリューミーな内容になっていますので、在宅オンライン診療に興味がある先生の「そこが知りたい!」を満たすことができるんじゃないかと思います。
それでは、本編です。
採用までの流れ〜意外なハードル〜
ネット上の医師のバイトの求人サイトを見ていたら、ある時在宅オンライン診療の求人が出ているのに気付きました。
コロナ禍ということもあり、「家から出なくていいんだったらこれはいいじゃないか」ってことで早速問い合わせしてみると、ギリギリまだ募集している、と。
本当かどうかわかりませんが、最後の一人の募集枠だったようです。
メールで履歴書を送って、やがて面接の日程が決定。
当然、Web面接です。
担当のエージェントから事前に言われていたのが、
「医師のバイトとしては異例ながら、
面接の採用率が低く、40%くらいしか受からない」ということです。
医師のバイトの面接なんて、通常はかなりファンタスティックな人だけをはじくためだけに存在するようなもので、落ちるなんてことはなかなかないんですが、ここは違いました。
理由としては、オンライン診療だからこそ接遇や患者対応の質をより重視しているようで、採用のハードルはやや高めに設定されているようです。
事前に「過去の面接ではこんなことよく聞かれてるんでこんな感じで答えるといいかと思います」的なことも伝えてもらっていたので、その辺り+αを準備していざWeb面接へ。
採用担当者の方とエージェントと自分の3人で面接がスタート。
いざ始まってみたらあまり大したことは聞かれず、「もう終わり?」って思うくらいあっけなく面接は終了。採用率低いっていう話は何だったんだっていう気もしましたが、晴れて採用となりました。
面接後にエージェントさんに「あんまり大したこと聞かれませんでしたが、本当にあれで大丈夫だったんですか?」と確認しましたが、「全然大丈夫です。受け答えの細かい内容というよりも、全体的な雰囲気やお人柄を見ているようです」とのこと。とりあえず採用で良かった。
在宅オンライン診療バイトの概要
ここからは私がやっていた在宅オンライン診療バイトの概要をご説明していきます。
オンライン診療バイトには2種類ある
ちなみに、オンライン診療バイトにも2種類あって、「在宅でするタイプ」と「クリニックに行って、クリニックの中からオンライン診療をするタイプ」があります。
私がしたのは在宅でできる方でしたが、求人を見ているとどちらかというとクリニックでオンライン診療するタイプの求人の方が募集は多いですね。
なお、私がしていたのは、とある自由診療領域のオンライン診療で、日本全国どこに住んでいてもOK、でした。
在宅オンライン診療バイトのシステム、仕事内容、患者数、給与など
・システムとその準備
在宅オンライン診療バイトをするまでに先方から事前に資料が送られてきて、必要な準備をします。
個人のアカウント作成、電子カルテやビデオ通話のアプリをダウンロード、マニュアルの把握あたりです。
マニュアルに関しては結構量が多いんですが、熟読しておくことが求められました。
トークスクリプト例だったり、処方基準だったり、必要なことが書いてあります。
また、後述しますが、困った時などには常勤ドクターにチャットで相談できるシステムだったんですが、その(他のドクターと常勤ドクターの)過去履歴も見て、こういう時はどうしたらいいか、ってのも事前に把握しておくことが求められました。
要は、「同じ質問は二度するなよ」ってことです。
この時間は当然無給です。
ここはひとつデメリットかと。
この作業にどのくらい時間をかけるかは人によりけり、だったとは思いますが、いざ診療始まってからあたふたしたくない人は結構な時間(おそらく数〜30時間)を投じることになります。
・仕事内容、患者数
ざっくりとした仕事内容としては、ここは皆さまご想像の通り、予習をしておいて、あとはオンライン診療→処方、を勤務中はひたすら繰り返します。
私が勤務したクリニックでは、予約制で、一人当たり10分と決められていました。
結構タイトでした。
どうしても超過する場合は診療中に事務の人に超過する旨チャットで連絡します。そしたら、次以降の予約の患者さんに遅れる旨を連絡してもらう、という形でした。
患者数に関しては、一人10分ですので、最大6名/hとなります。
"最大"書きましたが、そのクリニックは結構繁盛していたので、基本予約が埋まらないことはなく、6人/hを診続けることになります。
勤務中は空き時間などは基本ありません。
・給与
気になる給与は、時給1万円スタートでした。
仕事ぶりや患者アンケートやスタッフからの評価を加味して、時給を上げることを検討するという評価システムも導入されるとのことでしたが、それが導入される前に辞めたので実際のところはわかりません。
・困った時は
困った時は、常勤ドクターにチャットで相談できるシステムがありました。
診療時間内に解決しない時は、一度持ち帰りとして、チャットで相談して、返事が来たら再診察か別日の予約を取ってもらう、という形でした。
やってみて感じた在宅オンライン診療バイトの大変な部分・デメリット・不満10個
ここからは、表題の通り、実際にやってみて大変だった部分、面倒だった部分、デメリット、不満について忖度なしで書いていきます。
個人的には、⑧が最も重要と考えています。
①説明しなければならないことが多すぎて、大変&時間がタイト
これは実際にやってみて一番実感したことの一つです。
再診の患者さんなんかはイレギュラーなことがなければそんなに時間はかからないんですが、初診の方の対応が結構大変でした。
トークスクリプト的に、多少の言い方を変えるくらいは良くても、「これは必ず言ってください」ってことが定められていて、それが非常に多い。
説明しなければならない内容の中には「これわざわざ医師が説明する必要ないよね」ってこともたくさん含まれていて、それが時間を非常にタイトにしている要因でした。
その内容を説明するだけで、結構早口気味&無駄を省いて喋っても6-7分くらいかかります。
患者さんがビデオ通話に入るのが遅れたり、反応がゆっくりだったり、質問が多い方だったりすると良くて時間ギリギリ、一定の頻度で時間超過してしまいます。
数時間連続で勤務したら、「人生でこんなに喋ったことないわ」ってくらい喋らないといけません。口も喉もカラカラ、そんな感じでした。
家から一歩も出ないし、ずっと座ったままでしたが、かなり体力のいる仕事でした。
同様の声は多くのドクターからも寄せられていたようで、私が辞める直前に医師が説明しなければならない内容の見直しがなされ、少しは減ったようでしたが、「遅いよ」って話です。
それに、初診と再診で診療にかかる時間が全然違うのに、初診が何人も連続したりします。
そのあたりは全然配慮されません。
初診が連続しないようにとか、1時間あたり初診は何人以下みたいに予約段階で配慮してもらえないか確認しましたが、事務側のキャパオーバーで難しいようでした。こりゃダメだ、って感じです。
②相談する際は文字ベースなので時間がかかるし入力するのが大変
前述の通り、困った時など、常勤ドクターにチャットで相談できるのですが、これが文字ベースの相談なので、やりとりに多くの労力と時間を要します。
「こういう患者さんで、こうこうこういう状況で、これが問題で、Aという方針でいくかBという方針でいくべきか」みたいなことを相談する時も、口頭であれば割とサクッと相談できるようなことでも、全て文字で入力しなければならないとなると大変です。
1日に何件も相談しなければならない場合などはなおさらです。
さらに、常勤ドクターへの相談だけでなく、事務へ対応を依頼したいことがある時や、連絡事項がある場合なども、すべてチャットで連絡する必要があるので、いちいち手間と時間がかかります。
診療の間もしくは終わってからこれらの作業をするのですが、そうすると息つく暇もない、みたいなことになります。というか、実際なってました。
③患者さんが入室してこない時の対応が面倒
予約時間になったら患者さんがスムーズにビデオ通話に入ってきてくれたらいいのですが、そうではないケースも多々あります。
そういった場合は、患者さんに時間を空けて3回電話して、それでも出ない場合、診療開始時間から5分過ぎるまで待って、それでも入室や応答がなければやっとキャンセル、となります。
患者さんが来ずにキャンセルとなる場合でも、5分間は医師が対応しなければならないのです。
これはやってみたらわかりますが、非常に面倒でした。
④基本的に空き時間はない
一部前述の通りですが、私が勤務していたクリニックでは、抱える患者数が非常に多く、常に予約はいっぱいいっぱいでした。
そのため、勤務時間は全て予約が埋まり、空き時間、ゆったりできる時間というものはありませんでした。
ゆったり仕事したい人には向きません。
⑤予習に時間がかかる
患者さん一人あたり最大10分という限られた時間の中で、時間超過なく回していくためには、事前の予習は必須です。
再診予約の方だとパッと目を通しておく程度でも大丈夫ですが、初診となると事前にいくつか確認しておかないといけない項目があるので、予習に時間がかかります。
しかも、前日にならないと自分の担当する患者さんが誰かわからないことも多いので、勤務日の前日に予習をしなければなりません。
前日も勤務日ならその勤務中もしくは勤務後に予習をしますが、そうでなければ、非勤務日の前日に予習をしなければなりません。ここもデメリットです。
もちろん、オンライン診療の全てで予習の必要があるわけではないので、その点は悪しからず。案件によります。ですので、案件を選ぶ際は予習がどれくらい必要になりそうか、というのも大事なチェックポイントとなります。
⑥システム関連
オンライン診療はクラウド上の電子カルテや、ビデオ通話のアプリ(というかサービス)を使って行いますが、電子カルテやビデオ通話のシステムトラブルによって、円滑な診療ができないこともあります。
その場合は診療内容をメモしておいて、電子カルテ復旧後に入力し直す、等の余分な仕事も発生するリスクがあります。ビデオ通話のシステムがトラブルの場合は電話診療になりますが、「ビデオ通話が良かったのに」という患者さんもいるので、そういった苦情に対応する必要も生じます。
あとは、電子カルテのユーザーインターフェースが悪かったのですが、改善要望を出してもすぐに改善されることはありません。
そのため、使いにくく、ミスを誘発しやすいシステムの中で診療をしていく必要がありました。
⑦患者さんの層
私が勤務していたクリニックは、患者さんあたりの単価がかなり低い所でしたので、中にはリテラシーの高いとはいえない方も一定数いらっしゃいました。
なかなか説明を理解してもらいづらい方、処方基準を満たさないため処方できないことを伝えた途端豹変しクレーマーと化す方、言ったことを言っていないと言い張る方など、様々です。
これはオンライン診療に限った話ではありませんが、バイトを選ぶ際には「どういった患者層か?」をチェックしておくことで、自分に合わない職場をはじくことができると思います。
⑧残業代に関して:どこまで勤務時間とするのか問題
これは非常に重要な問題です。
ここに記載している在宅オンライン診療をやってみて実感したデメリットや不満10個の中で最も重要と言っても過言ではありません。
詳しく書くと長くなってしまうので要点だけ記載します。
私は、患者さんを実際に診療している時間だけでなく、予習や勤務後の諸連絡等の時間も含めて勤務時間として申請していましたが、ある時「診療時間と申請時間に乖離が見られるので修正を」的なことを先方が言ってきました。
私としては実際に予習をしている時間や、休憩時間や勤務後に相談したり、必要な連絡をしている時間のみを申請していただけです。
何もしていない時間を水増しで勤務したことにしてその時間の残業代を請求していたわけではありません。
これはありえないと思い、事前に労働基準監督署にも話を通した上で、
「労働基準法はちゃんと守ってね❤︎こうこうこういう理由で正当な主張だよね❤︎もうすでに労働基準監督署にも話は通してあるよ❤︎そっちが払わないと言うのなら、法的手段に出ることになるよ❤︎」
という旨を主張したら、一撃で「前言撤回します。全額お支払いします」との回答が来ました。やれやれです。医師は無知だと思ってなめられたものです。
医師の皆様、労働基準法について詳しくなっておくとブラックなところでこき使われなくて済みますよ。というか、募集要項見てるだけで「これ労働基準法守る気ないじゃん」とかわかるようになるので、おすすめです。知は力なり、です。
⑨運動不足、日光を浴びる機会の減少
なんだそんなことか、という方もいるかもしれませんが、健康にとって運動は大事です。
在宅オンライン診療だと、通勤時間をゼロにできる代わりに、その分運動や日光を浴びる機会はなくなる、あるいは激減します。
※運動がいかに脳にとって良いかは、アンダース・ハンセン『一流の頭脳』をお読みください。これを読んだら運動せずにはいられなくなります。少なくとも私はそうでした。ちなみに、アンダース・ハンセンはスウェーデンの精神科医で、ちょっと前に話題にもなった、『スマホ脳』の著者でもあります。
通勤時のちょっとした歩行なども実はいい運動になっていますし、メラトニンの産生やメンタルヘルスの観点からも、日光を浴びることは重要です。
私の場合は合間の時間にベランダに出て時折日光浴はしていましたが、運動量は激減しました。これは在宅オンライン診療をやってみて実感した、結構なデメリットでした。
⑩診療の様子をモニタリンングされている
これは致し方ない部分もありますが、診療の質の担保のため、定期的に自分のオンライン診療の様子を、クリニックのスタッフの方がモニタリングしていました。
モニタリングの結果、もちろん良い点は評価されるものの、改善点があれば指摘されます。ちなみに、いつモニタリングされているかは事前には知らされません。
野放しにしていると無茶苦茶するドクターもいるかもしれないので、必要なのかもしれませんが、監視されていると思うと、窮屈に感じたり、オリジナリティを出しつつ診療していきづらい部分はありました。何と言うか、型にはめ込まれる感じというか。
私が辞めた理由
私が在宅オンライン診療バイトを辞めた理由としては、大きくは
・思ったより大変だった
・残業代を支払わないと言ってくるような職場では働きたくない
といったところになります。
「在宅でできる」と聞くと、「なんか楽そう!」と飛びつきたくなる気持ちはわかりますが、職場に行かなくていいだけで、仕事自体は楽ではない場合もあります。私の場合はそうでした。
とても長時間・長期間できるような仕事ではありませんでした。
実際に働いてみると「もっとこういうシステムにした方がいいのにな」とか「これは無駄だな」とか感じることが多々あり、改善を要望しましたが、遅々として改善しませんでした。
そのため、「これは相手に変わることを期待するより自分が職場を変えてしまった方が早いな」と思いサクッと辞めました。
あと、残業代については、前述の通り、こちらの正当性を主張した結果、しっかりもぎ取りましたが、「そんなこと言ってくる奴らと仕事なんてしたくない」という想いもあり、辞めました。他にバイト先なんて星の数ほどありますし。
「いくら崇高な理念を掲げていても、実際は労働者をこき使ってコストダウンしたいだけじゃん」って思い、そんなところとは縁を切ることに決めました。
在宅オンライン診療バイトのメリット、向いているドクター
ここまで在宅オンライン診療バイトのデメリットや不満ばかり述べてきたので、そろそろ良いところにも言及しておきます。
メリットとしては、お察しの通りですが、
・通勤時間ゼロ
・感染リスクゼロ
・隙間時間で勤務できる
・家にいられる
あたりが挙げられます。
それ故、「医師としては勤務したいけど対面では人と一切接したくない」という人や、お子さんのいるママさんなんかはいいかもしれません。
もしくは、「まとまった時間は取れないけど、1日30分〜1時間ずつちょこちょこ働いて小銭を稼ぎたい」なんて人にもフィットするかと思います。
家にいることの優先度が高い方は検討してもいいかもしれませんが、そうでないなら(職場にもよりますが)強くお薦めするかと言われるとそうでもないです。
少なくとも自分は、「対面でもいいから、もっとゆったり働けるところがいい」と思い、新たなバイト先を見つけました。このあたりも、実際に在宅オンライン診療をやってみたからこそ実感できたわけで、それがわかっただけ良かったかなと思います。
最後に
というわけで、本記事では在宅オンライン診療バイトをやってみてのリアルな感想をありったけお話してきました。
大事なのは、「在宅でできるから楽そう」という気持ちだけで始めるのは危険かもよ、ということです。もちろん、どんな案件かにもよるところが大きいですが。
実際に働くとなると大変なところも多く、場合によってはすぐ辞めることになってしまいかねないので、事前の精査は重要です。在宅勤務特有のデメリットもありますし。
本記事が、在宅オンラインバイトに興味をお持ちのドクターの参考になりましたら幸いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。
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