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アルコール3%

※この物語はフィクションです。

初めてお酒を1缶飲んだお話。

『女子会用に買ったの、飲まなかったからいいよ。』
お酒を飲もうとすれば止めてくる母のセリフに少し驚いた。別に止めて欲しかった訳でもないし、寧ろ好奇心旺盛すぎる思春期の私にとっては堪らなく嬉しいプレゼントだった。ほろよい、桃テイストのそれはアルコール濃度3%。
お風呂上がりの寝る前にでも呑んでやろう、と若いなりに大人びようとした。

深夜2:02。お風呂から上がり真っ先に冷蔵庫に向かう。
上から2段目にそれはあった。プルタブがこちらを向いたまま置いてあり、いかにも飲んでくださいと言わんばかりの格好。少し哀れで面白かったのを覚えている。
早速、と思いリビングのソファの足掛けに背もたれる。
いつもこの格好で座ることが多く、背もたれがあるとないとでは体の痛さも大分違う。
そんなことはさておいて、すぐに私はYouTubeで最近お気に入りのa子さんの曲、Samurai Champoo という曲をあまり隣の寝室に聞こえないように流した。部屋を真っ暗にして、明かりはスマホの背面ライトのみ。
ライトを当てながらプルタブを捻る。プシュッと炭酸のような音と共にアルコールが弾け飛んだ。ワクワクしながら小さな喉に流し込む。

意外と普通の桃ジュースだな。

なんとなく、子供ならではだと思うが、お酒やタバコなどの成人からとされる嗜みには相当の期待が一定以上あると思っている。なんせその嗜みまでに20年も待たなきゃいけないからだ。いくら物心がつくのが遅くても10数年は待たなければいけない。それほどの期待があっけらかんと終わる寂しさは、外の吹き荒れる風と対比してとても物静かに終わったものだから、少しだけ寂しくなった。
台風が来る為臨時休校になったはいいが、なんだか落ち着かない。何せオンライン授業が待っているからだ。そんな憂鬱なことを考えているうちに、少しづつ喉が熱くなったていることに気がついた。普段飲むような炭酸ジュースのシュワシュワ感とは違った、直ぐに抜けるような感覚。そこから生まれる江ノ島の夕暮れ時のような、静謐でじわじわ滲むような喉の火照り。これがお酒なのか、とここで実感した。
たかだかアルコール濃度3%のお酒に何を期待しているんだ、と冷静になる。そう考えている内に、体は風を避けるために締め切った部屋の湿度に耐えきれず汗をかいているものの、喉の火照りは無くなっていた。もう一度、この火照りを味わいたかった。外はまだ風の音でいっぱいだ。10階なものだから窓も相当揺れている。

私はまた水色に染った期待を手に取った。

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