[短編小説] 輪廻転生を渇望する少女がとったたった一つの残虐な方法


 男の名はブリッジ、オーク族の剣豪であり強敵を求めて山賊をしており、強いからこそ首領であり村の長であった。
 ブリッジの支配する山は山賊が出る事で有名であり、そこを通る者は強者かもしくは凄腕の用心棒を雇って通ろうとする。
 それがブリッジの狙いでもあった、強者と戦いたい、自分の腕をさらに磨きたい、それしか頭にない男であった。
 ある日ブリッジの元に偵察隊からの報告が入る、獲物だ山賊のお仕事、ブリッジにとっては戦いという趣味。
 相手はエルフの1団、エルフと言えばオークの仇敵である。
「弓と精霊魔法に気を付けて、接近戦で戦うんだ!」
 手練の山賊集団であるオーク達には、言うまでもない事を首領の義務として言い放ち戦いへと赴くブリッジであった。
「今日の相手は手応えがないな」
 少し戦ってブリッジは失望していた、敵全体のレベルが低いのが直ぐ解った。
「お頭、ちょっといいですか?なんか元気なのが1匹居て手こずってるんでやすが」
 見ると小柄なエルフの少女が孤軍奮闘していた。
 少女はぴょんぴょん飛び回ってはオークの攻撃を避け、素早い手数で山賊を切り付けていた。
「速いし上手いが軽い」
 少女がいくら切り付けてもオークには大したダメージは、入っていないようであった。
「だが面白い……それもいいか」
 ブリッジは何か思い付いたようであった。
「お前らどけ!」
 ブリッジは素早い少女より、更に素早い動きで距離を詰め一撃で少女を昏倒させた。
「お前らよく聞けこのエルフは今日から俺の"弟子"にする、手ぇ出すんじゃねぇぞ!」

 エルフの少女の名前はエリスといった、今日からお前の修行をつけるというと困惑していたが、ブリッジはお構いなしだ。
 ブリッジにしても弟子を取るのは初めてだ、何をしていいかは分からなかったが兎に角実践だとばかりにエリスに切り掛る……もちろん目一杯手加減して。
「エリス!お前の攻撃は軽い工夫しろ!」
 ブリッジは無茶なアドバイスにもならないアドバイスをしながら、実践訓練を続ける。
「エリス!精霊魔法は使えないのか!剣にエンチャントして切れ味を増すようにしろ!」

 半年程修行は続いた、エリスの剣はエンチャント魔法により切れ味を増し、身体のバネを使う事により剣の威力は上がっていた。
 例えば丸太を切断するのにブリッジは、凄まじい腕力と僻力で叩き割るのに比べて、エリスはエンチャントのかかった剣の切れ味と身体を一回転させたバネで切り裂く。
 エリスは確実に強くなっていた、それでもブリッジには到底及びはしないのであったが。
 ブリッジとエリスの修行は毎日、一日中行われた当然山賊業は疎かになりブリッジが居ない事でオークの仲間にも被害が出るようになっていた。
 オークの間からエリスとブリッジへの不満が噴出してきていた。

「お頭!そんなエルフの小娘にいつまでかかずらってるんですか!?そんなにその小娘が大事か!俺より才能があるってんですか!?」

 血気盛んなオークの若者が勇敢にもブリッジに詰め寄る、ブリッジは慌てる事もなく言い放つ。
「試してみるか?」
 オークの若者はゼルという名だった、新進気鋭の将来を期待された若者であった、ゼルとエリスの決闘が始まった。
 勝負ははじめ拮抗していた、しかし気迫に勝るゼルが次第に優勢となって行った。
 勢い余ったゼルがエリスに突っ込み、そのまま2人で倒れ込んだ。
 ゼルの背中にはエリスの剣が生えていた。
 偶然なのかゼルが体勢を崩したのをエリスが見逃さなかったのか、剣はゼルの腹から背中にかけて深々と突き刺さっていた。
 ゼルは死んだ、村は大騒ぎになった。
「エリスがゼルを殺した!エルフのエリスが!オークのゼルを!」
 オークとエルフは因縁のある仇敵、オークがエルフを殺す事はあっても、エルフがオークを殺す事は許されない事であった、エルフ側からすれば逆であろうが。
 しかしここでブリッジの一喝。
「誇り高き戦士の一族が戦いの中で死んだのだ何が不満なのか!」
 この村ではブリッジは絶対的存在であった、誰もブリッジに逆らう事など出来ない。

 エリスの修行は続き、ブリッジの居なくなった村の山賊は勢力を弱めて行った。
「長!お頭!山賊業が続けられなくなった今、この村の存続が危うい何とかしてくれ!」
 村人であり山賊でもあるオークから必死の訴えがあった、それにエリスが口を出した。
「狩りをすればいいんじゃないですか?私たちエルフのように鹿や猪を狩って、肉は食べ皮は売る、木の実を集めて食べるのもいいでしょう、私が教えられることは教えますから」
 それまで山賊を生業としてきたオークたちは当然反発したが、またしてもブリッジの一言。
「エリスの言う通りしよう」
 こうして元山賊のオークの村人はエルフのような生活を始めた、またその事によってエリスも村に馴染んでいったのである。

 ブリッジによるエリスの修行は続き、数年が経とうとしていた。
「参った、いやっそのまま殺せ」
 エリスの剣がブリッジの喉元にあった。
「エリス、お前は強くなった俺を超えるほどだ、もうお前は自由だこれからは好きに生きるがいい」
「師匠ありがとうございましたこんなに強くなれたのも師匠のおかげです」
「そうか、ならば剣士として生きていってくれない……グハッ」
 ブリッジの腹にエリスの剣が深々と突き刺さっていた。
「師匠ちょっと待っててね、村の人たち皆殺しにして来るから、師匠は最後に殺してあげる」
 そういうとエリスは駆け出した。
「エリス何を……」
 ブリッジはエリスを這って追いかけた。
 そこは血の海であった、エリスに懐いていた村の子供の首が飛ぶ、エリスに良くしてくれていたおばさんが頭から叩き割られる。
 老若男女問わず、村のオークというオークが惨殺された。
「エリス!やはり恨んでいたのかっ!」
 ブリッジの問いかけに振り返ったエリスは、微笑んでいた返り血にまみれたエリスは美しくさえあった。
「師匠、違うの知ってる?私たちエルフとオークは元々同じ種族から派生したって言い伝え、そしてエルフに殺されたオークはエルフに生まれ変わるの、この村の人たちは皆いい人だから、エルフに生まれ変わらせてあげるの」
 ブリッジは輪廻転生など信じてはいなかった。
「師匠、師匠も生まれ変わってね、出来れば私の子供に、今度は私が師匠を鍛えてあげる」
 エリスの剣がブリッジの喉をかき切る。
 これがオークとエルフが相容れない理由か。
 そんな事を考えながらブリッジはこと切れた、その後エリスがどうなったかは誰も知らない。


 -了-

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