見出し画像

「デザイン経営のわかりにくさ」 を解きほぐしてみる。

 まだまだビジネスパーソンに「わかりにくい」といわれることが多いデザイン経営。
 デザイン経営の語り手は、当然ながらデザインの世界で長く活動されているデザイナーやクリエイターの方が多くなっていますが、普通のビジネスパーソンと同じ思考回路から出発したノンデザイナーである私の視点で、今日は「デザイン経営のわかりにくさ」の解きほぐしを試みてみたいと思います。

 普通のビジネスパーソンにとって、デザイン経営がわかりにくいと思われやすい主な理由は、以下の3点にあるのではないでしょうか。
① 「デザイン」の語が何を意味しているのかよくわからない
② 「デザイン経営」の解釈が混在しており、論者によって定義がばらついている
③  企業経営が「デザイン」でどう変わるのかよくわからない


1.「デザイン」とは何か


 「デザイン」とは何か?
 それはあまりに壮大で奥深く、多くの識者が論じ続けているテーマであり、とてもノンデザイナーである自分が手を出せるような領域ではないのですが、「デザイン」経営という場合のデザインの意味、「経営」という対象になぜデザインが求められるようになったかを考えるために必要な範囲で、あらためて「デザイン」の意味するところを考えてみたいと思います。

 デザインと経営について説明される際に目にすることが多いのが、その対象とする範囲によってデザインを分類した、以下の図です。

「デザイン」は多義的?

 プロダクトやユーザインターフェイス等の外観、つまり目に見えるカタチを対象とした「狭義のデザイン」に加えて、近年はユーザ体験を含めた製品・サービス全体を対象に捉えた「広義のデザイン」が注目されるようになっている。さらに、それをビジネスモデルやエコシステムなどにまで広げたのが「経営のデザイン」である、という捉え方です。

 たしかにそうではあるものの、実はこうした分類が「デザイン」の意味をわかりにくくしてしまっている部分もあるのではないだろうか?
 というのは、「狭義のデザイン」「広義のデザイン」「経営のデザイン」のように分類されると、包含関係があるとはいえ「デザイン」には複数の意味があるように見えてくるからです。それぞれのデザインが異なるのであれば、「狭義のデザイン」や「広義のデザイン」の領域で活躍するデザイナーが、「経営のデザイン」を主導する意義が見えにくくなってくるし、デザイナーがデザイン経営を語ると、なにやらデザイナーの職域拡大のためにデザイン経営なる新しいデザインを推奨しているようにも見えてしまいかねません。また、2018年に知的財産戦略推進事務局が提案した「経営デザインシート」は、「狭義のデザイン」や「広義のデザイン」との関係性が明確でないまま、これまでのところ経営コンサルタントや士業、金融機関の方々といったノンデザイナーを中心に普及が進んでいますが、各々は異なる「デザイン」であるといった認識が、デザイン人材をあまり巻き込まない状態での展開につながっている側面もあるのではないでしょうか。

 このように「デザイン」を名詞的に捉え、Aデザイン、Bデザインのように類型化することが、「デザイン」の多義化を招いてその意味をわかりにくくしてしまっていることはないだろうか?
 そうではなく、動詞的に捉えれば、「デザイン」は(言葉で明確に定義するのは難しいものの)統一的な一つの概念となり、Aデザイン、Bデザインと異種のデザインが存在するのではなく、Aをデザインする、Bをデザインするのように「デザイン」自体は変化せず、その対象が多様なものと理解することができます。
 つまり、「デザイン経営」につながる昨今のデザインに関する動きは、デザインの定義が狭義→広義へと広がっているのではなく、デザインの対象範囲が拡大していると捉えるべきではないか。具体的には、プロダクト、グラフィック等の目に見える伝統的な領域から、ユーザ体験、サービスといった無形の領域、そして、ビジネスや経営のような組織や他者との関係性を包含する領域へ、さらにはコミュニティーや地域といった社会を対象とする領域まで、デザインの対象は拡大を続けているものの、それらを「デザイン」する行為の本質に違いはない(フッサール風にいえばデザインの「本質直感」ですね)。
 「デザイン」をそのように解釈すれば、デザイン経営の主導者として伝統的なデザインの領域で経験を積んでいるデザイナーに期待が集まること、科学的・分析的な論理思考の対象として捉えられやすい経営の領域に、デザインの適用による変革が期待されることの意味が、明らかになってくるのではないかと思います。

「デザイン」は統一的な概念で、対象領域が拡大している

 そうすると次に浮かび上がってくるのが、その統一的な概念である「デザイン」って何?という問題です。
 先に述べたとおり、このテーマはあまりに壮大かつ深淵で、ここで論じられるような話ではないのですが、デザイン経営における「経営」を対象に考える場合に参考になるのが、ビジネスの意思決定の場に多く表れる「マネジメント態度」との対比で説明される、デザイナーの行動規範等から抽出された「デザイン態度」です。「デザイン態度」について、八重樫文・大西みつる著「新しいリーダーシップをデザインする」(新曜社)には、以下の5項目が示されています。

① 不確実性・曖昧性を受け入れる
② 深い共感に従事することで、人々の理解のしかたを理解する
③ 五感をフル活用する
④ 遊び心を持ってものごとに息を吹き込む
⑤ 複雑なことから新たな意味を創造する

出典:八重樫文・大西みつる著「新しいリーダーシップをデザインする」p.29

 ①は、たしかに自分もデザイン経営関連の仕事に関わるようになってから、ミーティングやワークショップで、不確実・曖昧な状態でやりながら考える場面が増えているように感じます。もちろん場当たり的にやっているわけではなく、大きな目的・目標はしっかりと意識しながらも、途中のルートをあまり固定しすぎないようにしており、そうすると同席したメンバーがどこへ向かっているのか不安を感じることがあるらしいのですが、以前と違って自分自身はそういう状況を受け入れられるようになってきています。そうした態度で臨むと、最初から設計された予定調和ではない、ユニークなアイデアやアウトプットが出現したりして、不確実性・曖昧性を受け入れるとはそういうことなのかな、と思っています。

 ②と③も重要なポイントですが、「要は五感だよね」で済まされがちなところをもうちょっと突っ込んで考えると、我々はものを見ているようでいて、実はそのありのままの姿をちゃんと捉えられていない。目に入ったものに、自分の頭の中にある辞書的な概念を適用して解釈し(下の図であれば「家族」や「都市」)、それらを頭の中で構成して、知識をベースに思考する癖がついてしまっている。それゆえに、ものごとのありのままの姿や関係性が見えなくなり、実態と乖離した行動を起こしてしまう、といった問題です。
 そうした思考に陥らないように、ものごとをありのままに、自らの経験そのままに受け止める姿勢が求められるのですが、そうした姿勢を身につけるには現象学について学ぶことが有効と思われ、現在いろいろ読み漁っているところです。

 ④は、最近つくづく思うのですが、地域にせよ企業にせよ、そこにいる人々が面白がって活動していないと、人が集まってくるはずがない。面白がること・楽しむことは、コトを起こすための基本ではないでしょうか。

 そして⑤の意味形成、製品・サービスの機能や価格ばかりではなく、意味に注目することは、デザイン経営においても最重要ポイントの一つとなるものです。

 こうした特徴をもつ「デザイン」のアプローチを「経営」に適用する場合、科学的・分析的な論理思考を基盤とする一般的な経営戦略と何が異なってくるのか。
 デザイン経営の特徴だけを説明されても、なかなかその意味や特徴を理解しにくいですが(現在のデザイン経営の解説は、そうしたベンチマークの存在しないものが多い印象です)、両者を対比することで、その特徴が浮かび上がりやすくなるはずです。詳しくは「あらためて考える 中小企業のデザイン経営」の記事に解説しましたが、以下の表のうち、①と②は特許庁のホームページに説明されているデザイン経営の本質から抽出した要素、③と④は自分の経験から導き出された要素ですが、いずれも「デザイン態度」の表れとも捉えられるのではないでしょうか。

一般的な経営戦略と比較したデザインのアプローチの特徴

 以上にみてきたように、「デザイン」とは対象がなんであれ、ものごとに向き合う際に共通するアプローチであると理解すれば、そのアプローチをプロダクトやグラフィック等の伝統的な領域だけでなく、企業経営の幅広い領域に適用しようとする「デザイン経営」の意味を、理解しやすくなるのではないかと思います。

2.「デザイン経営」の定義


 さて、こうした「デザイン」の定義を前提とした上で、「デザイン経営」をどのように理解すればよいのか。現在、巷で「デザイン経営」として語られている(あるいは理解されている)ものには、以下の3つの類型があるように思われます。

 その1つは、初見ではそのように捉えられやすい世間によくある誤解で、残りの2つは、行政から示されている公式の定義です。
 それぞれの定義を以下に整理してみました。

デザイン経営の定義

 定義Aが世間によくある誤解で、日経新聞さんには申し訳ないですが、2年ちょっと前の「春秋」に書かれていたものが、その典型例です。
 特許庁のホームページに掲載されている「デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法」という説明を、「かみくだいて言えば、おしゃれな感覚でモノやサービスや新しい事業を生み出すこと―だろう」と意訳されていますが、「デザイン」という語に対する一般的なイメージから、「デザイン=おしゃれ」→ カッコいい商品やサービスを次々と生み出していく経営スタイル、のように理解されたのでしょう。デザイン経営の先進事例として、アップルやダイソン、日本企業であれば良品計画やスノーピークなどが紹介されてきたことも、そうした誤解の遠因となっているのではないかと思います。
(付言すると、「デザイン経営」宣言の出所であるはずの知財の世界でも、意匠権を活用するのがデザイン経営みたいに捉えられていることがあるような…)

 これに対して、行政から示されている公式の定義が、経済産業省・特許庁による「デザイン経営」宣言(2018年)に掲載されている定義Bと、特許庁発行「未来をひらく デザイン経営×知財」(2023年)に掲載されている定義Cです。
 メディアに掲載されたり、イベントで紹介されたりする事例や解説は、定義Bを前提にしているものが主流であるように感じますが、中小企業を対象とする領域では、定義Cがジワジワと広がってきている印象です。
 定義Bから始まって定義Cが登場した経緯、各々の違いについては、これも「あらためて考える 中小企業のデザイン経営」の記事に詳しく書いていますが、定義Aもあわせて各々のポイントを以下のように整理してみました。

定義別・デザイン経営の比較

 定義Aでは、「デザイン」の対象をプロダクトなどの外観・見た目と捉えているので(それがまだまだ世間的には一般的なイメージかと思いますが)、「経営」との関係はわかりにくく、デザイン経営って、おしゃれでセンスのよいイメージの会社のことだよね、といった理解になりがちです。
 その定義Aは、よくある「誤解」ということで置いておいて、公式の定義や具体的な事例にも触れ、理解が進んできた段階で混乱を招くおそれがあるのが、定義Bと定義Cの違いです。

 「デザイン経営」宣言の定義Bでは、デザインを、プロダクト等の外観を整える伝統的な領域だけではなく、「イノベーション創出」と「ブランド構築」に活用することが示されています。新製品や新サービスの開発、あるいはブランディングの最終工程で、見た目をカッコよく仕上げといてねとデザイナーに依頼するのではなく、それらの最初の段階からデザインのアプローチを取り入れていきましょう、というのが定義Bにおけるデザイン経営の意図するところです。
 そうすると、デザインの対象は「イノベーション創出」と「ブランド構築」ということになりますが、ブランディングのプロセスにはこれまでもデザイナーが一貫して関与することが多かったので、主としてイノベーション、事業開発のプロセスに初期段階からデザインのアプローチを取り入れる、具体的にはデザイナーの関与を深めていくところに、「デザイン経営」宣言の主眼があるといってもよいのではないでしょうか。
 そうすると、それは「事業開発におけるデザインの活用」であって、デザインが活かされるのは「経営」ではないのでは?という疑問が湧いてきますが、「デザイン経営」宣言には、デザイン経営と呼ぶための必要条件を、
① 経営チームにデザイン責任者がいること
② 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること
の2点と規定しており、イノベーション創出やブランド構築におけるデザインの活用を、経営レベルで推進することをもって、デザイン「経営」と呼んでいるものと考えられます。

 これに対して定義Cでは、「デザイン経営の好循環モデル」というモデルによって、「人格形成」を軸に「価値創造」「文化醸成」という3つのデザインが循環することが示されています。
 といってもよくわからないかと思いますが、定義Bの「デザイン経営」宣言の図と比べてみると、「価値創造」は「イノベーション創出」の青い円、「文化醸成」は「ブランド構築」の赤い円と概ね対応するので、
「人格形成」という新しい要素が加わった
② 「人格形成」を軸に「価値創造」「文化醸成」の3つのデザインが循環する
という2点が、定義Bとの相違点になっています。

「デザイン経営」宣言の図と比較した「デザイン経営の好循環」の特徴

 この違いの意味するところも「あらためて考える 中小企業のデザイン経営」の記事で詳述していますが、自社の思いや「らしさ」(アイデンティティ)や未来の自社の姿(ビジョン)を明確化する「人格形成」を軸に、社内の意識共有(インナーブランディング)と社外の仲間作り(アウターブランディング)によって「文化醸成」を進め、自社らしさが活かされた製品やサービスによって固有の「価値創造」(イノベーション)が推進され、それがまた「人格形成」に重ねられる循環を生み出すことは、定義Bの意味を超えて、経営そのものがデザインの対象になっているといえるのではないでしょうか。

 組織の規模が大きくなると、こうした循環を全社レベルで捉えることが難しいため、大企業における「デザイン経営」は必然的に定義Bで捉えられることが多くなるでしょう。また、何もないところからビジョンを掲げて立ち上げるスタートアップは、起業自体が「人格形成」であるので、デザインの対象としてはイノベーション創出やブランド構築といったレイヤーが意識されやすく、定義Bで捉えるのがしっくりきやすいのではないかと思います。
 これに対して、創業時の思いが忘れられてしまいがちであったり、時代が変化する中でアイデンティティの再確認やビジョンの更新が必要となっていたりする、社歴を重ねている中小企業、規模的に企業の全体像を捉えやすい中小企業では、「デザイン経営」を定義Cで捉えて、事業開発やブランディングといったレイヤーだけでなく、経営全体の変革を目指すことが有効と考えられますが、「デザイン経営の好循環モデル」は、そのことを視覚的によく表している図であると思います。

 以上のように、「デザイン経営」の解釈が混在しており、論者によってデザイン経営の定義が異なることが、デザイン経営をわかりにくいものにしている大きな要因の一つといえるでしょう。
 定義Aの誤解を解消していくべきは勿論のこととして、おそらく今後もメディアやイベント等では、デザイン経営を定義Bの前提で論じられることが主になっていくと思いますが、特に中小企業とその関係者に対しては、定義Cのデザイン経営のあり方について(そういう意味では「デザイン経営」という用語を変えた方がわかりやすいのかもしれませんが…)、しっかり伝えていくことが必要であり、これからもそこに注力していきたいと思っています。

3.企業経営は「デザイン」によってどのように変わるのか?


 なにもデザイン経営に限った話ではありませんが、新しい経営手法が提案された際に必ず出てくるのが、「それってどんな効果があるの?」という疑問です。
 その効果を明確に示そうにも、まだ定義すら曖昧で、あまりにも材料が不足している状況下で定量的なデータを示されても、かえって恣意的で胡散臭いものに見えてしまいかねません。ですので、ここでは企業経営の基本的なメカニズムにおいてどのような変化が起こり得るのか、まずはその点について、先ほどの定義A~Cに沿って順に考えてみたいと思います。

 定義Bの「デザイン経営」宣言では、デザインを「イノベーション創出」と「ブランド構築」に活用するとされていますが、イノベーション創出もブランド構築も企業経営の一側面であり、企業経営の下位レイヤーに位置づけられるものです。そして、イノベーションにより生まれた新商品がデザインの対象となり、ブランドを構築するためのパッケージ、ロゴ、Webサイトもデザインの対象ですが、それらはイノベーション創出やブランド構築の下位レイヤーに位置づけれます。

 そうした構造化において、定義Aのデザイン経営(よくある誤解なのでそもそもデザイン経営には該当しないのですが)においてデザインがどのように作用するかを図示すると、以下のようになります。

定義Aにおけるデザインの役割

 定義Aの下では、デザインはおおよそ伝統的な領域に適用されるのが中心です。ブランド構築の分野では、個々の対象物をデザインするだけでなく、ブランドイメージの形成にもデザインのアプローチが活かされているケースが少なくないでしょうが、デザインといえばパッケージやロゴといった成果物に意識が向かいがちであろうと思います。
 この状態において、デザインはイノベション創出やブランド構築において発生するオペレーションの一つとしか認識されず、経営に作用するような性質のものではありません。

 これに対して、「デザイン経営」宣言の定義Bでは、伝統的な領域だけにとどまらず、新製品・新サービスなどの事業開発のプロセスにもデザインのアプローチが適用されることになります。加えて、ブランド構築全般におけるデザインの役割も明確に示そうとするところが、「デザイン経営」宣言の意図といえるのではないでしょうか。

定義Bにおけるデザインの役割(1)

 ただ、こうした理解だけだと、デザイン「経営」とは言いながらも、デザインの対象が企業経営のレイヤーには及んでいないように見えます。
 この点については、先にも述べたように、「デザイン経営」宣言には、デザイン経営と呼ぶための必要条件が、① 経営チームにデザイン責任者がいること、② 事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること、と示されていることから、企業経営のレイヤーにデザイン責任者を置き、イノベション創出とブランド構築におけるデザインの活用を経営レベルで推進することをもって、デザイン「経営」と銘打っているものと思われます。
 そのため、定義Bを前提とするデザイン経営に関する議論では、組織論やワークフローなどのデザインマネジメントのあり方が論点になりやすい印象ですが、ここにおいて論理思考を基盤としている企業経営やイノベーション創出にも、デザインのアプローチが影響を与えることになってくると考えられます。

定義Bにおけるデザインの役割(2)


 そして、「デザイン経営の好循環モデル」に基づく定義Cでは、「人格形成」を軸にした、イノベーション創出に対応する「価値創造」と、ブランド構築に対応する「文化醸成」が循環することで、企業の持続力を高めるという、企業経営のあり方自体にデザインのアプローチが適用されることになります。
 企業経営のレイヤーにおいて、論理思考の意義が失われてしまうわけではありませんが、論理思考を基盤にして機能や価格の競争に明け暮れると、経営の指針が他と同質化して主体性を失い、埋没してしまうことになりかねません。変化が激しく正解が示されず、中小企業にも自立が求められる時代において、持続のために求められるのは、自社が社会に存在する意義を明確に意識し、固有の立ち位置を確立していくことです。「人格形成」を軸にした「価値創造」と「文化醸成」の循環こそが、その基盤となり得るものと考えられます。
 そして論理思考は、企業のあり方を決定するために用いられるのではなく、好循環を生み出す確率を高めるための手段として機能すべきものと、あらためて位置づけを明らかにすべきではないでしょうか。

定義Cにおけるデザインの役割

 デザインのアプローチによって、自社の存在意義、自社が社会に存在する意味をあらためて問い直す。これからも社会に求められる存在として、自社はどのようにあるべきなのか。そうした意味を問うとともに、自社がどうやって抜きん出るかと分離的に考えるのではなく、いかにステークホルダーや社会と有機的なつながりを築いていくかと融合的に考える。それがこれからの時代の「持続力を高める」経営につながるのではないでしょうか。
 デザインのアプローチを経営自体に適用する意義はそこにあり、だからこそ定義Bでは「企業価値向上のため」とされていたデザイン経営が、定義Cでは「企業の持続力を高める経営」と再定義されているのだ、と自分は解釈しています。

 そのように考えると、自分の専門分野である知財に対する見方やアプローチも、必然的に変化していくはずです。分離・差別化の促進ではなく、自社の固有性の顕在化(差異化)と融合による価値創造が、主目的へと移行していく。
 中小企業との関連で関与することが多い地域産業の活性化の領域でも、基本的なアプローチを変えていく必要があるのでは?と考えているところですが、そのテーマはまた、次の機会に書いてみたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?