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ピンと立つトリッパ「ジリオ」西新橋

開店当時につい、立ち寄った。西新橋というと聞こえは良いが、新橋と浜松町の間、空白地帯の小さなビルの地階だ。何の情報もなく立ち寄るには勇気が要る。

しかし、店に降りる入口に立てかけてあった、このあたりに似つかわしくない旗のオブジェに誘われるように、何の気なしに立ち寄ったのだった。そして、たまたまハチノスのトマト煮込みや白いんげんのマリネというものを食べた。

…やべえ、トスカーナ料理、旨い。

ハチノスなんて、ホルモン焼肉ぐらいでしか食べたことがなかった。正確には、仔牛のトリッパとアーティチョークの煮込みというらしい。「トリッパ」だ。こちらの店の代表的な一品だ。トマトソースにまみれた大振りのハチノス、もといトリッパは白く、角がピンと立っている感じだ。上質の素材を使用し、しかも丁寧に下処理されているに違いない。

白いんげんはどこかフレッシュさを残しつつ、きちんと茹で上げられている。まろやかなヴィネガーの風味を纏って、サラダのようにみずみずしい。

私はイタリア料理といえば、パスタとピッツア、あと生ハム?ぐらいしか思いつかない人間である。しかし、一口、二口、この店の前菜を味わってみると、新鮮な素材と、シンプルな味付け、煮込み過ぎない潔さ。どれもこれもワインに合う、すばらしい一皿を出してくれることに感動を覚えた。

ちなみに私は肉を食べても、「赤ワイン」煮をたべても、ワインは白を頂く(どうでもいい話ですな)。

これは良い店を見つけたとご機嫌だったが、オープンから数か月たつと、様子が変わってきた。とても若い、おしゃれな女性客が激増したのだ。お決まりのパターンだが、若い女性客が増えてから、心なしかおしゃれな男性客も増えていった。それまで西新橋のサラリーマンが座ってきた席に、麻布十番からわざわざ足を延ばしてやってきたジェントルメンがとってかわった、という感じ(偏見)。

入りづらい。

店のことを考える。もっさもさの一人客が入店。しかし、その客は、ビール二杯とワイン一杯を注文する。そう、アルコール飲料で店の売り上げに貢献している(若い女性たちは概ね酒は控えめと想像する)。だから、それだから、しばらくは通ってみる。

いつぞやはディナーで炭火焼の素晴らしいステーキを堪能し柄にもなく赤のボトルを開けた。…そして、ほどなくして夜は予約しなくては入れない店となっていく。人気雑誌にでも掲載されたのだろうか。

足が遠のいてからずいぶん経ってしまったが、お店は今も健在。

トリッパとよく冷えた白ワインで再びほろ酔い気分に浸りたいものだ。

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