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憧れのモデルさんを10分間撮るために、2年と2時間を要した話

年末年始は何書こうか迷ってしまう。
1年を振り返るか?でも振り返りはやり終えて飽きた。

なので「1人のモデルさんを撮るために2年と2時間を要した話」します。

単に「お前がチンタラしとっただけやろ」って話でありつつ、10分間撮影という限られた時間に対して私がどれだけ準備を必要とする心配性なのかという話。
逆に10分間でモデルさんに失礼なく楽しんでもらえるためのアプローチの話かもしれない。
もしかしたらポートレートを撮っている人に刺さるかもと思いながら書きます。

2024年という挑戦の年を締めくくる1本です。


2年かかった話

今回撮影させてもらったのは夢々むむさん
有償でモデルをなさっている方です。

ポートレートの勉強をしようと、いろんなアカウントを覗いては写真を眺めていた頃。
その際にフォローしたたけぼんさんの撮られた夢々さんの姿に感銘を受け、お二方のファンになっていました。
直近の例だとこんな感じ。

格好いい、美しい、儚い、神秘的、と出る限りの形容詞を尽くしても形容しがたいような、アートとしてのポートレート。
いずれ自分もこんな風に撮ってみたいと。
そしてポートレート展示へ足しげく通い、夢々さんがモデルの作品、そして素晴らしいフォトグラファーさん方の作品に触れていったのです。

しかし、夢々さんへ撮影をお願いすることは2年間保留していました。
・自分の実力が足りておらず、不完全燃焼で終わりそうだった
・金銭的に厳しい時期であった
・お願いするからには反響を含め実利を求めたかった
・とはいえ自分の名声を高めるためだけにお時間をいただくのは心苦しい
と当時の心境や状況的に色々難しく、「いつかお願いしたいです~」と本心で言いつつも申し訳ない期間を過ごしていました。

「お金払うんだから別に気にしないでいいだろ」という意見が脳内で生成されますが、私にとっては金銭は時間に対しての報酬ではなく、リスペクトを通貨に替えて渡している行為です。
お時間を割いていただく以上、いかにお金を渡すとはいえ「無駄な時間だったな」「この人との撮影は単に負担だな」と思われるのはあってはならないと考えています。

これはひとえに役者さんからお金をいただいて撮影している経験から来るもので、逆の立場になるなら相応の振る舞いが必要と肝に銘じている、ただの生真面目です。

というわけで、2年間眠らせていたわけですが。
ここで最大のチャンスが訪れます。

10分間の撮影に2時間準備を要した話

夢々さんがこんなポストをしてるのを見つけまして。

「○○展在廊します!ご要望あれば10分撮影もします!」

10分撮影について説明すると。
普通の撮影依頼がだいたい2時間からというそれなりの時間で、それなりの金額が掛かる。
でも展示の在廊の必要があって長時間離れられないときに、10分間という短時間でお手軽金額で撮影ができる、というプラン。

これは要望すればいつでもOKというわけではなく、当然写真展などのイベント期間中、かつ依頼を受け付けている時にしかお願いできません。
私の印象として夢々さんが10分撮影を受け付けているケースは、一般的な撮影会モデルさんと比較すると少ない。
これはまたとない機会なのです。

しかし問題がいくつかあります。
・10分だと移動できる範囲が限られる(会場から徒歩圏内)
・土地勘がまったく無く、撮影映えする場所でもない
・公園が近隣にあるが住宅街なため子供が遊んでいるかも
といった様々なトラブルの種をひとつひとつ摘んでいかなければ、「やっぱ10分じゃね~」というありきたりな感想だけ吐くマンに成り下がるだけです。
そんなのただの力不足でしょう。

そこで写真展会場近くの散策を、会場に入る前の1時間半かけて行いました。
いわゆるロケハンです。

普段の役者さんとの撮影も当然ロケハンしますが、それと比較しても念入りに。

あ、タイトルにある「2時間」の残りの30分は(あぁ夢々さん人気過ぎて常に声を掛けられてて話しかけられない~あぁ緊張しすぎて声かけられない~)となっていたタイムです。
心の準備です。

コミュ弱者です。

具体的な計画

今回の会場は、東京メトロ丸ノ内線「四谷三丁目」駅の近くでした。
地図で言うなら下の画像の左上のあたりに会場があります。

左上の美術館が会場

周辺は住宅街で、あとは飲食店が軒を連ねている。
大通り沿いは見栄えがするわけでもなく、人通りが多く、これといってランドマークとなるような物もない。
日差しもビルに阻まれ気味。
撮影条件としては悪い。

とは言え救いがないワケではありませんでした。
・大通り沿いはイチョウ並木になっていて、散り始めてはいるけど葉はついている
・晴れていて、タイミングさえ良ければ冬の陽射しと撮れる
この条件下で、かつ10分間で動ける範囲の導線を念入りに考慮します。

まず真っ先に考えるのは「公園使えないかな」でしょう。
私もそう思いました。
しかし上述の通り子供が遊んでおり、私のポリシー上撮影が憚られる状態でした。
併せて、在廊していたのであろうモデルさんとカメラマンさんが撮影なさっていて、かつ撮影の順番待ちまでされているようだったので、ここはすぐさま却下しました。

住宅街も考えたのですが、近隣にお寺隣接の墓地がありまして。
ここも撮影すべきでない。
となると公園から大通りにかけての路地すべてが却下。

また大通りに出てから移動するプランも考えました。
しかし移動したところで映えるスポットがあるワケでもなく、かつ移動時間にそこまで割けないので、これも却下。
ただし四谷三丁目駅方面に少し歩くと、日当たりよくてイチョウの木があるスポットがあるという情報は得ました。
ここ以外は日が射しておらず、10分間ではバリエーションが出せないと判断。

最終的には「会場を出て大通りに向かう道中でトーク・自己紹介をしつつスナップ、大通りに出て軽く撮り、日当たりのいい木のあたりで逆光フレア」がルートになりました。
レンズ交換の時間もないので、メインは失敗のリスクを把握したうえでマニュアルフォーカス(自分でピントを合わせるレンズ)のオールドレンズ1本、出番ないかもだけどサブでもう1本、と判断。
実際に歩いて、撮影のテンポとか考慮してみて、10分に収まりそうというシミュレーションまで終えて、会場に入っていきます。

赤で塗ったルートに決定

いざ実践

緊張のあまり会場で30分うろちょろしていたワケですが。
いよいよお声がけして10分撮影開始です。

この時のルールは、会場を出たタイミングでタイマースタート。
ルート構築の際に「最も時間がないパターン」という形で考えていたものでした。
ちなみに一番楽観的なのは「1カット目撮ってから10分間」というものですが、これはアテにせず”そうなったらラッキー”くらいに。

トークは反省点があるので後述。
そして歩きながら話しながら、レンズを向けてみたのがこちら。

あ、これがプロか、と。
モデルさんが一流だと自分も引っ張ってもらえる。
それに応えるだけの技術は出せるか?と思考が巡る。

……などと考えつつ、「あああああああああああステキですスキです最高です」と声に出していました。
どっちも本心です。

大通りに出て、横断歩道と撮る「アビィロード構図(造語)」にも挑戦しました。
まぁ日当たりが悪かったので次点。

モデルさんにも光が当たらないとむずかしい

この日のメインは逆光だろう。
そう思い最後の1分でラストスパート。

はい勝ちました。
10分だけとは言わせません。
10分でも決めきれと言われれば決めきります。

あとは個人的なブームのアクセ撮り。

撮ってみて振り返り

まずは夢々のリアクション。

ありがたいことに「10分撮影とは思えない」とお褒めの言葉を預かりました🙏
写真撮りの冥利に尽きますね。

写真の出来栄えについての自己評価としては「すべてのカットにおいて100点満点を出せたわけではないが、普段の好きで撮っている画面構成において天候が味方して十分なアウトプットが得られた」くらい。
気取らずに言うなら「夢々ステキが過ぎる尊い🙏」

といいつつ、この話を美談として語るには少々危ういです。
仮にプロという立場でこういった話をする場合、これはときに愚かなことであると非難されうるのです。
なぜなら回収不可能なほどコストをかけているから。
ビジネスであると仮定するなら、コストは売り上げと相殺して回収可能とするか、ないし「新たな仕事を獲得するための仕事」のような割り切りが明確であるか、という必要があります。

しかし私は写真でメシ食ってるわけではないので、プロを自負していません。
夢々さんの撮影はいちファンとして撮らせてもらった認識でいて、かつ彼女の審美眼で見た時に相応の実力があることをアピールできれば目的を達成できる、という立場だから成しえたこと。
なので「撮影に臨むからにはこれだけ準備が必要なんだぞ」と脅迫的に周知することが目的ではなく、ある種ネタとして、また「失敗しないことをmustとする撮影であればこれだけ労力をかけるというケースの話」という認識を頂ければ幸いです。

裏を返すと、上でも述べましたが「10分という限られた時間の中で結果を残すための準備」としては必要だったと思います。
何度も通ったり撮ったりしている道、何度も撮っているモデルさん、とかであればその限りではないですが、両方ない状態なのであればどちらか一方の勝手を知らなければなりません。
私が心配性だと言われればそれまでですが、ある程度実績を積んだ私であっても安全策を講じるならこの程度必要、というお話し。

そして何より。
夢々さんがステキすぎて眼福でした。

おわりに:反省点、あと年末のあいさつ

実は反省点もあるにはあって。
その内容については来年書く予定の記事に並べるつもりでいるので、詳細は割愛。
人からしたら気にならない点でしょうが、自分の心配性からアンチパターンとして発展させるムーヴは有効とみているので、2025年は活かしていくつもり。

夢々さんには改めて最大限の感謝とリスペクトを。
やはり数多くの賞を受賞なさっているモデルさんだけあって、レンズを向けた瞬間にすべて成立させてくれる、いわゆる「撮らされてる感」を心地よく体感させていただきました。
またお願いします。

さて、本稿併せて54本の記事を投稿してきた2024年ものこすところ大晦日のみ。
私は箱根神社で大祓式に参列して一年の厄を祓い、清い心で新年を迎えるつもりです。
初日の出は体力的に無理でしょうから誰か頼みましたよ……

本年も皆さま大変お世話になりました。
私の雑文をご覧いただいて嬉しさの限りですし、文章を通じて知ってくださった方との交流も楽しかったです。
新年一発目は目標の記事でも書こうかな。
今後も毎週だいたい月曜日と気が向いたときにプラスアルファで投稿してまいりますのでお付き合いください。

皆さまの来年一年がより良いものであることをお祈りして。
よいお年をお迎えください。
それでは。


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たかはしあさぎ
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