エンタメマーケティング13 ③ 2,5次元舞台からお客様を取り込む
劇団を中心として舞台をやっている人にとっては、一番気になっている所だろう。
「2,5次元舞台で舞台の楽しさを知ってもらい、うちの劇団の舞台も見に来て欲しい」
もっと舞台の楽っさを味わって欲しい」
そう思うのが普通だ。
実際、2,5次元舞台で名前を売った脚本家や、監督が自身のオリジナルの舞台を今までより大規模な公演でやるケースも、既に出ててきている。
では、それでどうやって2,5次元舞台からお客様を呼べるのか、
三つの方法を挙げてみよう
①2,5次元舞台で一緒になった役者の起用
これは皆さんも想像しただろう。
お互いに知っていることもあり本人たちも仕事がしやすいというのもあるが、「この演出家とこの俳優さんは相性がいい」と思われる作品を2,5次元舞台で作れていたら、お客様は必ず来てくれる。
若手俳優は安く使える上に2,5次元舞台で名前が売れているという、大変使いやすいポジションにいる。
もちろん中にはギャランティーの高い役者もいるだろうが、ジャニーズタレント等を使うより、熱心で幅広い年齢のファンを持った若手俳優の方がはるかにコストパフォーマンスが良い。
②きっかけの最初の一回を作る
ターゲットとなる顧客はヲタクです。
ヲタクはよくお金を使うので金が無い。
そして趣味の予定で土日はかなり先まで埋まっている生き物です。
なので、よほどのことが無いと来ません。お金は無く予定は詰まっているのだから。
たまたま予定が無い上にお金がある時期というタイミングで当日券がないと中々足を運んでもらうきっかけになりません。
しかし、そのたまたまの1日の三時間前後を舞台に使ってもらうにはどうしたらいいのか。
まずはキッカケを作る。
「○○が監督をした××(2,5次元舞台)の公演の半券お持ちの方当日券500円OFF」等、運営に支障の無い範囲の値段設定で値引きをする。
これは安くする日を設け、三日四日前に告知することが大切だ。
事前に告知してしまうと、それ目当てで定価でチケットを買ってもらえない。
この告知方法にはメリットがある。仕事をしていてお金をもっている大人が予定を組みやすいからだ。
社会に出ると「残業」という忌まわしいモノのせいで、三ヶ月先の公演のチケットを買うには勇気がいるものだ。三日四日前なら残業の予定も見える。当日券とはありがたいものである。
しかし、早い者勝ちや、抽選などで無駄足になると結局新規顧客開拓は難しい。だからと言って先日あった「舞台刀剣乱舞」のようにチケット会社のシステムを使っての抽選は申し込み時間に指定のコンビニにいくことが難しいことや、システム使用料がかかる小劇団等には無理な話である。
そんな時はSNSである。
ヲタクの99%はTwitterアカウントを持っていると言っても過言では無い。
Twitterアカウントなら一人一つで、被ること無くIDを持っている。本人確認としては十分に有効な手であり、DMという形で当選通知もできる。
最初の一回の障害を乗り越えれば、かなりの高い確率で来てくれるでしょう。友達も誘って。
③自分自身の名前を売る
これは難しい。
しかし2,5次元舞台の顧客は元々アニメや漫画のヲタクである。彼らはアニメを見ながら「今日の作画監督は○○だ」「きょうの脚本は△△だ」と裏方と呼ばれる仕事をする人もチェックする人が多く、脚本家、演出家、監督の名前等チェックをしているものだ。
そして、2,5次元舞台は必ずの言っていいほどDVDで舞台裏、練習風景の特典映像があり監督や演出家等に親近感を抱きやすい。
なので「○○さんがやるなら行ってみようかな」となる可能性は十分ある。
もちろんこれの条件には「安い」「他の2,5次元舞台がかぶっていない」「お金と体力と時間がある」というのが条件にあるので、前項にあげた当日券でフラリと行ける環境があるとなお良い。
これらの方法の中で多く実践されているのは①である。
しかし、この問題には大きな欠点がある。
「2,5次元舞台が評判が悪かったら、どんなに若手俳優を使っても人が集まらない」
当然は当然だがこれは大きな課題である。
普通の舞台の演出がうまい人でも2,5次元舞台が下手な場合がある。
なぜならば2,5次元舞台というのは「二次創作」的な要素があるからだ。原作のファンがたくさんいる分、そのストーリー、キャラクターを役者で表現しなくてはいけない。
ヲタクには「地雷」と呼ばれる「自分が見たく無いものがある」その中でも一番共通して「地雷」とされるものは「解釈違い」である。
ストーリーは創造主である原作作家に従うしかない。しかしその解釈はそれぞれ読者によって違う。特にキャラクターの性格や纏うオーラなどは読者によってこだわりを持つ。
「ここで、こう振る舞うこのキャラクターがセクシー」
「この場面で見ているだけなのが、このキャラクターらしい」
等、そのキャラクターのどこに魅力を感じるか、どこに「萌え」るかのポイントのようなものだ。
その魅力がうまく表現されていないと2,5次元舞台は魅力はなくなる。
ここで具体的に失敗例を紹介する。
申し訳ないが実名、実作品を上げる。
「曇天に笑う」という漫画が舞台化している。
内容としては和風の妖怪と戦う系とだけ紹介しておこう。詳細は読んでいただきたい。
爆発的なブームのような人気が出たわけでは無く、根強いファンが安定している作品だ。
主演は舞台は「玉城裕規」
独特の色気のある雰囲気に劇団で鍛えた舞台ができる声量に演技力が魅力の人気の若手俳優である。本作以外にも定期的に2,5次元舞台に立っており演劇色の強い「ライチ☆光クラブ」のジャイボ役や、王道の2,5次元舞台として人気の「弱虫ペダル」の東堂尽八など、2,5次元舞台だけでも幅広く活躍している。
一般の舞台にも主演しているが、その独特の魅力目当てのファンも多く、色気のある役などであれば、確実に先行は激戦になり、初日、千秋楽土日は完売させるだけの人気は確実にある。
逆に「普通の青年役」等では少し客入りは少ないが、本人のネームバリューだけでも平日公演でも人は適度に集められるといったところだ。
そんな曇天に笑うの主人公「天火」にピッタリの彼が主演と発表された時点で期待値は高く、他のキャストもキャラクターのイメージに合った若手俳優が決まっていたこともあり、第一回公演は先行も殺到、発売後一瞬で完売した。
行くことが出来なかったファンがDVDを買った。
そんな人気が出た舞台だ、主催者側としては再演も行いたいに決まっている。
再演が発表され「主演は再び玉城裕規」一部キャストは変わったものの、ほぼ前回のスタッフで行われることが、発表されチケットの先行がはじまった。
そして、一般発売された。しかし売れなかった。
大阪公演も行うことにしたにもかかわらず。
東京大阪ともにチケットが売れなかった。
当日引換券の案内がギリギリの時期に宣伝され、大阪公演はA席のペアチケット割引なども行われた。
原因は簡単だ。
前回の公演が面白くなかったのだ。
マーケティングのプロとして、こればかりはどうしようもない。お客様を集める、分析する、もちろんそれを元に脚本や、演出に案を出すことはできるが、脚本演出監督者では私は無いので強く言うことは憚られる。
しかし、明らかにつまらなかったのだ。
原作ファンは「原作の雰囲気が再現できていない」
役者のファンは「役者さんの良さが殺されていた」
と感想を漏らしていた。
初演の時に楽しみにして見に行った原作ファン友人は普段感想を言うのだが何も感想を言わなかったのを覚えている。
その時ファンが思ったのは「演出も脚本も悪い」だった。
私も友人にDVDを見せてもらい確認したが同意しかなかった。
原作の惹きつけるような色気も、役者達のオーラもないと感じた。
一度見た人間は「役者さんは見に行きたいけれど、あのままの内容なら行きたく無い」というのが本音だった。
主催者は公演後の調査などしてないのだろう。仮にアンケートを設けていても、悪いことは書けない。それどころか早く帰るために、目当ての役者が良かったと開演前に書くお客様も少なく無い。
そのチケットの売行の悪かった「曇天に笑う」の演出家「菜月チョビ」が旗揚げのメンバーとして中心的に主催している劇団鹿殺し15周年記念公演「名なしの侍」に、「曇天に笑う」の主演、玉城裕規が参加し池袋サンシャイン劇場(800座席)ナレッジシアター(380座席)で行われることになった。
この「劇団鹿殺し」は①にあげた近い方法も含め「普段劇場に来ない人にも足を運んでもらおう」と、日本ではあまりない生バンドや、Cocco等シンガーソングライターと舞台を一緒に作るという取り組みをしており、確実に面白いことをしている劇団である。学割などもあり、マーケターとしては本当に興味深い劇団である。
しかし、チケットが売れ行きがいまいちである。
プレゼントに非売品ステッカー(二種で選べないが2枚買うと両方もらえる)リピーター特典に同時に4ステージ以上購入されたお客様に「名なしの侍」(非売品)オリジナルポスタープレゼントなどつけたキャスト特別先行を行ったが、第二回のキャスト先行まであった。内容は「座席10列目以内」「オリジナルうちわプレゼント」「フルカラーオリジナルチケット」
一般的な感覚としての「ゲスい商売だな」という感覚もあるが、
ヲタクは、好きな役者が4回も観れ、ステッカー2枚貰え、ポスターのためなら公演4回分、約2万円くらいなら出すだろう。
2万なんてイベントで旬ジャンルの同人誌10センチ分にもならない。
その後もチケットが売れなかったのか「アフタートーク」等の発表があった。その甲斐あり、座席指定の座席表を見る限り9割は売れたようだ。
十分成功の域ではある。
しかし
「これだけやって完売していないとはどういうことだろう」
というのがマーケターとしての素直な感想だ。それでもこれだけ売れていれば公演としては成功だが。
実際Twitter等で簡単な調査をすれば「これは玉城裕規が出ていても行かない」「時期的に他のとかぶるし」「他の公演に行くからお金無い」という意見が多かった。
ちなみにこの「他のとかぶる」の他のという作品が両方2,5次元舞台ではないが、2,5次元舞台で活躍している俳優を上手く使うことで有名な舞台である。
1つ目が
劇団少年社中
第32回公演「三人どころじゃない吉三」
主演の鈴木拡樹は戦国鍋などの若手俳優の登竜門的な番組を通り、おっとりとした本人の性格に反し舞台弱虫ペダルで元ヤンキーの荒北靖友役、人気漫画の最遊記の舞台版で主人公である玄奘三蔵等の気の強い荒々しい役をするなど、実力派でありながらアイドル的な要素も持った今一番客を呼べるであろう若手俳優である。
脇を固めるのはダンサーであり2,5次元系舞台、CM等で活躍する中村龍介、声優で俳優の山本匠馬等人気の役者を起用している。
はっきり言うと顧客動員としては「鈴木拡樹」の方が「玉城裕規」よりも勢いがある。
しかし、少年社中が人気なのは脚本演出を担当する「毛利亘宏」その人の力だろう。
2,5次元系舞台ではミュージカル薄桜鬼の脚本演出、メサイアシリーズの脚本、仮面ライダーシリーズ、レンジャー系の作品で脚本を担当している。
彼の手がけた2,5次元系舞台は長期間続き、観客動員を増やしている。そして、それがきっかけで「役者を上手く生かしている」と評判になり、ただでさえ取りにくい少年社中のチケットはまったく取れなくなった。
過去作品のDVDもプレミア価格で取引されている。
もう一つの作品が、また鈴木拡樹出演作品だが
水木英昭プロデュースの
「眠れぬ夜のホンキートンク第二章」
の第3作目である。
ホストクラブでのドタバタコメディ舞台で第二章の第1作品目はDVDで見たが、ストーリーも面白く笑いもあり、面白い舞台を見たあとの満足感に満たされた。
こちらも一般発売はネット電話混戦。平日の昼公演や地方公演はまだチケットがあるので是非見ていただきたい。
よく「広島の客は厳しいから新商品の実験に使う」と言われるが、舞台も同じく、実力のある舞台は必ず広島を回ることで有名だが、その広島で1日だけ2公演のみだがアステールプラザ中ホールの547席が9月公演にも関わらず既に完売寸前である。
大竹しのぶの「ピアフ」の公演で夜1公演のみでアステールプラザ大ホール約1200席をを埋めることを考えれば、実力のある舞台だとわかっていただけるだろう。
このような成功例を参考に
是非2,5次元系舞台の脚本演出監督などに乗り出してほしい人、是非2,5次元系舞台の役者を採用し、もっとこの劇団の良さを知ってもらいたいという劇団を紹介する。
山田ジャパン
山田能龍が2008年に立ち上げた劇団で劇団の役者として芸人でもある「いとうあさこ」が参加している。
友人の作曲家のmi-onが劇中音楽を担当したという事で、名前を知った劇団だ。内容も特に知らず、役者もチェックせず前日に突然行くことに決めたのだが大当たりだった。
「ソリティアが無くなったらこの世は終わり」という、いしだ壱成が主演の自殺をテーマにした重い作品でありながら、大爆笑するコメディ舞台だ。
当日券の見切れ席なので一番前だったのだが大泣きしながら大爆笑をした。公演後の挨拶で目の前に立っていた役者さんが笑うほど大泣きをした。
あんなに楽しい素晴らしい舞台を見たのは初めてだった。
あまりにも素晴らしかったので友人に「チケット代出すからお前明日見てこい」と言って行かせた程だ。(友人も大号泣で大爆笑したらしい)
しかし残念なことに、渋谷のCBGKシブゲキ!!という242席しかない舞台だった。その上、演者の友人含め関係者率の高いこと。(厳密に言うと私も関係者的状況だったが)
作品で感動して泣いたのに、帰りがけmi-onに「こんな素敵な舞台がこれだけの人にしか見てもらえないなんて悔しい。マーケティングの力があれば三倍の集客はできるのに」と泣きながら悔しがった程だ。
エンタメにマーケティングが浸透していない事であんなに泣いたのは6、7年ぶりのことだった。
もちろん2,5次元系舞台の脚本で名を売ってほしいのは、この劇団の代表であり、この作品の作演出を手がけた山田能龍(@yoshitatsu34)である。
この記事を読んでいる中には2,5次元系舞台の関係者も多くいるだろう。是非、検討していただきたい。
山田JAPANには若手俳優を使ってもっと大きくなってほしい。
若手俳優にはこの素晴らしい劇団の作品を演じてほしい。
そして、一番はこの劇団の素晴らしい作品を世の中に知ってもらうきっかけになったら素敵だ。
私個人としては「ソリティアが無くなったらこの世は終わり」を再演しほしい。DVDも買うが、また生で見たい。
この2,5次元舞台ブームを一過性のブームではなく、演劇観劇文化の根付かせるきっかけにして欲しい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?