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最後のウイルス ⑧ 「連載小説」

感染8日目 夜
幸太郎は帰り道、急いで帰るように努めた。駅前を通りすぎる途中走りながらぶつかる人間を見たからだ。(博士が言うには転ぶ瞬間に宙に浮かぶ感じがしてそれが快楽になっているらしい。)優子に悟られないようにするために一刻も早くその場を立ち去りたかった。
幸いにもぶつかった時の音は聞こえていなかったようだ。

優子の部屋には何事もなく到着した。二人で座ってお茶を飲んで一息ついた。
しばらく黙って二人で座っていた。

沈黙が訪れると幸太郎は考えてしまう。

もし立場が逆の状態でもう一度初めて出会うことになったらどうなるかと想像していた。

もし自分自身に症状が出ていて目だけがが見えない状態で優子と出会っていたらどうなるんだろうか?

優子の声を聞いて好きになっただろうと思う。

もし目は見えるが耳が聞こえない状態で出会っていたら?

優子の見た目だけで好きになっただろうと思う。

目も耳も両方ダメだったら?

見ることも話すこともできないとしたら好きにならなかっただろう。

優子の方はどんなパターンの自分自身でも好きになってくれるだろうか?

聞きたかった。

「もし優子と俺の立場が逆の状態で出会ったとしたらさ、優子は俺のこと好きになった?」

『わからないよ。そんなこと。私はなんとなく全体的な雰囲気とかで幸太郎君を好きになったから。」

恋愛感情を自分の心に生み出すために多くの人は目と耳で相手の人間性を得なければならない。

全体的な見た感じの雰囲気で判断したり、話す内容や話し方でなんとなく相手を理解したり。なんらかの相手の情報が必要なのかもしれない。話し方だけで判断できるかもしれないし、見た目だけでも判断できるかもしれない。
感染する前の人間は全てを与えられていたのに、本当の意味で相手をちゃんと認識していたのだろうか?本当の意味で相手を理解していたのだろうか?

「幸太郎君」優子は幸太郎の手に触れた。
幸太郎は優子の手を握り返した。全てを失う前にお互いを確かめるように二人は抱き合った。この時、幸太郎は何も言葉を発さなかった。自分の声が女性に聞こえるのが嫌だった。優子の前では最後まで男でありたかった。幸太郎はいろんな場所を唇で触れる。優子の触覚がまだ失われていないのを確かめるように。優子の出す声は幸太郎に女性を感じさせた。

                  続


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