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ヨコハマ・ラプソディ 15 白いスカートの少女

十五.白いスカートの少女 

俺の手が届かない遠くの先に、薄いピンク色のカーディガンに白いスカートをはいた、少女の後ろ姿が見える。
俺は女の子に声をかけようと思った。でも、なぜか声が出ない。
少女は前を向いたまま、ゆっくりと歩いていく。
待って! どこへ行くんだ! 待ってくれ!
そう言いたいのだけれど、声にならない。おまけに足も動かせない。
待ってくれ! 俺を置いていかないでくれ!
でも、女の子は俺の方を振り向いてくれない。
くそっ! なぜ、声がでない。なぜ、足が動かないんだ!
頼む! 待ってくれ!
やがて、少女の後ろ姿は白い闇の中へ、フッと消えて行った。

「志織っ!」

俺は思わず自分の声で目を覚まし、慌てて上体を起こした。でも辺りは真っ暗。ここはどこだ? あっ、ホテルの部屋だ。
俺は他の寮生五人と、一泊二日で映画のエキストラのアルバイトに参加し、熱海まで来ていて、昨夜はこのホテルに泊まっていたのだった。撮影は明日も早朝から行われる。
バイト料はそれほど高くなかったが、俺は志織との話のネタになると思って、喜んで参加した。
俺たちの役は、なんと刑務所から出所する幹部を出迎える大勢の暴力団の一員だった。
黒い背広を着て、ただずっと立っていなければならなかった。途中から腰が痛くなってきたが、なんとか我慢した。明日もまたあれをやるのかと思うと気が重くなる。

「うっさいな、松崎。女の夢でも見てたのか?」
同じ部屋の隣のベッドで寝ていた、同学年の長谷部が不機嫌そうな声で言う。
「すまん。なんでもない」
「なんだ、まだ四時じゃん。勘弁してくれ」
ベッドの枕元に設置された淡く光るデジタル時計を見て長谷部が言った。
「すまん」
(長谷部には悪いことしちゃったなあ。恥ずかしいけど、なんも言い訳できない)
気付くと、もう長谷部はすやすやと寝息を立てていた。なんとも寝つきのいいやつだ。
俺も再び枕に頭を乗せ、暗い天井を眺める。

はあ……、夢か。それにしてもなんという夢だ。
一か月も志織に逢わないと、俺はこんな夢を見てしまうのか。俺って相当、欲求不満なのかな?
でも、夏休み前にも一か月ほど逢えない時期があったけど、あの時はこんな夢、見なかったけどなあ。まあ、夏休みに入ってからずっと、色々あったからなあ……。
しばらくモヤモヤと考え込んでいたが、前日のエキストラのバイトで、午前十時頃から夕方の日没近くまで、何時間もひたすら立ちっぱなしで相当疲れていたこともあり、俺もいつの間にか深い眠りに落ちていた。

数日後、俺は志織と電話で話すことができ、久しぶりに逢える日が決まった。
よっしゃあ!

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三日月 秋
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。