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美しいフットボールの初優勝~2010南アW杯 決勝 スペイン1-0オランダ(延長)

決勝は、スペインが延長に挙げた1点でオランダを下した
おそらくスペインは、初優勝を勝ち取ったということ以上に、その美しいパスサッカーが頂点を極めた一戦として、後世に語り継がれるであろう歴史的な勝利をものにした。

パブリックビューイング会場のアジア人は、我々だけ

決勝に備え、3日前からヨハネスブルグに入っている。

一昨日、停電があった。
それ以来ネットが使えないので、プロバイダのコールセンタにクレームする。
すると、「お前の買った5日間有効のバウチャーが期限切れだ」だと言う。
嘘つけ。
あらかた、停電のおかげで、そっちのデータベースがぶっ壊れたんだろ。
よく調べてから電話するって? オーケイじゃそうしてくれ。
案の定、クレームつけた10分後には、何事もなかったのようにアクセス可能になった。
もちろん、電話などかかってこなかった。
全くいいかげんな国。

それと、待てど暮らせど届かない決勝戦のチケット。
そうこうするうちに、送られてきたメール。

Dear Euroteam Customer,
Due to unforeseen circumstances we where not able to deliver the ordered tickets for order ref. number:XXXXXX. We will refund you according to our terms and conditions. We deeply apologizes for any inconvenience this may have caused you and others.

「予期せぬ環境」って何だよ!というハナシだが、邪推するに「決勝カードが欧州同士で初優勝をかけて戦う」となった途端、人気が高騰した」ということなのではないかしら。
ここ南アは、距離こそ遠いが欧州とは時差がなく直行フライトもあるので、俄か富裕ファンが押し寄せたのではないか?、と。
チケット屋は、各国サッカー協会が払い戻したチケットをかき集めて再販しているので、供給が極端に細り手配できなくなった、ということなんだろう。
購入したのは、準決勝×2と決勝の3試合パックだった。
まあ、全額返ってくるようなので「タダで準決勝を2試合観れちゃったぜぃ」と気を取り直す。

Sandtonの外れの宿は実に不便なのだが、ひとつだけいいことがあった。
パブリックビューイングの会場まで、歩いて行けるぐらい近いこと。
結局、3位決定戦も決勝戦も、そこで観た。

だだっ広い公園の中に、仮設で組んだ巨大な液晶スクリーンが忽然と屹立している。
観客は、ざっと1,000人ぐらいだろうか。
9割が黒人。つまり、自国開催とは言えスタジアムで観戦できない、貧困層の方々である。
残りの1割は、白人。おそらく我々同様、チケット難民なのだろう。
アジア人は、どー見ても我々3人だけ。
客観的に考えたら相当危険な状況だが、まあ3人とも180cmの巨漢だったので、危ない目にもあわなかった。

何より、1ヶ月にも及ぶお祭りの、フィナーレなのである。
しかも、どちらが勝っても、ニューチャンピオンの誕生。
実にめでたいではないか。
野暮な予想は蛸にでも任せて、世紀の一戦を先入観なしに楽しみたい。
そう思って、楽しく観戦しましたよ。

トータルフットボールの流れが結実したスペイン

両者合計14枚ものイエローカードが提示されたこの試合。
中盤での潰しあいは、とても激しかった。
イニエスタ、シャビアロンソ、ビジャ、シャビ。
スペインの選手が次々とピッチでうずくまる。

各国のリーグも含め、普段から対戦している両国は、危険なプレーヤーに仕事をさせないことを徹底していたんだろう。
前半から後半中頃までは、ポゼッションのスペインと、そのミスを突いたオランダのカウンター、という図式であった。

何だかこういう時って、ちゃんと決めておかないとスペインが負ける展開だよな、とも思ったが、オランダのカウンターにも、最後の最後、精度が足りない。
というか、カシージャスがもの凄く集中していて、決してゴールを割らせない。
特に、ロッベンのシュートを、悉く見切って止めていく。
まさに神がかりだが、レアルのかつてのチームメイトだけあって、ロッベンの癖を知り尽くしていたのか、とも思う。

息詰まるような緊迫感のまま迎えた延長。
執拗なスペインの攻撃で疲れの見えたオランダは、ディフェンスラインが間延びし始めた。
そう。スペインは、準決勝とそっくり同じ戦術を採ったのだった。
ただひとつの違いは、ドイツが後半力尽きたのに対し、オランダは少なくとも90分は持ちこたえた、ということ。

しかし、流石に延長に入ると、オランダの攻撃も単調になってきた。
飛び道具ロッベンの、個人突破頼みである。
ファンペルシーが不調な攻撃陣は、迫力を欠いていた。

スペインは、遠目から撃てる距離でも、敢えて撃たない。
自分が撃つより少しでも状況がいい味方が居れば、ゴール前でも迷いなくパスを回す。
そういう自分らの良さを噛み締めるように、頑なにその姿勢を貫き通した。
私はそれを見て、感動した。
あ、彼らは、何が何でも勝つことより自分らの美学を貫くことを選んだんだな。卑しく勝ちに行くことを拒否したんだな。
しかしその結果は、ご覧のとおりの見事なイニエスタの決勝点である。

今日のファイナルの結果は、実に示唆的だった。
70年代にオランダで芽吹いたトータルフットボールの流れは、天才ヨハンクライフによってバルセロナの地に移植され、監督として90年代に花開き、今世紀になって結実した。
そのバルサの「教え」を守ってきた21世紀の息子たちは、スペイン代表に、その美しく勝つ精神を吹き込み、今やオランダより「オランダらしい」スペインが、頑なまでに自分らのスタイルを貫き通し、美しく勝った。

そういうことだ。

この意味は、もの凄く大きい。
今後のサッカーの流れが、オフェンシブな方向に大きく向かうからだ。

ヨハネスブルグの街に居ながら決勝戦の会場に居合わせることができなかったのは確かに悔しかった。
でも代わりに、アフリカという地で初めて開かれたW杯を、Waka Wakaを歌う現地のサポーターと共に祝福できたことは、何にも代え難い体験だった。

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