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浅利史花 "Thanks for Emily"、Emily Remler "Blues for Herb"

浅利史花という素晴らしいジャズ・ギタリストがいるというのは、Ulf Wakenius (ウルフ・ワケーニウス) のfacebookへのpost で見て、先週に初めて知った。

ウルフ・ワケーニウスといえばスウェーデン出身のジャズ・ギタリストで、パット・メセニーやビル・フリゼル、ジョン・スコフィールド、マイク・スターンといったギタリストと比べても数年若いくらいのほぼ同世代、あのオスカーピーターソンのバンドでギターを務めた凄腕だ。

彼女は、そんなもう大御所といってもよいギタリストが認めたギタリストなのだ。

2020年の "Introducin'"がデビューアルバム、今年になって "Thanks for Emily" というアルバムをリリースしている。

まずは Introducin'。全編、端正で落ち着いたいい演奏で好感だ。ゆったりと始まる一曲目の"Triste"からなかなか聴かせる。 フルアコのギターのメローな響きが心地よく、王道のジャズ・ギターを堪能できる。

そして、私が大好きなトゥーツ・シールマンスの "Blusette"。口笛こそないものの原曲に忠実な演奏で愛を感じる。

デビュー・アルバムにありがちな硬さは微塵も感じられず、肩ひじ張ったところもなく、リラックスした笑顔が見えるような演奏だと思う。

2枚目のアルバム "Thanks For Emily" も引き続きいい感じだ。 

オリジナルの楽曲とスタンダードの楽曲も両方とも楽しめる。タイトル曲の "Thanks For Emily" から軽やかで聴き惚れる。同年代の若手で構成されたカルテットの演奏はギターを引き立てるいい演奏だと思う。

Thanks for Emily と女性ギタリストがタイトルにあげれば、Emily とは、1980年代に活躍した女性ジャズ・ギタリスト、エミリー・レムラーのことだ。

私は 1985年のラリー・コリエルとのギター・デュオのアルバム "Together" が大好きで当時よく聴いた。

"Thanks For Emily"の2曲目、そして、"Together”のラストを飾るのが スタンダードの一曲、"How Insensitive"だ。


アルバムの最後を飾る "Blues for Herb" もいい。

この曲は、エミリー・レムラーの曲で、彼女を見出したジャズ・ギターのレジェンド、ハーブ・エリスへのトリビュートだ。 

エミリー・レムラーの演奏も動画で視聴できる。ギターはオベーションの限定生産の1984年のコレクター・モデルでのソロで、ブルージーで達者な演奏だ。

エミリー・レムラーは1990年のツアー中に32歳の若さで突然この世を去ってしまった。ウエス・モンゴメリーが好きだったそうで、親指で弾くオクターブ奏法で太い音でソロをとるのが彼女のスタイルだ。

浅利史花のおかげで、先週からエミリー・レムラーをこうして久しぶりに何度か聴いて、懐かしく楽しかった。

現代のギタリストたちと比べるとエミリー・レムラーはまだ荒っぽい感じがあると思う。テクニックをひけらかす感じもないし、決してラフな演奏というわけではないが、スタンダードでもなんでも枠からはみ出す尖がったところが感じられる。この人のギターは熱く、強い力で引きこまれる。

そう思うと、浅利史花のほうは角がとれて整っていて好感だが、ウエス・モンゴメリー、ハーブ・エリス、エミリー・レムラー、そんな流れを引き継いでいることを感じさせる。とはいえ、エミリー・レムラーに感じる強烈な引力はまだ不足しているかもしれない。

これからがますます楽しみな素晴らしいギタリストだと思う。チケット入手が困難にならないうちにライブを聴きに行こう。・・・ひょっとしたらすでに手遅れかもしれない。


■ 関連リンク

本人のインタビューで構成されたいい記事があったので貼っておこう。


トゥーツ・シールマンス。


"Triste" 今回この記事を書くにあたっていくらかYouTubeで他のミュージシャン / バンドの演奏を検索して聴いてみた。

スペイン出身の、ボーカル・トランペッターのアルバ・アルメンゴウとジョアン・チャモロのバンドの演奏が耳にとまった。


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