フランスの凄腕ギタリスト:アントワーヌ・ボワイエ Antoine Boyer
今まで知らなかったのが迂闊、なんで今まで見逃していたのだろう、ととっても疑問なのだが、今年になってすごいギタリストを発見してしまった。アントワーヌ・ボワイエとサムエリート。
まるで、ビレリ・ラグレーン(*1)とパコ・デ・ルシア(*2)の共演みたいだ。向かって左のジプシー・ジャズがアントワーヌ・ボワイエ (Antoine Boyer) と、右のフラメンコがサムエリート (Samuelito)。二人ともは20代後半か、メチャメチャ上手いし、音は溌剌としていて若々しい、ソロも印象的だ。演奏している曲は、パコ・デ・ルシアの曲で、だいぶん昔によく聞いた曲だ。
ヴィヴァルディの「四季」の「冬」を演奏したのも面白い。二人のギターの硬めの歯切れのよいトーンがよくマッチしている。
見事なアンサンブルではないだろうか。
クラシックのオーケストラの名曲をギター一本で演奏するというと、ラリー・コリエルのボレロが元祖だと思う。そのときは、その斬新さに驚き一世を風靡したし、また、ボレロといえば、押尾コータロー (official site) の魔法のような演奏にも目を丸くしたが、そのような歴史を経ることで、最近は自然に楽々と壁を飛び越える人が多いようで、よいことである。
ただ、私にとっての天上の神様の1人:ラリー・コリエルの、「亡き王女のパバーヌ」、そして「春の祭典」や「火の鳥」は、今でも他に追随を許さない斬新なものだと思うけれども。もう手元には残っていないが、日本で1991年に発売されたボレロはジャケットも美しい。
ソロといえば、アントワーヌ・ボワイエのソロ演奏も素晴らしい。YouTubeにあがっていた "Waltz For Debby." これは、短いし、ギターインストに慣れてない人でも聴きやすいはずだ。是非聴いてみてほしい。
奏法としては、トリッキーなところはないが、メロディとバッキング、ボイシングもタイミングも見事に自然で、聴くほどに味わいが深まる。
"All the Things You Are" こちらもいい。
2018年の台湾のジャズ・フェスティヴァルで出会ったというハーモニカ奏者のキム・ヨレとのデュエットは見事だ。動画もいろいろあがっているが、ここでは、チャーリー・ヘイデン(*3) の曲 "First Song"を演奏しているのを紹介しよう。
結婚していたのか!
リンクをクリックするのが面倒な方のために、引用しておく。
それにしても最近、才女が多い(*4)、いいことだ。ついこの間リリースされた 2021年の二人の名義のアルバムは、現代的な感覚の曲が揃っていて好印象。
ジプシー・ジャズをもっと堪能したい方はこちら、若干16歳のときの2012年のアルバム "Sita" を聴くべし。
2017年のグスタフ・ランドグレン (Gustav Lundgren) との、"Accoustic Connection."もすばらしい。
グスタフ・ラングレンも、1980年生まれの若手。これまで知らなかったのだが、この人もなかなか良い。
こうして聴いていると、ジャンゴ・ラインハルトからのジプシー・ギターの伝統、ラリー・コリエルやパコ・デ・ルシア、そしてビレリ・ラグレーンといった先達たちの流れを受けて、今の時代の雰囲気を表現しつつ、しかも肩ひじ張らずにしなやかに自分の世界を自ら作っているような印象だ。昔の若者もそうだったのだろうか。最近の若者にはとんでもない人が多い。
ここからどんな境地を開いていくのだろうか。ますます楽しみだ。
(2022/5/19 追記)
2022/5/14 にYouTubeで公開されていた 10 Counterpoints というのが、これまたよかった。それぞれ1分弱の10曲の短い小品が小気味よく演奏されていて、浮遊感のある和音の響きが流れるようで面白い。
■ 注記
(*1) ビレリ・ラグレーンについては、去年、まったく関係ないトピックのこんな記事の後半に、ちょっと書いている。
この記事中にもリンクしてあるが、YouTube動画の、この曲を聴いていただきたい。スリリングなテーマのユニゾンとソロがかっこいい。
(*2) パコ・デ・ルシア、パコのアルバム「シロッコ」については以前に触れた。
(*2) チャーリー・ヘイデンについて。
(*3) 最近、才女が多い。