マダガスカルの調べ・3:ラコト・ザフィ、ラコト・フラ Rakoto Zafy, Rakoto Flah
35年くらい前、大学生だったころにマダガスカルの音楽に惚れこんでレコードを探して何枚か入手して愛聴した。そのうちの一枚が、 ラコト・ザフィ(Rakoto Zafy)によるヴァリハ (Valiha) の演奏だ。ヴァリハといえば竹の筒の周りに複数の弦が張ってあって両手でつまびく箏のような楽器だが、このレコードジャケットの絵では、半円筒の蓋がついた割合大きい箱の側面に弦が張ってあるようだ。共鳴胴が大きいからか、ヴァリハの音の線が太く力強いく感じる
素朴な音色のヴァリハもいいし、パーカッション、そして合唱、八分の6拍子のリズムがベースで数種類のパーカッションが織りなすリズムも楽しく聴ける。
貴重なレコードかと思えば、デジタル配信で聴けるのだからいい時代になったものだ。レコードのいいところはやはりライナーノートだろう。ジャケットの裏面に解説がびっしりと書いてある。
ラコトザフィは、マダガスカルの首都アンタナナリボの北東約200kmのところにあるアラオトラ湖の近くの出身ということだ。1960年ごろ地元で演奏していたが、ラジオの選考会で勝ち、ラジオの電波に乗って有名になったということだ。1963年には他のヴァリハ奏者とともにロンドンを訪れたという。
録音は1962年、20-25曲を録音したという。リリースされたレコードはそれなりに売れたが、当初、けっこうな金額の印税を払おうとして見つからず、実際に支払われたのは6年後、それは全部飲み代になって数年後に飲みすぎで死んだという説があるらしい。別の説もある。ラコトザフィは音楽に対して非常に厳しかったという。息子のパーカッションの演奏が拙いことに腹をたて殴ったら当たり所が悪く息子は死んでしまった。捕まって刑務所の中で失意のうちに死んだ、という。
ヴァリハは自身で製作しいろいろヴァリエーションがあるらしいが、ジャケットの絵にあるような標準的でない大胆なものも愛用していたようだ。
マダガスカルの民俗楽器でスーディナ(sodina)と呼ばれる笛もある。ラコト・フラという名手の名前は知っていたが、どうしたことか、レコードは購入していなかった。ちょっと検索するのに手間取ったが Spotify とYouTubeで見つけることができた。このジャケットは見覚えがある。
このアルバムは笛の音を中心に楽しみたくインストものの演奏を聴きたい人には少し期待はずれかもしれない。バックの楽器のチューニングや合唱も微妙にピッチがずれていたり、パーカッションも泥臭い音で、フィールド感が満載だ。
残念ながらあまりいい音源が見つからなかった。
ステージでの演奏がYouTubeで見つかったので貼っておこう。ヴァリハとギターと合唱のアンサンブルだ。録音の質が悪いが演奏の様子はよくわかる。
Rossyとの共演もあった。
スーディナは、竹で作られた細い小型の笛で斜めに構えて吹く。インドネシアやフィリピンなど東南アジアにも広く同様の竹製の笛があって、ヴァリハと同様、広大なインド洋の東西で交流があったことが感じられ、ロマンを掻き立てられる。
マダガスカルの音楽の魅力は、対岸の南アフリカやはるか遠い西アフリカの要素とともに、インドネシアなどの東南アジアがブレンドされている、そんな独特の文化が感じられるところにあると思う。
今回、この記事を書くにあたって他にもいくらかマダガスカルのミュージシャンがひっかかってきた。しかし、彼らのようなレジェンドからのつながりは少し昔のミュージシャンが多い。
最近のポップスもひっかけられないか、と Madagascar と検索をかけると、ディズニー映画の曲ばかりがひっかかって探すのが困難だ。なんとかならないものだろうか。
ところで、今回の記事を書くきっかけを最後に記しておこうと思う。
JICA海外協力隊員としてマダガスカルで頑張っておられるtsara_androさんが、ヴァリハとスーディナを習っているという記事を読んで本棚からRakotozafyのレコードを引っ張り出して、改めて調べるなどして、先週からずっとマダガスカルの音楽がヘビロテになっている。
こうやって頑張っている人を見ると応援したくなる。応援といっても「スキ」をそっと押す程度だけれども。
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