ライル・メイズ:"Street Dreams" Lyle Mays
先週の木曜日はパット・メセニーとライル・メイズと題してあれこれ書いたが、ライル・メイズに関してほとんど書く余裕がなかった。
パット・メセニーとの活動が主で、リリースしたオリジナルのソロ・アルバムは1986年から2000年までに4枚だけだが、メセニー・グループでのドラマティックなオーケストレーション、雰囲気を支配するシンセサイザの演奏、そして流麗なピアノ・ソロで強い印象を残しているはずだ。
私の父は、西洋のクラシック音楽しか聴かない、ポップス・ジャズやフュージョンなどの多くは素人芸で聴くに値しない、クロスオーバーなんてたかがしれている、という趣味趣向の人だが、一度、"The First Circle" を聴かせたときがあった。まったく興味なさそうなそぶりだったのが、ライルメイズのソロのところで「お、このピアノはいいな、このミュージシャンだけは素晴らしい」と言った。
流れるような演奏は、流麗とか玉を転がすような、と言ってもオスカー・ピーターソンや小曾根真のような感覚とも異なり、もっと柔らかでしなやかなタッチだ。和音の響きも旋律も常に自然だ。常に冷静で抑制が効いているし、計算されつくした奔放さと自由さを感じる。
ベースがマーク・ジョンソン、ドラムスがジャック・ディジョネット、という私の大好きなトリオでの 1993年 の "Fictionary" を聴くとよくわかるのではないだろうか。
2000年の "SOLO Improvisations for Expanded Piano" は、ライルのソロによる即興演奏だ。
今、ちょっとネットで検索したみたら、次のような素敵な記事を見つけてしまった。
ピアノという、どちらかというと断固とした自己完結的な面がある楽器を使いこなし、最新のテクノロジーを取り入れながら、まるで会話を楽しむかのようにしなやかに自由自在に表現をしていく、そんな印象を受ける。
TEDxのライブもいい。
しかし、真骨頂は、1986年にリリースの自身の名前を冠した "Lyle Mays" そして、1988年の "Street Dreams" だろう。
ソロ・デビューの Lyle Mays は一曲目の "Highland Aire" の美しくリズミカルなピアノのイントロとテーマ、シンセサイザが入り、楽器が重なって音が厚くなっていく展開の楽しさ、再度ピアノとリズムのみのパートになってから再度徐々に盛り上がっていく。エンディングもアイルランドのバグパイプのような音が残って印象的だ。緩急とドラマティックな展開で思わずこちらの顔もほころんでしまう。
アルバム全体のまとまりもいいし、ラストの ”Close to Home" も美しい。
”Street Dreams" は、前半と後半の2部構成、といった趣だ。
当時 LP で購入したので、A面が 前半の7曲、B面がタイトルともなっている "Street Dreams" の 1- 4 で、B面が1-4まで全部通しで聴いて20分ほどの作品だ。
まずは、一曲目の和音一発の出だしから印象的だが、彼のお得意の柔らかく明るくかっちりとしたリズムとサウンドがまずいい。そしてビル・フリゼルのギターがばっちりとあった "August" も、この音に身をゆだねて聴いているだけで心がほぐれていくことだろう。シーケンサで回しているような 3曲目 ”Chorino" も茶目っ気があっていいし、豪華なホーンセクションとドラムスが楽しい4曲目、6曲目も少しもの憂いシンセのアンサンブルをたっぷりと聴かせるし、など、前半はバラエティある前菜で楽しませる感じだ。
しかしなんといっても、後半の"Street Dreams"はいい。シンセの音色とともにビル・フリゼルのギターを全面的にフィーチャーして作られる自由な拡がりを聴かせる音の世界は何度聴いても飽きない。
自分の作品に自分を超える要素を入れて新しい違った何かを創造したいと誰しもが思うことだろう。そんな難しいことを、なんとしなやかに軽々と作ってしまうのだろうか。いや、自分を超えるなんて考えてもみなかったよ、好きなミュージシャンを集めて好きなことをしたかっただけさ、と言うだろうか。
2020年2月に天国に旅立ってしまった。遺作のシングル "Eberhard" が去年リリースされた。コーラスも美しい。
ライル・メイズはしかめっ面は似合わない。弾ける笑顔も似合わない。いつも静かにいたずらっぽく笑っている。そんな感じの音楽が私は大好きだ。
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