ジェリ・アレン:Geri Allen "A Lovesome Thing"
現代ジャズギターの帝王とも言われるカート・ローゼンウィンケルが2012年にピアノのジェリ・アレンとパリでライブ録音したというアルバム "A Lovesome Thing" が近々リリースされるらしい。先行シングルがリリースされた。
"Open-Handed Reach" まずは聴いてみてほしい。ぴったりと息のあった演奏で、リリカルな旋律と和音が溶け合って素晴らしい音楽が奏でられている。
カート・ローゼンウィンケルのギターの音色は、いつもよりサスティンを抑えていて少し暗めの音色がジェリ・アレンのピアノとよく合っていると思う。
最初にジェリ・アレンを知ったのは、1988年、その年にリリースされた "Etudes" だ。ベーシストのチャーリー・ヘイデンのアルバムで、ドラムスはポール・モチアンのトリオだ。
1984年に27歳でデビュー、1987年の "Open On All Sides - In the Middle"も美しいジャケ写とともに評判になっていた。ゴツゴツした感じの硬い音とタイミングのピアノでハービー・ハンコックによく似ているという印象で大好きだ。
一曲目の "Lonely Woman"はオーネットト・コールマンの曲だが、本家の演奏がかすむほどの名演奏ではないか、と個人的にとても気に入ってよく聴いている。ポール・モチアンの "Fiasco" や "Etude" チャーリー・ヘイデンの名曲、"Sandino" もいい。そして "Silence" も素晴らしい演奏だ。
このトリオは、"The Montreal Tapes" という1997年のライブ・アルバムもいいし、2008年に "Segment" というアルバムもリリースしている。どれも素晴らしく気に入っている。
エスペランザ・スポールディング(b) とテリ・リン・キャリントン(ds) とで組んだ ACS トリオも評判だった。どういうわけか音源がリリースされてはいないようだが、YouTubeでライブがいくらか視聴できる。
リーダーアルバムは 2, 3 年に一枚くらいのペースで20枚ほどリリースしていて、どれも良いが、今回改めて聴いて特によかった2枚を紹介しておこう。
まずは、2013年の "Grand River Crossings"
自身のホームタウンであるデトロイト、そしてモータウンをテーマにした作品ということだ。基本彼女のソロ・ピアノで展開され、5, 7, 15曲目の3曲で Marcus Belgrave のトランペットと 10曲目の "Itching in My Heart" でDavid McMurrayの サックス を迎え、スモーキー・ロビンソンの "That Girl" やビートルズの "Let It Be" も演奏しているなど、どの曲も明るい楽しい演奏だ。
もう一枚は、1998年の "The Gathering"
このアルバムは、トランペットにウオレス・ルーニー、トロンボーンのロビン・ユーバンクスを迎え、3曲にリヴィング・カラーのギタリスト、ヴァーノン・リードが参加しているのが目を引く。
スピード感ある2曲目の "Dark Prince (For Wallace)"、緊張感あるタイトな演奏の中盤からヴァーノン・リードのエレクトリックギターが暴れるこの曲はいい。
ドラムスはチック・コリアのリターン・トゥ・フォーエバーのレニー・ホワイト、どの曲もシンバルが派手で、カシャーン、ガシャーン、ガラ・ガラ・ガッシャーン連発でこれも好印象だ。最近、若手のタイトでカッチリしたドラムスばかり聴いていたから、やはりこういうのは改めてほっとする。そして、ポール・モチアンとチャーリー・ヘイデンの "Etude"もよかったけれど、彼女のピアノは、こういう派手なドラムスがまたよく似合うと思う。
このころから、最初のころのゴツゴツした印象から明るく華麗な演奏に変ってきているように思う。
ジェリ・アレンは2017年に癌で亡くなっている。もう彼女の新しい演奏を聴けないのかと思うと寂しい限りだが、未発表の音源がこれからもリリースされるのではないだろうか。
カート・ローゼンウィンケルとデュエットのアルバム "A Lovesome Thing" は11月24日にリリースされるらしい。楽しみだ。
■関連 note 記事
ACSトリオのテリ・リン・キャリントンについては、以前に個別記事で書いた。
この中でACSトリオについても少し触れている。あと、エスペランザ・スポールディングの記事を書けば、ACSの全員となる。そのうち書く。
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