火曜日しばらく雑記帳・23:キムさんの思い出
活動することと活動する自己を知ること、事象との接触にはいりこみ事象をそれこそ生きること、(略)事象のもつ重要度にもっぱら応じてそのようにすること、これが人間知性の機能なのである。
(ベルクソン「創造的進化」p.230 )
■先週の雑記帳からリンクしたドイツのヨセフさんの記事で、ヨルダン出身のヨセフさんは公共の空間で寝ることができない、ということを書いていたが、Kikko_yy さんからも、ご自身が飛行機で熟睡できないタイプだ、とコメントいただいた。
Kikkoさんの以前の記事で、こちらがとても印象に残っている。ほほえましい写真もたくさんあるし夢と現実が交錯してご本人の複雑な心情が伝わって来る何度読んでもいい記事だ。
私はそれほどの long-haul の経験はまだない。ただ、どこでもいつでも寝ることが出来るタイプなので、国際線のときは時差が合うように寝ていた。たとえば、日本からヨーロッパに向かうときは、午前に日本発の便ばかりだったので、前半、最初の食事の後にすぐに寝てしまう。4-5時間程度寝ればヨーロッパの午前に目が覚めて午後2時くらいに到着する。ヨーロッパから日本に向かうときは、午後にヨーロッパ発の便ばかりだったので、後半に寝る。目覚めると日の出前ちょうど2回目の食事・朝食の前になる。
私は、映画を見ないので機内のエンターテイメントはほとんど利用することなく、ずっとフライトマップを表示していて、起きている間はそれを楽しんでいる。3Dのマップが多くなってから楽しさ3倍増だ。地球は丸く、地平線の向こうから川や山や海そして都市が表れてくる。そして、それを目の隅で見ながら、たいていは読書するか仕事しているかして過ごしている。しかし、事前に妄想しているほどに進捗はよくない。
もちろん寝ている間に夢を見ることもよくある。乗っている飛行機の片側エンジンが火を噴き、高速道路に不時着・・・目が覚めしばし呆然身動きもできず、暗い機内、静かなエンジンと空調の音、高度1万mの巡航を確認して徐々にほっとした、というのがなかなか強烈ではあった。
実際、私は寝過ごしの名人である。25年くらい前だっただろうか、大阪の京橋で同僚とさんざん飲んだけれども、終電にはまだまだ余裕の22時すぎの出町柳行きの急行に乗って京都に帰った。けっこう混んでいたので窓際に立っていた。京橋から出町柳まで急行なら55分くらいである。
「終点ですよ」車掌さんに肩をゆすられてふっと我に返ると、守口市、京橋から急行で1つ目の停車駅である。車内はガランと誰もいないし、首をひねって窓から駅の時計を見れば深夜0時をまわっている。慌てて降りると広いホームには誰もいない。
そうなのだ。知らぬ間に寝てしまい、しかも、いつのまにか座席に座り、京都の出町柳で折り返して大阪にもどってしまったのであった。京都方面行の終電などもうとっくに出たあとだ。
しかたないのでタクシーで自宅に帰った。関西のタクシーは5000円を超えると、超えたぶんを半額、というのをそのころからやっていたはずだ。大阪ー京都で17000円くらいの料金が11000円くらいで収まったが、泣くに泣けなかった。
まぁ、常習犯なので、この手のエピソードはいくらでもある。幸い、大事に至ったことはない。今年もすでに1回、3月にやらかしている。上野で飲んだ後なんとか終電をつかまえ東神奈川で首尾よく横浜線に乗り換え、あと3駅で新横浜・・・なのに結局、2駅寝過ごしてタクシーで新横浜の事務所に戻った。油断してはいけないし、最後の最後まで気を抜いてはいけない。どんなことであれ、最後の詰めが肝心なのである。
そういえば、韓国出身米国籍で日本に住んでいた画家の金善東(キム・ソンドン)さんは、大阪で夜通し飲んだ明け方、梅田から京都は河原町行の阪急電車、始発の特急に乗ったそうな。ふと寝てしまって気が付いたら高槻市を通過している。まだ着かないのか、とまた寝入って、ふと気が付いたらまた高槻市を通過している。
「何べん目ぇさましても、高槻市なんや!」
要するに梅田ー河原町の間を何度も往復していたらしい。午後には京都の家へ帰れたとのことである。
■ 一昨日に書いたベルクソンについての記事で、知性は行動の選択肢を飛躍的に広げることが出来ることで困難を乗り越える能力を拡大したのだ、というようなことを書いた。実際、私たちは日々の行動の際にさまざまな選択肢のなかから、意識的にか無意識的にかに関わらず、可能な行動の選択肢の中から選んで行動する。どのような法則で行動するのか、最適なアルゴリズムはあるのだろうか。
ちょうど、今読んでいる洋書、Brian Christian とTom Griffith の "Algorithms to Live by" の "Explore & Exploit" の章を読んでいた。
例えば外国に14日間の観光旅行に行ったしよう。
最初の12日は、毎日知らないお店にいろいろチャレンジする人は多いのではないだろうか。確かに口に合わないリスクはあるけれど、そこが旅の醍醐味ということで、ガイドブックで有名店や名物を調べ、口コミを集め、現地の友人のお勧めをききガイドしてもらい、など、少々コンサバな人でも幅広く経験を求めようとするだろう。
しかし、最後の2日間とともなるとあえて新しい店にチャレンジすることもなく、名残惜しみながら、その中で一番よかったレストランへ再訪することになるのではないだろうか。
もちろん、現地のローカルのレストランをできるだけ訪問することを目的にしているとして目標を果たせず最後の2日間も行けなかった別の店にせっせと行くかもしれないし、ビジネスが目的で食文化には興味なし・最初から冒険せず知っているところにしか行かない、ということもあるかもしれない。いろいろなケースはあるから決めつけるわけにはいかないし、実際は、なかなかそんなこともないのだろうが、なんとなくわかる気がしないだろうか。
それが Explore & Exploit つまり、探索と収穫、といったらいいだろうか、そのバランスは、あとどれだけの時間が残されているかによって決まってくるということだ。
いろんなジャンルの古今東西の音楽を手当たりしだいつまみ食いして探索していた若者が年をとると懐メロばかり聴くようになる、ということの合理性のことである。
可能な運動・行動について、より多くの選択肢をもつほうが環境の変化をも含む困難を乗り越えるには都合がいい。より多くの選択肢を探索して備えつつ、決めるべきときに決める。そのバランスをつくのが知性の働きだ。
■先週のパスタは、カッペリーニ。エンゼルヘアとも言われる細いパスタで2分茹で、これまででも何度か食べてきたが、繊細で扱いが難しいよな、と、これまでちょっと敬遠気味だった。日本では冷製がポピュラー、でもイタリアで冷製はありえない、ヨーロッパに出張した折も食べたことないしな、そんなところもひっかる。けれども、冷たい細いパスタは口当たりよく、ばっさりと噛み切れる歯ざわりもよく、作るたびごと、だんだん fall in love。
少し変化球といえば、バターチキンカリーのグラタン。
月曜と火曜は川崎のラボに出社予定にしてたので朝いちに弁当を作ったものの、両日とも予定変更でリモートワーク。新横浜の事務所でPC画面とにらめっこしながら弁当を食べた。
■先週にひっかかった音楽をいくつか。
1.アフリカ出身で世界で活躍中のジャズギタリストのリオネール・ルエケと、フランスのDJ・ジャイルズ・ピーターソンがリリースしたハービー・ハンコックの有名曲 "Watermelon Man Version"がなかなか斬新な音作りでよかった。
リオネール・ルエケのことは以前に書いた。
2.アメリカのギタリスト、ジュリアン・レイジのシングル、”Chavez"もよかった。
シンプルなリズムセクションのうえに軽快に、でも、外れそうで外れない、聴きなれているようで新しい、そんな不思議な感覚のソロが軽快に乗って最後まで突っ走る。
今年になって新曲がリリースされていて現時点での4曲入り EP がこちらだ。そのうちフルアルバムがリリースされることだろう。
3.ウエイン・ショーターのサックスと ds にテリ・リン・キャリントン、b, vo にエスペランザ・スポールディング、という私が愛してやまないリズムセクションと、p にアルゼンチンのレオ・ジェノヴェーゼというカルテットでの2017年のデトロイト・ジャズ・フェスティバルのライブ盤がリリースされた。聴き惚れる。
ウエイン・ショーターといえば、マイルスの黄金クインテットのメンバーの一人だし、ウエザー・リポートでの活躍や、ソロアルバムもいい。
ソロから一枚だけ選べ、と言われれば、1975年のミルトン・ナシメントを迎えた "Native Dancer" だろう。
4.エスペランザ・スポールディングも愛しているミュージシャンの一人だ。素晴らしいベース・プレイヤーであるとともに、ボーカルもいいし、曲もいい。そのうちにまとめて思いのたけを語ろうと思っている。
オフィシャルのビデオクリップが素晴らしい "Black Gold" を選曲しておこう。世界中の人に聴いてほしい。特に曲が始まるまでの 1分30秒ほどの、黒人男性と子供2人との会話は味があっていい(*1)。
5.イスラエルのシンガーソングライター Noga Erez (ノガ・エレズ)、アメリカのバンド・Weezerとのシングル, "Records"が新着、なかなか悪くない。
時代をリードするカリスマとも評されているようだ。
新しいカリスマ、ノガ・エレズ待望の2nd。現代社会が求め続けたアーティスト│Musica Terra (musica-terra.com)
ビリー・アイリッシュに似たところがあるだろうか、現代の感覚のミュージシャンだ。
6.先週紹介したトランペットの Fabrizio Bosso (ファブリッツィオ・ボッソ)のつながりで、イタリアのピアニスト、ジュリアン・ オリヴァー・マッツァリエッロがなかなかいい。
綺麗なジャケ写もよく、先週からよく聴いている。
2014年の "Tandem"。
2016年の "Non Smetto Di Ascoltarti"
■最後に、いつも通りjogging の進捗だけ記しておこう。
まだまだ日中は暑いとはいえ、朝晩はぐっと涼しくなり、ジョギングもだいぶん楽になった。セミの声もまばらになってきて、気の早い桜の木など、茶色くなった葉が落ち始めている。夜、開け放した窓から秋の虫の声も心地よく、少しづつ秋の気配を感じているところだ。
それにしても、火曜日、相変わらず書ききらない。
■注記
(*1) 聴き取り怪しく恥ずかしいのだが、勉強のために書き起こししてみた。どうしても聞き取れないところもあるし間違っているところもあると思うのだが、だいたい言っていることの意味はわかると思う。(間違いは、優しくコメント欄で指摘していただければ、と。)