カート・ローゼンウィンケル:Kurt Rosenwinkel "CAIPI"
現代ジャズギターの皇帝とも言われるカート・ローゼンウィンケル、私が知ったのはたぶん2014年ごろだから比較的最近だと思う。2010年のアルバム "Our Secret World" の中の一曲 "Zhivago" を YouTube 動画で見てファンになったのだと記憶している。
動画で見てわかるとおり、このアルバムはポルトガルのビッグバンド "Orquestra Jazz de Matosinhos" との共演で華麗な音作りが楽しい作品だ。カート・ローゼンウィンケルの華麗な旋律のソロもいいし、サステインが効いた独特の音色が際立つ。最初、私はパット・メセニーが愛用のギター・シンセのサウンドかと思ったがそうではないようだ。
ちなみに彼が使っているギターは日本の渋谷にあるギターショップ Walkin' が手掛ける手づくり Westville ブランドのギターだ。最近内外のギタリストが数多く使っている人気のブランドだ。
もっとも、最近は、YAMAHAのギターを使っている映像を多く見かける。
どちらかというと人工的な感じの無機質な音ではあるが、私の理解が正しければ、特別な鳴りのギターを使っているわけではなく、また、モデリングやギター・シンセのようなトリックを使っているわけではなく、エフェクターとクリーンなアンプで音を作っているようである。
ネットで検索するといくらか記事が見つかる。
最近はこのような音を聴くことが多いような気がするが、当時はかなり新鮮に思えた。
デビューアルバムは 1996年の "East Coast Love Affairs" 当時ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジでのクラブでの演奏のライブ録音らしい。ベース、ドラムスとのトリオ演奏で、ストレートなジャズの演奏を楽しめる。
ちなみに、このトリオのベースは、以前に取り上げたことがあるイスラエル出身のベーシスト、アヴィシャイ・コーエンだ。
2003年にはラッパー・プロデューサーのQティップと共同で DAW (コンピュータを使ったデジタル作曲・演奏環境)によるアルバム "Heartcore"を発表している。私はこのアルバムは聴いていなかったのだが、今回聴いてみた。
なかなか悪くない。ただし、この方向を追及することはなかったようだ。
最近では、ブラジルのペドロ・マルティンスが参画した 2017年の Caipi が気に入っている。このアルバムはよく聴いた。
カート・ローゼンウィンケルのギターはシンセのような無機質な音だと上に書いたが、なんとなく人の声が重畳しているような音でもあって、そこが不思議な魅力を出していると思う。それが、この Caipi を聴くとなるほどこういう音を求めていたのかもしれない、と妙に得心がいく気がした。
ペドロ・マルティンスの宙に浮くようなボーカルの乗った浮遊感のある楽曲に、カート・ローゼンウィンケルのギターの音が絶妙に合っていると思うがどうだろうか。
2021年には全曲オリジナル曲でピアノをソロで演奏した "Plays Piano"、2022年にはショパンの楽曲をカルテット編成で演奏した "The Chopin Project"、今年に入って原点を確認するかのようなギター・ソロアルバム"Berlin Baritone" と立て続けに意欲作を発表している。
ちょうど、この5月2日と3日、このThe Chopin Projectで来日してブルーノート東京で公演をしている。残念ながら日どりが悪く行くことができずに残念だった。
アレンジおよびピアノはスイスのピアニスト、ジャン・ポール・ブロードベック、さっそく follow しておいた。
最近、エメット・コーエンとのライブレコーディングが YouTubeで公開されている。スタンダードの演奏を映像つきでたっぷりと楽しむことができるのでこちらもおすすめだ。
特徴ある音色で一世を風靡しつつ、超絶技巧を見せつけるわけではなく、奇をてらったコンセプトを提示するわけでもなく、堂々とストレートに弾ききる風格のあるスタイルでその風貌もあいまってまさに皇帝の風格、1970年生まれというから、これからますます期待できるミュージシャンだと思う。
■ 2023/5/8 追記
Facebook の Walkin' 公式から日本公演レビューが投稿されていたのでシェアしておく。く。。。行きたかったなぁ。
■補追
実は私は、しばらく「クルト・ローゼンヴィンケル」と呼んでいた。アメリカ出身だし、カート・ローゼンウィンケルというのが正しい名前の発音だろう。第一印象は今でも生きていて、文字を見て頭の中で一旦クルトと読んでカートと読み直す、そんな感じだ。私としたことが。
とはいえ、最近この何年かはドイツのベルリンを拠点にしているらしい。ひょっとしたらクルトと呼ばれているかもしれない。
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